1.葛の驚異的な生命力
葛って実はマメ科最大の植物なんですね。
アジアの温帯原産と言われていて、マメ科のつる性多年草になります。
複葉と呼ばれる3枚の葉っぱで出来ている10cmから15cmの葉っぱを付ける葛ですが、藤の様に、房状の花を咲かせます。
色は紅っぽい紫色で、とても良い香りがするので、香料にも使われることがあります。
7月から9月に掛けて花を咲かせたら、今度はマメ科植物らしく青々としたさや状の豆を成らせます。
マメ科最大の植物と言われるだけあって、葛の生命力は物凄いものがあります。
その土地が荒れていようとお構いなしに、ずんずん増えていって、あっという間に当たり一面が緑色の葛の葉でいっぱいになるほどです。
稀に、絡みついた葛に日光と栄養を取られてしまって枯れてしまう木もあるそうです。
そんな繁殖力の強い葛ですから、当然根っこも相当な範囲に広がります。
根が広がれば広がるほど、荒れた土地が耕されていきます。
更に、マメ科の植物の特性として、根っこには窒素を沢山含んでいる根粒バクテリアが住んでいるので、葛の根が張った土地はだいたいが肥えた土に変わっていきます。
2.世界の広範囲に分布する葛
葛の始まりってご存知ですが。葛は国栖村(くずむら)という地域から始まったそうで、この地域名を文字って葛という名前になったというのが専らの話です。
国栖村は、奈良県の吉野地方にありますが、国内でも一、二を争うほどの品質の良さで、葛村の葛は「吉野葛」という名前で国内に広まっていきました。
また、葛の産地は吉野だけではありません。南は鹿児島から、北は新潟まで。国内の広い地域で生産されています。
最近では、原産地と生産地で分業されていて、原産地は主に奈良と鹿児島。加工する生産地は、鹿児島、奈良、福岡となってるようです。
ちなみに、葛は、日本にだけ生えてる植物ではありません。
東アジアからアフリカ大陸にかけて、広い分布が確認されています。
ですが、日本のように、薬、食品、実用品に至るまで、葛を使いこなしている国を私は知りません。
また、葛の歴史は非常に古いと聞きます。例えば、隣の中国は2200年もの昔から、葛が薬用に利用されてきたのだとか。
日本の場合は記録を遡ると1100年~1300年前には薬として利用されてきたそうで、世間一般に薬として認知されるようになったのは、明治になってからのようです。
もし葛を購入する場合は、製品表示の欄をしっかり確認することをお勧めします。
スーパーに売ってあるくず粉は、吉野葛、本葛と書いてあったとしても、100%が葛のデンプンとは限らないからで、イモ類のデンプンが混ぜてあります。
なので、お菓子職人が葛を使う場合は、生産工場から100%の葛粉を直接仕入れたりしてるようです。
3.葛から葛粉ができるまで
吉野葛などの品質の高い葛粉は、伝統的な製法によって今も作られています。
まず、原料となる葛については、人の手で栽培しても良質な葛粉にはならないそうです。
それが原因で、原料のなる葛の根っこをわざわざ山の奥に入って、人の手で葛の根っこを掘り起こしてるんだとか。かなりの重労働です。
山からとってきた葛粉を、今度は粉砕機を使って細かーくして、繊維が見えるまで砕いていきます。
次に、でんぷん質を取り出すために、砕いた葛の根を水の中にいれかき混ぜます。
そうすると、でんぷん質が水に溶けて乳白色の液体ができあがるので、今度はこれを一晩おいて、でんぷん質を沈殿させます。
沈殿した物を取り出して、きれいな水にもう一度溶かし、また一晩寝かします。
1回目より不純物が少なくなったでんぷん質を、また容器の底から取り出して、きれいな水に再度溶かします。
これを10回ほど繰り返して、出来上がった沈殿物を、今度は2ヶ月ほど自然乾燥させるそうです。
完全に乾いたら、葛粉の出来上がりです。出来上がった葛粉はキメ細かくて真っ白で、吸い込まれるように綺麗です。
ちなみに、吉野葛などの最高級の葛粉は非常に高価ですが、理由は今まで説明したように、出来上がるまで非常に手間で大変なことと、葛の根100kgから、わずか7kg~9kgほどしか取れないという希少性が主な理由です。
4.葛の成分で薬の働きをする成分は?
