安倍首相は昭恵夫人の証人喚問を迫る小池共産党書記局長に対して、先週末、証人喚問を拒否した。確かに、過去の証人喚問が魔女狩り的な雰囲気を帯びた例は少なくない。被害者にみえる昭恵夫人をそんな場に引きずり出すのは不憫だという人は安倍首相にかぎらず少なくはないだろう。
しかし、証人喚問に登場した籠池森友学園理事長はその態度や正直にみえる語り口で、自分の主張を伝えることに成功した。利益供与を受けた側だったはずが、いまや正義のひとの印象すら醸し出している。証人喚問は、魔女狩りの場というより、正当な主張の場であることを皮肉にも証明した。
なぜ、安倍首相や与党は安倍昭恵夫人の証人喚問を頑に拒むのか。ひとつの解が、3月中旬の財界人らとの昭恵夫人との会合にある。
会合に出席した昭恵夫人は、「日本の教育はまちがっている。森友学園のような学校が必要だ」という趣旨の発言を繰り返し、涙を流し続けたという。籠池理事長(退任を表明している)への心酔ぶりを少しも隠さなかったという。心底、籠池氏を信頼している姿に、出席者は「純真すぎる人」との印象を持ったようだ。
その後、籠池理事長は寄付金のことを明らかにした。昭恵夫人が人払いをしたうえで、「安倍晋三からです」と100万円の寄付をしたと話した。昭恵夫人はこれをフェース・ブックで改めて否定しているぐらいだから、いまは裏切られたと心境は変化しているかもしれない。
しかし、敬虔なクリスチャンである昭恵夫人が喚問など公の席にでてくれば、籠池氏に対する変わらぬ支持を表明してしまう可能性が小さくない。籠池氏を「悪役」に仕立てたい人からみれば、昭恵氏は敵に塩を送ってしまいかねない、ちょっと面倒な証人かもしれない。
だが、週末に日経新聞が実施した世論調査では、森友学園問題に関する政府の説明に納得できないという人が74%だった。納得できるは15%に過ぎない。一方で、内閣支持率は日経調査ではむしろ上がっている。有権者は安倍氏に辞任を求めるほどの事態ではないと思いつつ、これまでの説明には納得していないということだ。
安倍首相は、昭恵夫人に語らせることを躊躇すべきではないだろう。公の席に出させない戦略は、政権にとって正しい事態打開策ではない。
いまは、多くの人は安倍首相が職務権限を使って森友学園に便宜を図ったとは思っていない。しかし、隠そうとしていると思われれば、次第にもっと大きな嘘をついているのではないかと感じ始めてしまうだろう。すでに、週末のフェースブックでの昭恵夫人の文章は官僚作文ではないかとの見方がでている。
はやいうちに素の昭恵夫人に語らせて、国民の納得を得るべきだろう。
■土屋直也(つちや・なおや) ニュースソクラ編集長
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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