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働き方改革でどう変わる?

産経新聞 3/29(水) 7:55配信

 安倍晋三首相が「最大のチャレンジ」と位置付ける働き方改革。28日に決定した実行計画に盛り込まれた施策が実現すれば非正規労働者の待遇は上がり、残業も減るなど日本社会を大きく変えるものになるが、企業側の抵抗感も根強く、実効性の確保が課題となる。

 非正規労働者の待遇を改善する「同一労働同一賃金」の実現に向け、実行計画では、正規と非正規の間に生じている「不合理な待遇差」を改善するための法改正などを行うことを明記した。具体的には、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の3法を改正し、非正規が非合理的な待遇を受けたときに裁判で救済されるよう仕組みを整えると強調した。

 現行では、非正規労働者の待遇に関する企業の説明義務はパートと派遣社員に限られているが、有期契約の社員に対しても説明義務を課すこととした。これとは別に、正規との待遇差については、パート・有期契約・派遣社員のいずれに対しても企業の説明を新たに義務化する。違反した場合の罰則も設ける。また、労働者の経済的負担に配慮して裁判よりも迅速に解決をはかるため、裁判外紛争解決手段(行政ADR)の制度を設けることとした。

 政府は昨年末に取りまとめた指針案で、正規と非正規の合理的・非合理的な待遇差を具体的に提示している。基本給の金額を決める基準を「職業経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」に分類し、職業経験などが同じであれば非正規も同一待遇とする一方、違いがあれば「相違に応じた支給にしなければならない」と正規との待遇差を容認した。会社への貢献に応じ非正規にも賞与の支給を求めたほか、通勤手当などの手当や福利厚生は「同一にしなければならない」としていた。

 実行計画に基づき労働基準法が改正されると残業上限が初めて設定され、違反には罰則が科される。現行の労基法では、労使で「三六(さぶろく)協定」を結ぶと法定時間を超える残業が可能になる。三六協定の残業にも大臣告示で「月45時間かつ年360時間」などの上限が定められており、三六協定に特別条項を設ければ年6カ月まで上限なしに残業を青天井に延ばせる。

 実行計画では、三六協定の「月45時間、年360時間」の残業上限を原則的上限として法定化。繁忙期については、残業上限が(1)1年720時間(月平均60時間)以内(2)2~6カ月の月平均80時間以内(休日労働含む)(3)単月100時間未満(同)(4)月45時間を超えられるのは年6カ月以内-となる。

 1日の勤務時間が午前9時~午後6時(休憩1時間を含む)で月20日間勤務のモデルケースの場合、繁忙期の残業時間は月60時間が平均となるので1日当たり午後9時まで3時間の残業が上限。単月では100時間未満の残業が可能で1日当たり午後11時前まで5時間近く残業できるが、年720時間の上限があるため別の月の残業を約20時間まで減らさなければならない。この月の残業は1日平均1時間強、午後7時過ぎまでとなる。

 「上限めいっぱいまで残業させる企業が続出する」との懸念に対応し、実行計画では残業減の指針を設けると明記した。労働基準監督署は指針に基づき、残業減に消極的な企業への行政指導を強化する方針だ。

 柔軟な働き方を積極的に支援するため、実行計画ではITを活用したテレワークの導入への指針を平成29年度中に改定し、時間管理の方法を明確にするほか、深夜・休日のメール送付の抑制を推奨した。新技術や新規事業の立ち上げにつながるとされる副業や兼業について、合理的な理由がない限り原則認める方針を周知し、企業向けの指針を29年度中に策定する。

 病気治療と仕事の両立をめぐっては、治療に合わせた働き方ができるようコーディネーターの育成・配置を掲げた。主治医、企業・産業医、コーディネーターの3者による「トライアングル型支援」で患者の両立を支える。29年度には不妊治療と両立している人の実態調査を実施。企業向けの疾患別マニュアルも作成し、両立を希望する患者への理解を促す。成長企業への転職や就職氷河期世代などの就職支援を拡大。65歳までの定年延長や65歳以降の継続雇用の延長は32年度まで集中的に支援する。一方、非専門的・技術的分野の外国人材の受け入れについては、日本人の雇用や教育、社会保障、治安などへの影響を勘案して慎重な対応を求めた。

 働き方改革の焦点だった「単月100時間未満」の残業上限規制について、経済界は「現場や業界の実態に合わせて法制化すべきだ」(日本商工会議所の三村明夫会頭)と主張し、中小企業や決算発表直前の財務部門、プラント補修部門など適用除外の業界・職種の拡大を強く求めてきた。しかし、実行計画で新たに適用除外となったのは医師のみで、事実上の“ゼロ回答”。人手不足の中、経済界には厳しい要求が突きつけられた形だ。

 「適用除外が認められないなら、プラント定期補修などは人員を増やして対応するしかない。しかし、コスト増となり、国際競争力の面でどうか」

 経済同友会の小林喜光代表幹事は28日の記者会見で困惑した表情を浮かべた。罰則付きの残業上限規制となれば、違反が発覚した場合、会社や担当者が書類送検される恐れもあり、新たな経営リスクとなる。既に働き方改革で先行している大手企業は「対応できる」との見方は多いが、中小企業にとって上限規制達成のハードルは高い。

 首都圏の企業を対象にする経営コンサルタントは、「大企業が中小企業などの下請けに業務を丸投げする『しわ寄せ』が出るだろうし、それを断れない中小企業は、(残業規定対象外の)管理職者の長時間労働や休日出勤で対応するなどの問題が起きる」と指摘する。さらに、勤務簿などに記録が残らない「サービス残業」を従業員に強いるケースも増えるだろうと警戒する。

 危機感を募らせる日商は「今後、労働政策審議会で、中小企業などの適用除外を求めていく」(担当者)。その一方、中小企業にも「生産性向上などの取り組み強化」(日商の三村会頭)が求められている。(平尾孝)

最終更新:3/29(水) 11:33

産経新聞

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