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健やかなる時も病める時も共に分け合ってゆこう

作者:玉響朱雀(たまゆら すざく)
はじめましての方もお久しぶりの方も、ご愛読くださりありがとうございます。

今回は二次創作ですのでもとのボカロ『祝福のメシアとアイの塔』を聞いてから読むことをおすすめします。

それでは、どうぞ

暦を読む余裕もなくなってから数年。核ミサイルの暴発から起こった第三次世界大戦によって人類は滅亡の淵にたっていた。

ミサイルの暴発はありえないほどに不自然なもので安全装置や座標設定は全く無視されていた。
あたかも、人ならざる者によって起こされたかのように。

原因など考える間もなく恐慌状態に陥った人類は文明を破壊しあい、気づいたころには人口は最
盛期の 100 分の 1 ほどだった。

自然は破壊しつくされ、放射能によって汚染された土壌から草木がはえ
ることはない。氷河は消え失せ、海は干からび、海水が冷却水の役割を負っていた火山が暴走化。
頻発する地震。

人々が縋ったのははるか昔に絶えた「信仰」というものだった。
そして神々はそれに応えた。

「100 年に一度、〈祝福〉を授けるメシアを指名する。9 人の仲間とともに〈アイの塔〉まで来な
さい」


それから千年後の王国———
初代メシアによって建国された地球で唯一つの国家である。

はるか昔、二ホンという国があったと言い伝えられている島に小さな村があった。
豊かな自然に恵まれ、ささやかながらも平和な日々が流れていた。

健やかなるときも病めるときもただ信じて、ともに分け合っていこう。

そう言い合いながら互いに支えあって暮らしていた。

そしてある日、王国から使者が訪ねてきた。

「私は王国騎士団長だ。この村の針子に用があって参った。」

王国騎士団長と名乗る男は平凡な針子の少女を呼び出した。村のリー
ダーをしていた青年は驚き、村人全員を集めて話を聞くことにした。

村の中央の広場に 10 人の村人が集まった。

「国王様からの使者?それで文官や武官じゃなくて騎士?しかもなんで団長?」

国王の元近衛である剣士は首を傾げた。

「ま、話聞いてからでいいじゃん。」

詩人のつぶやきに周囲が賛同する。

「・・・?」

針子の少女だけは不思議そうに目をぱちくりさせていたが。

騎士団長が業々しい仕草で上質な書状を読み上げた。

「この村の少女に神々より信託が降りた!王国は汝を今代のメシアに指名し、9 人の
仲間を連れ立ってアイの塔へ向かうよう命ずる!」

「え?」
「ん?」
「どゆこと?」
「なんて言った?」
「まじか」
「うっわー」
「メシアか・・・」
「すごっ」

理解していない者、驚きの声を上げるもの・・・聞き取れていない者などいたが肝心のメシアと
いうと・・・

「・・・・・・・・・・・?」

長い沈黙の末、首を傾げた。


その夜

「・・・という風にメシアは神々に授けられた〈祝福〉で世界を救いました。」

幾度も語られた伝説を僧が再び語った。曰く、〈祝福〉はメシアだけが給う栄光で9つ揃えば世界
は永遠に続く、と。

「すごいじゃん!」

双子の姉がメシアの少女をたたえる。しかしメシアの少女は浮かない顔だった。

(もし私が頼めばみんなはついてきてくれると思う。でもみんなの生活の邪魔はしちゃダメだよね・・・。)