葛に含まれる薬の働きをする成分は、意外と多いです。
フラボノイド類
ダイゼイン、プエラリン、プエラリン・キシロシド、ダイジン、ゲニステイン、ホルモネチンといったフラボノイド類と呼ばれる成分です。
これらは、ホルモンの補助、血管拡張、神経系の安定に力を発揮します。
サポニン
葛には10種以上のサポニンが含まれています。
サポニンには、肝臓機能の高上、血圧安定、動脈柔軟化、脂質代謝改善といった成人病の予防、改善に効果を示す働きが多いです。
β-シトステロール
β-シトステロールは、免疫力の高上、コレステロールの調整、炎症の改善に力を発揮します。
アラントイン
アラントインは、皮膚組織の強化です。
ピニトール
ピニトールは、肝臓機能高上、糖代謝高上に効果を表します。
以上の様に、葛には多様な成分が含まれています。これ等の成分によって期待できる、健康を改善する効果は次のとおりです。
血液浄化の効果
血液に含まれる老廃物の排泄をサポート。赤血球、白血球などの血液細胞を強くする効果も認められる。
血行の促進効果
血液の循環がよくなるので、体全体の器官の機能が高まることが期待できます。
体を温める効果
体が温まるのは、葛の成分が新陳代謝を高めて血行を良くするためです。
免疫機能を高める効果
免疫機能が高まる理由の1つとして、免疫細胞が生成されるスピードが上がるからと考えられています。
体組織を柔軟、強靭にする効果
関節や筋肉を柔軟にしてくれる効果、強くしてくれる効果があるそうです。
自律神経を安定させる効果
自律神経を安定させる効果が確認されてるそうです。自律神経が安定すると、身体の各器官の働きが向上して、健康に効果的と考えられてるようです。
内分泌機能を高める効果
内分泌腺から分泌されるホルモンのバランスを調整してくれるそうです。これによって、身体の各器官を安定して制御できるそうです。
老化防止の効果
老化の原因とされる活性酸素、老廃物の排泄をサポートして、代謝を高上させてくれるそうです。これにより、アンチエイジング効果が認めらるとのこと。
炎症を治める効果
葛はオムツかぶれなどに昔から利用されてきました。炎症を和らげる効果が確認されています。
鎮痛効果
葛は昔から鎮痛薬として調合されてきました。鎮痛効果を細かく説明すると、血液を沢山循環させることで患部の酸素を増やし、溜まってる分解産物を身体の外に出すことで、痛みが和らぐそうです。
痙攣を鎮める効果
こむら返り、しゃっくりといった筋肉組織の緊張を緩和する効果が認められています。
血圧を保つ効果
血管の健康状態を改善する効能が確認されています。硬くなった血管は柔らかく、緩んだ血管は引き締まることで、血圧が一定に保たれやすくなるそうです。
血糖値を安定させる
葛には、膵臓の働きを良くする効果があるそうです。それにより、インスリンが増えて血液中の糖度を調整してくれるんだそう。
解毒の効果
葛は昔から二日酔いの薬として使われてきました。葛にはお酒を飲んだときに体内にできるアセトアルデヒドの分解を手助けする効果があるそうです。
消化機能を良くする効果
消化器官の状態を改善して、食べ物の分解、吸収の手助けをするそうです。
肝機能を改善する効果
人間の器官の中でも一、二を争う重要な肝臓に対して、肝機能を活性する効果があるそうです。
腎臓の機能を高める
葛は腎臓にも効能が認められてるそうです。腎臓が活性化すると身体に溜まってる老廃物を体内に排泄する働きが強くなるので、身体が健康になると考えられています。
副腎の機能を高める
副腎は聞きなれない名称ですが大切な器官の1つです。人の免疫を司る臓器で、ここの状態が改善されると免疫力が高まり、アレルギー、感染症に強くなると考えられています。
循環系を改善する効果
葛の血管の状態を良くする効果によって、血液循環が改善されて心臓、血管といった循環機能の働きをサポートするそうです。
この様に、葛には多くの健康に良い成分が含まれているため、多様な効能を発揮する、優れた生薬です。
葛は生薬、漢方薬に分類され、副作用を気にする必要がないため、上薬と呼ばれてきました。上薬は、漢方薬で言うところの、効能があり且つ誰でも安全に使える薬という意味だそうです。
昔は、名医と呼ばれる人達しか上薬を使ってなかったそうです。
葛は本当に昔から人々の暮らしに役立てられてきた薬なので、漢方処方薬だけでも7種は存在します。
具体的には、葛根湯、桂枝加葛根湯。葛根黄連黄芬湯、葛根湯加川辛夷。あと、升麻葛根湯に参蘇飲です。
葛根湯
桂枝湯(桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草)に葛根と麻黄を加えたものです。風邪の初期症状に効果があるとされて、頭痛、鼻水、鼻詰まりを緩和するとされてます。
桂枝加葛根湯
桂枝湯(桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草)に葛根だけを加えたもので、カゼのひき始めや、肩こりなどに用いる漢方薬です。
