サークルの先輩になるが、就活中にいろいろと思い悩んだ結果、とうとう発狂して虎にメタモルフォーゼしてしまった男がいた。
彼は極めて優秀な男で、幼少期からご近所でも評判の秀才だった。
なので、彼自身としてもエリート意識というか、周りの奴らとはひと味ちがうんだよなーみたいな気分があった。
そんな彼だったのだが、就活をしている最中に突如失踪し、そのまま行方不明になってしまったのである。
飲み会帰りで酩酊状態にあったわたしは、軽くリバースしようと思って路傍の植え込みに近づいた。
しかし、そのガオーをよく聞いてみると、そこには往年の先輩を思い出させるような音色が多分に含有されていたため、わたしは勇気を出して話しかけてみた。
「すみません。ひょっとして、先輩じゃないっすか?」
すると虎先輩は悲しそうに縞模様を震わせながら、
と答えた。
以下は本人が語ったところの、彼が虎になってしまった経緯である。
講義は最前列で聞いて教授のお気に入りだったし、サークルでも部内の恋愛事情などによく精通していたし、ツイッターのフォロワーもかなり多かった。
「自分のアピールポイント」と言われても、はっきり答えることができなったのである。
もちろん彼は自信家だったし、自分は教室後方に跋扈するアホより遙かに優れた人間であると確信していた。
だが、いざアピールポイントなどと真正面から切り出されると、臆病な自尊心というか尊大な羞恥心というか、フォロワーが増えるに従って加速度的に複雑化した自意識が、イージーな解答を阻んだ。
その結果、彼の答えは謙虚を装いつつも隠しきれぬプライドが透けて見えてくる、ウザい感じのものになりがちだった。
それに対し、彼が平素よりバカにし続けていた学生はどうだったか。
彼らは、先輩基準では凡庸としか思えないようなアピールポイントを堂々と答えた。
先輩はそれを内心バカにしていたが、彼らの堂々と答える姿が妬ましくもあった。
そして、蓋を開けてみれば、内定をよりゲットしていくのは彼らだったのである。
周りが東証一部上場企業の内定を続々奪取してゆくのを見て、彼は思い悩んだ。
丸の内の面接会場から横浜辺りまで猛ダッシュしていると、両手を地面に近づけたい欲求がだんだんと生じ、小田原辺りに至ると全身がむずむずして毛の生えてくる感覚があった。
正気に戻ると、虎になっていた。
一息つくと、先輩は続けた。
「お前に最後の願いがある。
オレの代わりに投稿しておいて欲しい。
このまえ聞いた、高校生くらいの雌虎が餌場で話してたことを元にしている。
140字に収めるにはかなり苦心したよ。
今までにないリツイート数になるだろう。
あそうそう、うちのオフクロ、多分けっこう心配してると思うから、元気にやってるって伝えといてくれ。
じゃあまたいつかな!」
そう言って先輩はしっぽをぶんぶんさせながら、遠くへと走り去っていった。
先輩のツイートは世界中で評判となり、相当なリツイート数を誇った。
やはり先輩は優秀だった。
しかし、母親に対するメッセージが最後に0.05ツイート分ってのはどうなんだろうか。
現代風 山月記
そういう人って多分普通の会社に入るのに向いてないだろうから、就活なんて諦め、 労働者となって長く膝を俗悪な上司の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺す方向を目...
「居酒屋でニッカポッカの酔っ払いが暴れているが、よく見たら先輩だった」 とかにした方がリアルだと思うが、山月記のパロだと気づいてもらえないか