メシアはそう考え、明朝早く人目を忍んで一人でアイの塔へ向かうことを決めた。


「お前ら、ちょっと集まってくれ。」

メシアが早めに床の入ったのを認めてリーダーが他の8人を集める。双子の姉は弟と二人して詩
人に起こされてきたらしく大きな欠伸をしている。

「なに?なんかあったん?」

もう船をこぎ始めている妹をつつきながら姉が切り出す。

「実は騎士団長から聞いたんだが・・・


こそこそと大きな荷物とぬいぐるみを抱えたメシアが家から出る。周囲を確認するがまだ夜が明
けていない村に動く気配は見つからない。

「いってきます。バイバイ・・・」

静かに呟いて振り返ると踊り子が眉間にしわを寄せて仁王立ちしていた。

「ぅえっ!?」
驚いてメシアは変な声をあげる。

「ねぇー?こんな朝早くにどーこいくのかな?」
「え、えーー、うぇーーーとぉ・・・。あ、そうだ!野草つみに行くの!野イチゴも!」

咎めるような声色にメシアは思わず後ずさる。ちなみにこの時期に野イチゴはとれない。苦しすぎる言い訳である。

「行くんでしょ?アイの塔。」

いつの間にか村の全員が勢ぞろいしていた。

「でもみんなに迷惑かけたら悪いし・・・。」

メシアが罰の悪そうな表情でうつむく。

「言ったじゃん?どんな時でも共に分け合っていこうって。」

双子の姉が屈託のない笑顔で言う。

「えー違うよ!健やかなる時も病める時もただ信じて、共に分け合ってゆこう、だよ」

踊り子が訂正すると双子の姉は「そうだっけ?」と首をかしげる。

「・・・いいの?」

メシアが遠慮がちに尋ねる。

「お前がいくなら。」

と、リーダー。

「世界の滅び、救っちゃうかー。いいねー。」

と、剣士。

「いくよね?」
「いこぉー」

姉妹も賛同する。

「リーダーが行くなら。行くでしょ?」

僧の問いかけに双子の弟も頷く。

「まー長い付き合いだし。ネタにさせてよ?」

詩人も冗談交じりに賛同。

「皆行くなら恐いことないね」
「ねー」

かるーく踊り子と双子の姉も賛同。

全員が同行することとなった。

メシアは嬉しかった。みんなが一緒なら恐いものなんてない。だっていままでそうだったのだから。


村を出て森の中をひたすら進む。かつての文明が残したがれきが草木に覆われて徐々に朽ちていくのだ。そして草木は木となり、幹を伸ばし、繁栄し、森となった。

かつての痕跡はもうほとんど残されていない。

双子の姉が朗らかに尽きない話をして、姉妹が話の輪を広げながらみんなで歩く。

夜になれば詩人や僧が語る物語に聞き入り、踊り子の舞に見よう見まねで参加する。

剣士が鹿を仕留めて分け合って食べる。

リーダーが地図を広げて、寝入った年少組とメシアと脇で僧が星読みをする。

信頼する仲間のひざ元で眠る。

協力して道中の食糧を調達する。

楽しい旅の日々は駆けるように過ぎていき、メシアは思った。この楽園をつなぐためにも必ず祝福を手にしなければならないと。


長い旅の末、ついにメシアと9人の仲間はアイの塔にたどり着いた。

「ホントにいいの?ここで待っててくれれば私1人で・・・」

「ここまで来たんだから最後まで行くよ。」

メシアの申し訳なさそうな問いかけに軽く剣士が答える。

「健やかなる時も病める時もただ信じて、共に分け合ってゆこう」

リーダーが呟いた言葉に全員が頷いた。


最初の〈祝福〉は〈華やく波〉である。

メシアは緊張した面持ちで祭壇に手を伸ばした。

しかしメシアより一回り大きな手を重ねてリーダーが言った。

「言っただろ?共に分け合ってゆこうってさ」

醜い笑みを浮かべたリーダーは唖然としたままのメシア
を突き飛ばして祝福に手をのばした。

ばたんっ

扉が固く閉ざされ、メシアを部屋からはじき出した。

「なんでっ?!」

メシアの混乱をよそに仲間たちはいがみ合い始めた。リーダーが祝福をもらえたのだ、あわよくば自分も、と。

真っ先に走りだした剣士は〈炎の宴〉にとびこんだ。

