支度部屋で賜杯を手にした稀勢の里(前列中央)。背後では母・裕美子さん、(右隣)父・貞彦さんが祝福 (撮影・高井良治)【拡大】
表彰式の前、「君が代」が流れる中、土俵下で感涙にむせぶ息子の姿を見つめ、母・裕美子さんの目から涙があふれ出した。
「息子は新横綱優勝を目指していたので、本当にうれしい。恩返しをすることができました」
13日目に左肩付近を痛めながら、本割、決定戦で照ノ富士に連勝して、今は亡き先代師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)と同じ新横綱優勝。母の涙はなかなか止まらなかった。
2場所連続の優勝を見届けた父・貞彦さんには笑みが広がった。
「2つ取る予感があった。小さい頃から猪突(ちょとつ)猛進で、目標を完全に遂行するタイプ。目標は定まっていたんでしょう」
幕下に上がるまでは実家にも帰らず、両親が電話を入れてもすぐに切るほど相撲に打ちこんだ。真摯(しんし)でひたむきに相撲に打ち込む息子の姿勢が劇的な勝利につながったと父の目に映ったようだ。
大きなハンディを負いながらも、横綱としての重責をしっかりと果たした息子に、父は珍しく“注文”をつけた。「いい人がいれば、結婚してほしい。これからは奥さんと手を取り合って難関を乗り越えるようにしてほしい」。6度目でようやく綱とりに成功し、新横綱Vも果たした。“嫁とり”が父の希望だが、「もし、連れてきたら厳しくチェックする。親としての最後の仕事。でも、そんなに器用な性格ではないので、現役中は無理でしょう」と親心を見せた。 (伊藤隆)