稼働中の原発を止めた大津地裁の仮処分決定から1年。大阪高裁は28日、原発の安全性を強調する関電の主張をほぼ全面的に認めた。滋賀の住民からは「司法の責任放棄だ」「国や電力会社の意向を忖度(そんたく)した」「福島原発事故の前に戻ったようなひどい判決」と厳しく批判する声があがった。
「決定は『新規制基準に適合すれば安全』というもの。新たな安全神話だ。新規性基準に付き従う裁判所の姿勢は残念だ」。大阪弁護士会館で記者会見した申し立て住民の井戸謙一弁護団長(63)は落胆した表情を浮かべた。
決定文は415ページと分厚い。だが、2006年に北陸電力志賀原発2号機(石川県)の運転差し止めを言い渡した元裁判官の井戸さんは「ほとんどが関電や原子力規制委員会の文書の引き写し」と断じた。住民代表の辻義則さん(70)=長浜市=も「大津地裁決定をことごとく否定し情けない。歴史に残る恥ずべき決定だ」と批判した。
今回の高裁決定は、原発の新規制基準や審査に問題があることの立証責任は住民側にあるとした。だが、原発に関する資料や情報は電力会社側に集中する現実がある。辻さんは「今回の決定は市民に重い責任を課した。今後裁判を起こせなくなる」と他の訴訟への影響を危ぶんだ。
申し立て住民の一人で福島県南相馬市から避難している青田勝彦さん(75)=大津市=は「福島の事故の経験者として『あの事故をどう見たんだ』と言いたい。何でもなかったような判断が腹立たしい」と憤り、妻の恵子さん(67)も「司法に良識はないのか」と怒りを込めて話した。
申し立て人で公害問題が専門の畑明郎・元大阪市立大教授(71)=竜王町=は「原発産業が衰退し、台湾などが脱原発を宣言するなかで時代に逆らう決定だ。かつての四大公害では、司法が被害者を救う判断を出した。それを踏襲してほしかった」と注文を付けた。
脱原発弁護団全国連絡会代表の河合弘之弁護士は「脱原発の戦いが終わるわけではない。不当な決定に屈することなく、勝つまで闘う」と力を込めた。
申し立て住民らは、最高裁で住民側に対する厳しい判断が定着する恐れがあるとして、抗告はしない方針。今後、大飯原発(福井県おおい町)の再稼働差し止めを求める仮処分を、大津地裁に申請することを検討するという。
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