「なんでっ?!どうして?!」

すがりつくメシアに目を血走らせて剣を向ける。

「ゴメンね。救世主の仲間より私、救世主の一人のほうが楽しそうだから。」

笑いながら祝福へ手を伸ばすとメシアは再び扉に締め出された。

姉は〈恵みの陽光〉を勝ち取って妹に自慢げに嗤いかける。

「いつも通り行動がのろいからそうなるんだよ」
「もうお姉ちゃんなんて大ッ嫌いッ!」

姉を見捨てて妹は〈安息の闇〉に駆け込む。

いつものように冗談を言い合う姉妹の姿はもうそこにはなかった。


なんで?どうして?選ばれたのは私なのに。皆ならよろこんでくれると思ったのに。

メシアは絶望に暮れて座り込む。

「独り占めなんて許すわけないじゃん。」
「僕もそう思うね」

僧は〈揺蕩う大地〉に祝詞を述べあげ、詩人は〈雷鳴の囃子〉に物語を語りかける。

僧が祝詞を述べあげてくれたのは子供が生まれたときや豊作だったとき。

詩人が物語を語ってくれたのは村の子をあやすとき。

二人ともみんなのために語ってくれていた。それなのに、欲は人を変えてしまうのだろうか。

皆で祝福を奪い合って、我先に栄光を追う。

共に分け合ってゆこうといってくれた仲間はどこにいってしまったのか。
もう仲間ですらなくて敵になってしまった?

・・・忘れなきゃならない過ぎた愛だったの?


〈つむじ風のロンド〉を踊り子が舞う。どこか悲しい舞は素晴らしくきれいなものだった。

涙にかすんでよく見れないのが本当に惜しい。


双子の姉は弟を押しのけて〈白銀の園〉に駆け込む。

振り返った時に見えた歓喜の涙をたたえた笑顔は自虐的な、とても恐ろしいものだった。涙は流れる間もなく祝福によって凍らされた。


最後の祝福は〈眠れるマグマの胎動〉

「裏切ったり、しないよ、ね?」

縋るようにつぶやかれたメシアの言葉に双子の弟は静かにうなずいた。

よかった。たった一人でもまだ信じあえる仲間がいた。一つでも祝福が手には入ればなにかできるかもしれない。

「いこう」

頼もしい背中を追って最後の祝福まで行くと突然、双子の弟が立ち止った。

「・・・どうしたの?」

何も言わずにうつむく双子の弟にメシアが心配そうに問いかける。

「・・・ゴメン。」

それだけ言い残すと急に走りだし、最後の祝福に手を伸ばした。

とびらが閉じる寸前に見えた彼の表情はどこか誇らしげだった。


「なんで・・・どうして・・・。みんな、信じてたのに・・・。ひどいよぉ・・・。」

絶望に暮れたメシアは灯らないトーチを引きずりながらよろよろと塔の屋上へと続く階段を上った。

もう、なにも考えたくない。

信じられる人がいない世界なんてどうでもいい。

塔は高いのだしこのまま死んでしまえばいい。

もしかしたらこれは夢で、死んでしまえば夢から覚めるかもしれない。

起きたらまだ旅の途中でみんなとの時間がまだ続いてて・・・。


屋上にたどり着くと9本の柱が祭壇を取り囲むようにたっていた。

「・・・・?」

メシアは不思議に思って一つの柱に近づいた。

「き、きゃあ!」

メシアは悲鳴をあげた。
それは柱ではなく、朽ち果てた骸骨だった。

「あー!やっと来た!10 代目!名前は?彼氏いる?どこから来たの?」

背後から声をかけられて飛び上がる。
「だ、誰ですかっ!?あ、でも知らない人と話しちゃダメってみんなが言ってたからそんな話すつもりないですけど!」

「純情だねぇ。私は先代のメシア。引継ぎがくるまでここで待ってたの。」

そう名乗ったショートカットの女性は幽霊のように透けていた。

「先代・・?あの、じゃあ・・・もしかしてこの人たちは・・・。」

「そ。私の仲間。」

じゃあ、みんなは死んでしまったのか・・・。私を裏切ったとしても大切な仲間だったのだからせめて生きていて欲しかった。

「そんなに泣いてるからわかってると思うけど一応伝えておくね。 キミの仲間は生贄になった。見事に全員役目をはたして死んでいったよ。」

・・・え?生贄?なにそれ?

