株式会社ガレージフィルムは、清涼飲料水のCMでおなじみのQoo(クー)をはじめとして主にテレビ・コマーシャルのアニメーション、CG、VFXの制作、演出を数多く手がけている。

このたび、TBS DigiCon6アワードへの応募がきっかけとなり(最終ノミネート作品に選ばれる)、その作風からBS-TBSのオープニング及びクロージング映像の制作を依頼されるにいたった。

そう、同局の一週間の番組の始まりと終了時に登場するミニチュアシュナウザー犬のあの映像。モデルととなったミニチェアシュナウザー犬の飼い主でもある山本浩氏(同社代表)は、業界26年の大ベテラン。
犬の他にも音楽や植物など多彩な趣味を持ち、趣味と仕事の境界線が全く感じられないバイタリティーとタレント性に溢れた人物であった。

ガレージフィルムは、主に大手企業のCMの映像作品など手がけてきた企業だ。
今回のBS-TBSのオープニング&クロージング用映像制作のオファーはかなりのレアーケースだった のではないだろうか。

「この業界に26年いて、コマーシャルベースで仕事に関わって来たのは何千本 となくありますけれども、”なんでもいい”という かなり自由なお題をいただいたのははじめてでしたね。

じゃあどうしようかなあということで、考えました。うちの会社では、 少し仕事に余裕が出来ると、若者の腕試しで、練習用に自主作品みたいなものを作らせているんです。

今回のオーダーはそんな関係に近かったといえば近かったですね、お題がないんで。

でも、今回は、公共の電波に乗るということもあり、うちでは一番技術の高い人間にやらせたんです。
45秒という尺2本をあの短期間でやるのはかなりの奇跡ですね。
おまけに画質がハイビジョンですから。

もともと大学で電気科を専攻していたぐらいですから、私は絵が描けないんです。

だから字だけ書いて、次の日ハイって渡す。すると、そんなの尺に入らない。無理ですよって言われるんです。 それを僕は、やれよ、できるからって。
喧嘩ですよ本当(笑)

時間との戦いですから、ワンカットに三日以上かけたら無理だなあということで、 やっても一日だろうって。トライ&エラーはあと二回までみたいな制約の中での制作でした。
なにしろ、とにかく納期に間にあわせなければならないわけですから。

でも、今回の作品では映像の質感みたいなものを見せたいということでもないから それでもいいかなあって。
今回の仕事は、一個でもキャラクターの特徴付けができてればいいなあと思ってたんです。 冒頭のハミガキのカットから作ってったんですが、それだけでも笑えたから、ああ、大丈夫だって思いました。

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制作の際に一番の苦労した点が 作品の最大の”こだわり”だったりするのではなかろうか。

「声ですよ。声。絶対的に声ですよ。
どうしよって最後まで悩みまして。
”おはよう”を犬がしゃべったらどうなるのだろうと考えるわけです。

うちの犬が”こんばんわ”に近い音声を発するときがあるんです。
例えば犬は、母音の“ア”とか、“オ”とかは言えてるように聞こえるんですよね。
あと絶対言えないのはサシスセソ。 それでどれだったら犬に言えるのかを組み合わせで考えたんです。
濁音入れて、”オバヨン”なら言えるかとか いろいろ考えるわけです。

ビデオコンテの時は、僕やスタッフがやってましたけど、
上手な声優を使おうとか考えて。あとはSEさんに本物の犬の声を鳴き声を渡して加工をお願いしました。
あと、犬の声が寂しすぎて実現しなかったんですけど、うちの犬の遠吠えを録って来て音を作ろうとしたことも ありました。

トーキングモジュレーターというエフェクターを使うとできるんですよ。
山ほど録りましたね、 そうしたら犬の声でも”おはよう”って聞こえました。 犬のつもりでちゃんと発声しないで、カタカナでいっぱい”おはよう”に近いものを考えて、
声優の方にお願いしたんだけど、その人が面白い人で、だんだんテンション高くなると、”おはよう”って普通に言っ ちゃってるんですよ。
それがバカ受けで。 で、結局、”おはよう”でいいやってことになったんです。
最後まで犬の声については悩みましたね」

モデルとなった愛犬の名前はボノという。
その名前の由来は、曙のようにでかかったのと、ミュージシャンのU2のボノをかけたのだそうだ。 かくして愛犬ボノは、BS-TBSの電波に乗って、メジャーデビューを飾ることとなる。

山本氏は、業界26年の大ベテランだ。
印象深い質感の映像のCM作品をすでに多く残している。 そんな彼が、今後どんな形の挑戦を行ってゆくのだろうか。

「アメリカのピクサーっていうCG会社が、コマーシャルとか短い尺のもの 作ってて、あるとき長編作るぞって覚悟でそっちにいったのがちょっとわかるんですよね。
お題がなくて、作ってくれっていった瞬間にそっちいくんですね。
45秒とか1分とかってってなると、ただの事象ということだけではなくて ちょっとお話作らなくちゃいけなくて、起承転結とかも必要になるんで。 そういうのが、少しずつ長編になってゆくんだろう なって。

とても映画とかみたいに2時間とか作る体力とかはないんですけどね。 ちょっとずつ伸ばしていこうと。 そういえば、この前アカデミー賞取った「つみきのいえ」の彼も意外と近いところにいるんですね。
彼の同僚が、もともとここにいましたので。 凄い近い人間が赤い絨毯の上を歩いているという のがなんだか不思議な感じでしたね。
あ、そうだ、アカデミーを狙ってたんだ。はじめて打ち合わせした時に CG担当ががアカデミー賞狙いますって言ったから どうぞどうぞって、二週間しかないけど」(笑)

最後に、若手クリエイタへのメッセージをお願いしました。

「本業以外のことをたくさん経験してほしいなあと思います。
僕は、相当、多趣味で、深く広くな方なんです。
でも逆に、映像のこととなると、ほとんど勉強してないんですよ。 趣味と言えば、まず犬。
今は3匹飼ってまして、犬の世話ばっかりやってます。それと時間がある限り庭いじりばっかりやってます。 そのおかげで花とか植物詳しいですよ。

それだけじゃなくて、バンドもやるし、車も大好きだし。 持ってるCDでいったら、数えきれないぐらい。クリエイターの皆さん、いっぱい遊んでください。
いろいろなところに首つっこんで欲しいと思いますね。 映像っていうのは、一つの技術で、 続けていればいやでも覚えるようになると思うんですよね。だから、あんまり狭い世界でとどまってないで、 いろんな事知ってた方が後で活かせるような 気がするんですよね。

僕の時代は、歩くしかなかったんで、 どこのお店いったらどんなものが買えるかとか本で調べるしか方法がなかった。 今は、インターネットなどで欲しいものがすぐ見つかるから、そういう経験ができないのは どうなのかなって。
映像で言うところの、”フィルムがビデオになってだんだん手で触れなくなるっていうか”。

手で触るとか、自分の足で歩くとか、汗かくとか、調べるとかそういう事が やっぱり大事なんじゃないかと思います」

(了)

from editor

制約された時間と自由テーマという非常に難しいオーダーにもかかわらず、45秒の作品2本を 短期間に完成させた裏側にはプロとしての経験を元にした冷静な判断があった。

一方で、その 自由さを最大限に楽しむことも忘れない作風はまさに
ガレージフィルム代表山本氏を体現 しているようであり、今後制作されていくであろう多くの映像作品の中でも氏の心意気と出会えることを期待したい。

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