イモト、ブルゾン、ノラも ナベプロ所属ピン芸人の強み
ブルゾンちえみ、平野ノラ、サンシャイン池崎など、人気のピン芸人を次々と生み出し、まさに「台風の目」となっているお笑い事務所がある。そこにはさらに、イモトアヤコや厚切りジェイソン、あばれる君、『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)に不定期出演しているハイテンション女芸人・森山あすかも在籍。その事務所は「ワタナベエンターテインメント」だ。続々とスターダムに駆け上がる“ナベプロピン芸人”の強みはどこにあるのか。
特徴のひとつが「芸歴の浅さ」。つまり彼らは即戦力となりうる人材だということだ。ブルゾンちえみは芸歴2年目だし、イモトが『イッテQ!』のレギュラーになったのは芸歴1年目のとき。そのイモトに憧れて同じナベプロに入った森山あすかも、芸歴3か月のときに番組の新人オーディションで選ばれている。
2015年、厚切りジェイソンがピン芸人日本一決定戦『R-1ぐらんぷり』決勝に進んだのは、芸歴わずか4か月のことだった。
ロバート・秋山竜次のモノマネで注目を集める若手女芸人・丸山礼は昨年3月、芸人養成学校「ワタナベコメディスクール」の卒業と同時に、日本テレビの情報番組『PON!』のレポーターに抜擢。つまりは芸歴0か月ということだ。
芸能界屈指の芸人数を誇る吉本興業には芸人が6000人いるとも言われている。それに比べれば数が少ないナベプロは、競いあう分母が少ないというのは現実的な利点としてあるだろうし、マネージメント側としても1人の人材育成に力を注ぎすやい。
◆一発で覚えてもらいやすい「デフォルメの強さ」
彼らが比較的早い段階で活躍できるのは、そのキャラクター造形にあるのかもしれない。いわば「デフォルメの極致」ともいうべきか、みな振り切っているのだ。平野ノラはバブル期の女性を生き、ブルゾンちえみはニューヨーカーを体じゅうで表現。サンシャイン池崎は、過去多くの芸人が生み出してきた「自己紹介」ギャグを究極まで高めている。そうした突き抜けたキャラは爽快感があるし、またビジュアルインパクトも強いので一目で覚えてもらえる。
しかし、アクの強いキャラを演じている芸人は、このままでいいのかと悩んだり、そのキャラに飽きてしまうと言われているが、今挙げた彼らには「迷わず自分はこれでいく」という潔さを感じる。その点に関して平野ノラは、「当時の女性たちのように自分が一番良い女と思っているキャラだから絶対にブレない」と雑誌のインタビューで語っている。つまり彼女でいえば単にバブルを笑いの道具にしているのではなく、「あの頃の人間のまま」。また、制作側からキャラを押しつけられたり、「作られた感」がないので、芸人個人の人間的な魅力も透けて見える。
古くは「ハナ肇とクレージーキャッツ」で知られ、1990年代には中山秀征、ネプチューンを輩出したナベプロ。そんな古き良き老舗お笑い事務所に変化が訪れたのは2004年のことだった。「ワタナベコメディスクール」が開校されたのだ。そこからアンガールズ、ハライチ、あばれる君、イモトアヤコなどが巣立っていった。
◆「本人が気づいていなかった個性を引き出す」方針
そこにはどんな育成方針があるのか。かつて『笑っていいとも!』や『オレたちひょうきん族』をはじめとする人気番組のディレクターとして活躍し、現在はスクールの講師を務める永峰明氏はWEBのインタビューでこう語っている。
「みんな最初はプロを真似ようとするが、そこでもう1度自分を見つめ直して『こんなとこあるじゃん』と気付いてもらう」。つまり、本人の隠れた魅力を掘り起こすことがポイントなのだという。
芸人は、とかく笑いのセンスを磨いたり、トーク力を身につけることが重要視されがちだが、大切なのはやはり人間力ということなのだろうか。
ワタナベエンターテインメント会長の吉田正樹氏は、会社の展望として「人を巻き込んで、ブームを起こすような会社でありたい」と述べている。その言葉通り、確かにブームを巻き起こしているピン芸人が多い。今後ナベプロはどんな芸人を見せてくれるのか? 新たな逸材の登場に注目したい。(芸能ライター・飯山みつる)