「どぉっ、どーゆこと!?」
「まさか知らないできたのっ?!」

驚く二人のメシア。

「・・・今から 9 人の記憶を見て、生贄の人生を神様に報告したら私の役目は終わりなんだけど・・・
一緒に見たほうがよさそうだね。」

先代のメシアが何かを呟くとメシアの意識はなにかに吸い込まれるように消えた。

「ねっ、ねっ!あそぼー!」
「いいよー。でも弟は?どこいったの?」
「んー?わかんない・・・。あ!いたぁ!」

双子と村の広場で戯れる私。

それを空から眺めているようだ。思わず声を出しそうになるが隣にいた先代のメシアに止められる。

これは数年前のことだ。まだ双子が 6 歳ぐらいだったと思う。なつかしい。よく仕事を放りだして遊んだものだ。


サッと場面が変わって豪華な広間なような場所に移る。

ここは・・・王宮?

ひときわ豪華な椅子に威厳のあるおじいさんが座っている。

その後ろに控える、見覚えのある顔。儀式用の豪華な鎧を着こんだ剣士である。

狩りのときにしか見ない真剣な面持ちで立っている。


また場面は変わる。

村の姉妹の家だ。二人でなにか言い合いをしているが、どこか楽しそうな雰囲気である。

よくこんなことをしていたが大抵は前日の夜に僧か詩人が話した物語の解釈についてだった気がする。

たまに私もそこに加わって村のみんなにあきれられていた。


次の場面は村の祭り。これはつい最近のことだった。

詩人が物語をかたってそれに合わせて踊り子が舞を踊った。私も歌を歌って・・・ほんと楽しかった。

リーダーの乱入で歌は妨害されて僧がすごく怒って・・・それで・・・。

楽しかった村での日々が私の目の前で過ぎていく。

そしてやってきた。使者が来たあの日。
使者の来訪と、私がメシアに指名されたことにみんなでおどろいて僧にもう一度メシアの伝説を話してもらった。


そしてわたしが寝入ってから・・・

「みんな、ちょっと集まってくれ。」

リーダーが再びみんなを集めた。私の知らない出来事だ。興味に駆られて身を乗り出す。

「実は騎士団長から聞いたんだが・・・メシアには 9 人の仲間が必要だ。」

真剣な面持ちで話し始める。

「じゃ、一緒に行くか。」

詩人が何のためらいもなく言い放つ。

「いや、大事なのはここからだ。・・・祝福っていうのは名前だけでその数だけの生贄が必要なんだ。もし、メシアが祝福を手にしたら死ぬ。」

重い空気が流れる。

「じゃ、じゃあさ。もしメシアが死んじゃったらどうなるの?のこりの祝福は?」

踊り子が切り出す。

「その100 年は祝福が受けられない。」

「ただでさえ不安定な王国が滅亡しちゃうね・・・。」

剣士の呟きにさらに空気が重くなる。

「メシアを助けられないの?」

妹がいつになく真剣に聞く。

「9 人がそれぞれ 9 つの祝福を受け取って死ねば、メシアは助かる。・・・が、あくまで俺の推測で確証はない。いままでのメシアがどうやってきたのかもわからない。」

