小島ファッションマーケティング代表

ヤマトの値上げやサービス制限が"好意的"に受け止められた理由

ヤマトHDは宅配インフラと労働環境の維持のためには宅配総量の抑制、宅配料金の値上げやサービスの制約もやむを得ないとし、加えて過去二年間に遡って未払い残業代を社員に支払うと発表したが、一般顧客も大口荷主も概ね好意的な反応を示している。そんな反応を「ヤマトの社徳」と評した新聞もあったように思う。

経営は従業員だけでなく顧客、取引先、株主など多くのステークホルダーの利害のバランスに立って治められるもので従業員への'仁政'が必ずしも是とされる訳ではないが、ECの急拡大、とりわけアマゾンの引き受けでヤマトの宅配業務がパンク寸前に追い込まれていた事が広く理解され、日頃のサービス姿勢が多くの顧客に評価されていた事が好意的な反応に繋がったのだろう。それをもって「ヤマトの社徳」と評したのは、日頃の「不徳」ゆえに業績悪化や不祥事が散々に叩かれ炎上する企業もあるからだと思われる。

横田増生氏の潜入取材による「ユニクロ帝国の光と影」に対するファーストリテイリング社柳井正氏の対応と「仁義なき宅配」に対するヤマトHD山内雅喜氏の対応は極めて対照的で、同じ労働環境問題を指摘されながら、一方は名誉毀損として最高裁まで争い、一方は会社の利益を犠牲にしても労働環境の抜本是正に動いた。これを'社徳'の違いとするのは表面的に過ぎると思うが、会社の将来に渡る発展に繋がるのはどちらかと考えればヤマトHDの方が経営的にも'正解'と見える。

目を我らギョーカイに転ずれば、顧客や取引先に犠牲を強いても従業員の面子と雇用を優先する優越的地位感覚を捨て切れない名門企業もある。従業員には'仁政'かも知れないが、業界も社会も'社徳'を評価する事はないだろう。一時は'仁政'を演じても、先はお取り潰しが必定なのではないか。

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