英国のメイ首相が29日に歴史的な欧州連合(EU)離脱の交渉を開始するのを前に、ドイツは同国に対する姿勢を硬化させた。
昨夏の英国民投票によるEU離脱決定後、メルケル独首相は理解を示す口ぶりだったが、EU離脱時の支払いや交渉の順序などの問題について強硬な姿勢に転じた。背景の一つに、英国は強硬なEU離脱を求めているとの見方が強まっていることがある。
「我々は英国を罰しても何の利益にもならないが、英国を巡って欧州統合を危険にさらすこともまた何の利益にもならない」と、メルケル氏の盟友であるショイブレ財務相は最近、フィナンシャル・タイムズのインタビューで語った。
「したがって、心苦しくはあるが、我々の優先事項は英国なしの欧州を可能な限り一体に保つことでなければならない」
EUで最大の影響力を持つドイツでの強硬ムードの高まりは、英国での販売と投資に懸念を募らせる自動車産業の強力なロビー活動を受けてドイツ政府は姿勢を軟化させるという英政府の期待に反する。
ドイツの政治的議論が親EUに大きく傾いた背景には、英国のEU離脱を強く支持したドナルド・トランプ氏が米大統領選で勝利したことや、9月のドイツ連邦議会(下院)選挙を前に、欧州統合推進派のマルティン・シュルツ前欧州議会議長がメルケル氏に挑む首相候補として登場したことがある。
これまでメルケル氏は英国を「できる限り近く」につなぎ留めたいと主張してきたが、移民問題やユーロ圏の経済的緊張、フランスやポーランドの極右勢力によるポピュリズム的なEU批判に直面する中で、ドイツ政府はもろくなったEUの団結の維持を優先課題に位置づけた。
ドイツ政府は、EUとの新たな関係に関する協議に入る前に英国のEU離脱条件を交渉しなければならないとする欧州委員会の主張を支持している。メルケル氏は、将来の取り決めについて話し合う前に、おそらくは大枠という形で離脱の原則的合意をまとめなければならないという見解だ。
これは特に英国のEU離脱時の支払いについて当てはまり、欧州委員会はその金額を最大で600億ユーロとしている。ドイツの財務省は、「(リスボン条約)50条に基づく合意には必ず、英国はEU加盟国として引き受けた財政的責任を尊重するという確約が含まれなければならない」と主張している。
メルケル氏が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の法律専門家で、連邦議会のEU問題委員会のメンバーでもあるヘリベルト・ヒルテ氏は、支払金を巡って決裂すれば、将来の英国とEUの関係に関して合意する「可能性は完全になくなる」と言う。他のドイツ政府当局者や政治家も、双方が満足する合意への障害を強調する。連邦議会でCDUの英EU離脱担当報道官を務めるデトレフ・セイフ氏は、こう語る。「我々は全員、困難な状況になると思っている。良い結果が得られたなら、それは奇跡だろう」