社説
安保法施行1年 「実績」狙う政府に異を唱えたい
2017年3月29日(水)(愛媛新聞)
自衛隊の活動を地球規模に拡大する安全保障関連法が施行されて、今日で1年になる。政府は法に基づき、南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊への新任務付与などを行ってきた。しかし、憲法解釈を曲げて集団的自衛権の行使を認めた手法や内容への違憲の疑義も、専守防衛を逸脱する懸念も、いまだに何も解消されていない。
繰り返し指摘してきた通り、集団的自衛権行使は憲法上認められないと解釈するべきだ。だからこそ歴代内閣は「保有するが行使できない」との見解を堅持してきた。不行使は戦後の平和外交の根幹であり、一内閣が放棄することは許されない。安保法の廃止を改めて求める。
米国との共同訓練など、政府が安保法適用の実績作りに向けた環境整備を進めていることを強く危惧する。他国軍への弾薬提供など後方支援を可能にする物品役務相互提供協定も中核となる。米国、オーストラリア、英国と個別に結んだ協定の承認案が先週衆院を通過した。今国会で承認を得て速やかに発効させる方針という。軍事作戦上は物資補給を絶つのが重要で、むしろ後方支援が狙われやすいとの専門家の見解もあり、リスク増大を軽視してはなるまい。
法は後方支援の範囲を「非戦闘地域」から「現に戦闘行為を行っている現場以外」に拡大した。戦闘が起きる可能性が高い地域も当然に含まれる。安倍晋三首相は「戦闘が行われれば現場判断で退避、中止する」と強調するものの、他国と行動を共にする中で自衛隊だけが退避できると考えるのは現実と乖離(かいり)している。何より、憲法が禁じる武力行使との一体化の恐れがあると肝に銘じねばならない。
一方、陸自部隊に新任務「駆け付け警護」が付与された南スーダンPKOを巡っては、政府が5月末での撤収を決めた。首相らは「施設整備に一定の区切りが付く」と説明するが、不測の事態を考慮したのは想像に難くない。現地は昨年7月の大規模戦闘以降、治安情勢の悪化が伝えられている。「紛争当事者による停戦合意」などPKO参加5原則を満たしていなかった可能性を、国民に対して率直に認める必要がある。
政府は昨年9月から撤収を模索していたという。事実なら、11月に閣議決定した新任務の付与と同時期に検討していたことになる。派遣部隊が作成した日報には「戦闘」が明記され、緊迫した状況が克明に記録されていた。稲田朋美防衛相らは「法的な意味での『戦闘行為』はなかった」「武力衝突だった」と矮小(わいしょう)化を図るが、隊員のリスクよりも実績作りを優先させたと批判されても仕方があるまい。
一昨年の9月、安倍政権と与党は多くの国民や野党の反対を数の力で押し切り、安保法を強行成立させた。目的が米軍支援拡充による日米同盟の強化にあることは政府も認めている。対米追従一辺倒の姿勢を転換し、平和主義を取り戻すべきだ。