しばらく沈黙に包まれる。

「俺は行く。各自よく考えて、来るなら明日の早朝にメシアの家の前で集合。強制はしない。」

それだけの結論を残すとその場は解散になった。

まさか私の知らないところでこんなやりとりがされていたとは・・・。

みんなは祝福を受ければ死ぬことを知ってそれを覚悟した上でついてきてくれた。そして私のために代わりに死んでくれた。

場面は流れるように旅の情景をうつしてゆく。

とめどなく流れる涙が視界を遮る。
「昔、昔。めっちゃ昔。ものすごーく昔。ある時、あるところに、ある勇者がいました。」

詩人が物語を始めるときのいつもの口調。

「もうっ!違うもん!キイチゴのほうがおいしいもん!」
「は?蛇イチゴでしょ!」
姉妹のいつもの言い合い。

「ねぇねぇ、聞いてっ!あのね!」
双子の姉が話しかけてくるいつもの声。

「あれが金星・・・。で、あれは火星。この星の配置だともうそろそろ嵐の季節がくるね。」
「でもあれが雨季の三大星でしょ?ならまだでしょ?」
僧と双子の弟がいつも通りの星読みをする。

「ねぇ、ほんとにいいの?ここまででも・・・。」
「言ったじゃねーか。健やかなるときも病める時もともに分け合ってゆこうってよ。」

塔に入る直前にもきいたいつもの言葉。

だけど、その「いつも」はもうない。

場面は最初の〈華やく波〉へ。

私を突き飛ばしたリーダーは躊躇いなく祝福に手を伸ばした。

それと同時にどこからともなく大波が襲ってきた。

「せめてアイツだけでも生き残れれば・・・。」

リーダーのつぶやきは誰に届くこともなく大波に飲まれた。


次は〈炎の宴〉である。

剣を突き付けて私を追いやった剣士は剣を抜いたまま祝福を受けた。

「せめてもう一回陛下に会いたかったなー。ね?」

剣に語りかけるように刃をなでるとあっという間に炎に包まれた。剣士は最期まで苦悶の表情すら浮かべずに毅然と立っていた。焼け残った剣はどこか可哀想だった。


次は〈恵みの陽光〉へ向かった姉。

祝福を受けると室内であるはずの祭壇が光を放ち、姉はすぐに倒れこんだ。
猛烈な光が肌を焼く。

「喧嘩別れか・・・。最後まで喧嘩か・・・。」

哀しいつぶやきを残して姉は力尽きた。


〈安息の闇〉へ向かった妹。

祝福を受けた瞬間あたりは際限のない闇に包まれる。

「怖いよぉ・・・みんな・・・。やだ・・・怖い・・・怖い・・・。」

闇の中の孤独に耐え切れず、闇の放つ不気味さが妹の冷静さを奪う。最期には耐え切れなくなり、荷の中の毒草を使って永遠の眠りについた。


〈揺蕩う大地〉に祝詞を述べあげる僧。

「我が身を贄とし、彼の者を救わん・・・。神とメシアに幸あれ・・・。」

膝をついて頭を垂れると首元にかけた十字架を握りしめる。
普段あまり話すことがない僧が述べたしっかりとした決意のこもった祈り。
それに呼応するように地面が大きく裂けると、僧は果てしない裂け目に落ちて行った。