葛根黄連黄芬湯
葛根、黄連、黄芬、甘草で処方された漢方薬で、急性胃炎、急性腸炎、肩こり、口内炎、不眠症に効果があるとされています。
葛根湯加川辛夷
葛根、麻黄、大棗、川キュウ、辛夷、桂皮、芍薬、甘草、生姜を混合した漢方です。鼻炎、鼻づまり、蓄膿症に使われてきました。
升麻葛根湯
葛根、芍薬、升麻、甘草、生姜で処方された漢方薬です。頭痛、発熱を伴う風邪の初期、皮膚炎に効果があるとされ使われてました。
参蘇飲
人参、茯苓、半夏、陳皮、葛根、桔梗、枳実、蘇葉、前胡、生姜、大棗、甘草を使った漢方薬で、胃腸の状態を改善して、風邪の症状を緩和する効能があるそうです。
5.葛を普段の生活で活用するなら
葛という植物は、根っこ、葉っぱ、花、全てに健康に良いとされる成分が含まれていて、栄養素も豊富です。
特に葛の花には、イソフラボンとサポニンが含まれているので、肝臓の状態を改善したり、アルコールが分解されてできるアセトアルデヒドの分解能力もサポートしてくれると言われてます。
そんな葛の花を普段の生活で利用するには、先ず、採取した葛の花を陰干しにして乾かします。カラッカラになるまで乾かすのがポイントだそうです。
そして、乾かして細かく砕いていき、粉状にして保存しておきます。
飲用するときは、この葛の花の粉を3g~5g、だいたい小さじ3杯~5杯でしょうか。300ccの水に溶かして沸騰するまで過熱します。
そして、常温まで冷ましてから飲んでください。
この葛の花の粉を宴会の前などに予め飲んでおけば、悪酔い、二日酔いになりにくいと昔から言われてま
す。
また、葛の花はハーブティーとしても利用されています。ただし、日本ではなくお隣の中国の広東省になります。ここでは、五花茶という名称で葛の花のお茶がとても人気だそうです。
葉っぱも普段の生活で利用することができます。
葉っぱを絞った汁には、切り傷に効くとされていて、血止め効果があるそうです。なので、昔の人は刃物で切ったときには、葛の葉を取ってきて絞り汁を付けていたそうです。
また、解毒効果も確認されていて、蜂や虻などの毒虫に刺されたときにも葛の葉絞り汁を患部に付けてあげると、腫れがひき解毒効果も期待できるそうです。
葛の弦も普段の生活で利用することができます。弦は入浴剤として使うと効果的なんだそうです。
使い方は簡単で、なるべく太い葛の弦を取ってきて、それを10cm幅で切っていきガーゼで包むかネットに入れて浴槽に入れておきます。
30分ほど経って根っこのエキスが出たら入浴してください。神経痛、関節炎、筋肉の疲労、こり、痛み、血行不良、冷え性、皮膚炎に効果があることが認められているそうです。
根っこは絞り汁を使うという方法もありますが、掘り起こすのが大変なので、葛の根のでんぷんで出来た葛粉を利用すると簡単ですよ。
使い方の例として、葛粉は赤ちゃんのあせも、オムツのかぶれに効果があるとされ、葛粉を直接患部に塗ります。それ以外にも大抵の皮膚炎の症状を和らげてくれることが確認されているようです。
6.葛の花イソフラボンの安全性について
6.1.過剰に摂取しても大丈夫?
葛の花エキスを過剰に摂取した時の、体への影響を確認するという臨床試験の報告があるそうです。
それによると、BMIが30に満たない中年男性被50名を募集して、葛の花エキスを混ぜたお茶を1ヶ月間飲んでもらったそうです。
葛の花エキスの量としては、1日当たり124.8mgだそうです。1日当たりの葛の花エキスの摂取量は35mgと言われてるそうなので、倍以上の摂取になります。
この臨床試験では体への影響を計測するために血液検査、生化学検査、内分泌学検査、尿検査を実施したとのこと。
結果として、試験に参加した男性の9割以上に臨床試験上、影響アリとなる変化は試験前後では見られなかったそうです。
これにより、葛の花エキスを過剰に摂取したとしても健康を損なうといった問題は発生せず、安全性に問題はないという結論になったそうです。
6.2.葛の花イソフラボンを長期摂り続けたらどうなる?
葛の花イソフラボンを長期に渡って摂取し続けたらどうなるのかを確認するための、臨床試験結果があります。
それによると、BMI値が25から30の中高年男女の100名を対象にして、葛の花イソフラボンを溶かしたお茶を3ヶ月間毎日飲んでもらったそうです。
この時の葛の花イソフラボンの1日当たりの摂取量は約35mg/日とのこと。臨床試験での検査は、身体検査、バイタルサイン、血液検査、生化学検査、内分泌検査、尿検査だったようです。
こちらも、被験者全員について、試験前後での有意な変化はなかったとのこと。これにより葛の花イソフラボンの長期摂取については何の問題もないことが認められたそうです。
葛の花イソフラボンは、葛が生来持っている成分で自然由来成分ですし、もし葛にそういった健康上の問題があるのなら、葛粉がこんなに日本の食文化に浸透してるわけないですしね。