4人目のYMOと呼ばれた男の戦場 松武秀樹さん
- 2017年3月27日
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シンセサイザーと共に歩んできた活動が45周年を迎えた松武秀樹さん
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音楽生活45周年記念企画、CD5枚組の松武さんの全キャリア集大成BOX「ロジック・クロニクル」(ソニー・ミュージックダイレクト/1万円+税)
1981年、シンセサイザープログラマーとしてイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)と活動を共にしていた時期、合間を縫って自身のプロジェクト「ロジック・システム」の最初のアルバムを制作しました。これはレコーディングの際、当時持っていた機材を並べて撮影していただいた写真。カメラマンはヒロ伊藤さんです。
僕がシンセサイザーに興味を持ったのは、70年の大阪万博がきっかけ。万博会場でウォルター・カーロス(現ウェンディ・カーロス)の「スイッチト・オン・バッハ」を聴いて衝撃を受け、後にそれがシンセサイザーという電子楽器で作られていたことを知りました。この後、僕は冨田勲先生の事務所にアシスタントとして入社するのですが、幸運にも入社直後に先生がシンセサイザーを購入。当時でも1千万円を超えていたと思いますが、そんな貴重な楽器を先生は社員にも使わせてくださったんです。僕はシンセサイザーに触れるのが何より楽しくて、夜から朝方まで目いっぱいいじって業務開始まで少し眠るという生活も、まったく苦になりませんでした。
YMOとの縁は、僕が独立後、坂本龍一さんの「千のナイフ」の音色プログラムを手掛けた後、細野晴臣さんが僕の作業現場に見学に来てくれたことがきっかけです。その頃すでに細野さんにはYMOの構想があったものの、納得のいく作品ができていなかったそうで、数日後「電子楽器を使うYMOというバンドをやるので一緒にやらないか」とお誘いを受けたのです。うれしかったですね。
YMOの3人が楽器を演奏する中、僕がシンセサイザーをプログラミングして機械の正確無比な音を走らせ、それが合わさることで独特のゆらぎが生まれる。ある意味、機械と人間のせめぎ合いの始まりでした。
当時のアナログシンセサイザーは音色メモリーもなく、シーケンサー(自動演奏機)にいたっては、1台につき1曲分しかセットできなかった。ライブの舞台には2台のシーケンサーをセットして、1台でメンバーが演奏している間に、僕はもう1台で次の曲の音色を作り、チューニングまで行っていました。
初めてのワールドツアーから帰国すると、日本でもYMOブームが起こっていて、成田がえらい騒ぎで驚きました。YMOの音楽は楽器や音楽性、演奏の面で日本のテクノロジーを世界に見せつけ、「日本人ここにあり」とアピールできたと思います。その時代を音楽に厳しい3人と共に活動させていただいたことは、本当にありがたく、大きな経験になりました。
「ない音」を自分で創造するシンセサイザーは、自分のやったことがストレートに結果として現れる楽器なので、僕にとって鏡のようなもの。最近はデジタルの技術を使ったアナログ回路のシンセサイザーが見直されています。原点に立ち返り、まだ見ぬ音を今後も追い求めていきたいですね。
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まつたけ・ひでき シンセサイザープログラマー、音楽プロデューサー。日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ代表理事。1951年東京生まれ。71年より冨田勲のアシスタントとして、モーグ・シンセサイザーによる音楽制作を始める。イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)にプログラマーとして参加し世界ツアーにも帯同。多くのアーティストの録音にかかわりながら、81年より自身のユニット「ロジック・システム」を始動し、現在も意欲的に音楽活動を行う。2017年第20回文化庁メディア芸術祭功労賞受賞。
◆松武さんの音楽生活45周年記念の全キャリア集大成BOXが発売中。純粋電子音楽からCM、ポップス、ロック、歌謡曲、映画サントラなど多岐にわたるジャンルで活動してきた音楽人生を振り返るアンソロジー。「RYDEEN」(YMO)、「傷だらけのローラ」(西城秀樹)、「モニカ」(吉川晃司)、「リバーサイドホテル」(井上陽水)など、多くの楽曲を収録。4/28~4/30に恵比寿のKATA(LIQUIDROOM 2F)で松武秀樹の音楽人生を振り返る特別展『LOGIC EXHIBITION』を開催予定。
「インストゥルメンタルでも多くのチャレンジをしているのですが、特に80年代から90年代の日本の音楽がピークに向かう勢いのある時期、様々な歌の世界を表現する音を作っていたころはまさに闘いの日々でした。中でも大滝詠一さんの『ナイアガラトライアングル』と松田聖子さんの『SWEET MEMORIES』は印象深い。大滝さんの曲は、そのシチュエーションを表現する効果音を作ることに悩み、聖子さんの曲では、外は寒いけど家の中は暖かいという冬の季節感を出すのに試行錯誤しました。初収録や実験的な曲もたくさん入っていますので、シンセサイザーの魅力を味わっていただけたらうれしいです」
(聞き手:田中亜紀子)