詩人が駆け込んだのは〈雷鳴の囃子〉。

「昔、昔・・・、いやかなり最近にもあった話だし、これからも続く哀しいお話・・・。」

いつも持っている本を閉じて語るのはそれが誰かのものでなく自分達自身のものだから。

「続編は出せそうにもないねぇ・・・。」

諦めたように呟いた詩人を雷が貫いた。


〈疾風のロンド〉を掴み取った踊り子。

「踊りはお祭りのときだけでいいけど・・・舞の最中に死ねるなら本望だしねっ」

踊り子の一番のお気に入りである舞を始めるとだんだんと風が吹いてきた。

風は次第に強くなり、踊り子の肌を傷つけ始めた。しかし踊り子の舞が止まることはない。むしろどんどん激しさを増してゆき、血にまみれながら舞は続けられる。

とうとう力尽きた踊り子は風刃にさかれ、見るも無残な姿になってしまった。

踊り子の舞が風神への祈りの舞だったのは偶然か、それとも神の悪戯だったのか。


双生の姉は弟を押しのけると〈白銀の園〉へ。

みんな迷いもなく祝福を掴み取っていったがすこし恐かった。でも弟を少しでも長く、ほんの少しではあるけども生きてくれるなら、と思うと踏み出せた。

振り向きざまに振り返ったら弟はしっかりと頷いてくれた。

涙が流れてしまったけれどすぐに凍ってしまったからメシアには見えなかったと思いたい。

弟に後は託した。最後まで付き添ってあげて、そして自分の役目をしっかり果たしてほしい。弟より友達の命を優先させるなんてひどい姉もいるものだ。

そう思っているうちにあっという間に姉は氷に包まれた。


最後の双生の弟は迷いに迷って〈眠れるマグマの胎動〉を掴み取った。

メシアの精神状態が極限の状態にあるのは鈍い弟にも理解できた。

せめて最後まで友達でいよう。この階段を上ったら、いや、あの通路を曲がったら・・・いや、
扉の前でも・・・。

名残惜しい気持ちを振り払って立ち止った。

「・・・どうしたの?」
「・・・ゴメン。」

メシアの問いかけが痛いほど胸に突き刺さった。ただ短く謝ることしかできなかった。

祝福に手を伸ばすと自分より先に死んでいった仲間たちが目に浮かんだ。自然と誇らしげな笑み
がこぼれた。

扉が閉まると同時にあふれてきたマグマに消し炭すら残さずに焼かれた。



意識を引き戻されたメシアは嗚咽混じりに泣きじゃくった。

先代のメシアは同情するように見つめる、がなにもできなかった。

「よく、がんばったね・・・。そろそろ時間っぽいね。私、みんなの所に行かないと。」

先代のメシアの呟きと共に強い風が吹いた。
骸骨は朽ち果てて跡形もなく消え去った。それと同時に先代のメシアは消え、メシアはひとり祭壇に残された。

「なぁに泣いてんの。早く涙拭きな。」

うずくまるメシアに聞きなれた声がかけられた。聞き間違えるなんてありえない。詩人の声だ。

「ふぇ?」

顔をあげるとさっきまで骸骨が立っていた場所に火の灯ったろうそくを持った仲間が勢ぞろいしていた。

しかしその体は先ほどのメシアと同じように透けていて、もう死んでしまったのだという事実を突きつけられる。

「みんなっ・・・。」

9人はそれぞれろうそくを傾けると床に刻まれた魔法陣に蝋を流し込んでいく。

「ほら、立って立って。これで動けなくなったら世界滅亡だよー。」

踊り子の明るい声に顔を上げようとするが涙で、まったく前が見えない。

「健やかなる時も」
「病める時も」
「ただ信じて」
「共に分け合って逝こう」

仲間たちが確認しあうように言った言葉の意味にようやく気付かされる。

裏切ったなんてとんでもない。互いに信じあって、そして私を残して逝ってしまった。

みんなに助けられた以上、ここで私の命を無駄にしちゃいけない。

でも、この悲劇は 100 年ごとに繰り返されてきたことでこれからも永遠に続くのだと思う。
いつか神に頼らなくとも歩けるような強い世界がくるまで。

蝋が魔法陣いっぱいまで満たされると光を放ち、中央の祭壇に大きな火を灯した。

今代のメシアも無事に導きの火を繋いだ。

祭壇の火に呼応するかのように分厚い雲に覆われていた太陽が姿を表し、メシアを照らす。

人々に慈悲を与えるアイの塔はメシアと仲間に九つの哀をもたらした。

メシアは悲痛な笑みを浮かべながらトーチを手に、祭壇に手を伸ばした。
ご愛読ありがとうございました。

またどこかでお会い出来ることを願います。

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