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【私説・論説室から】

悪魔の口を封じるには

 オランダ・自由党のウィルダース党首が反イスラムや移民攻撃で人気を集め、トランプ米大統領の暴言は収まらない。ヘイトスピーチ(憎悪表現)が至る所にあふれている。

 ドイツでも、反難民を掲げる「ドイツのための選択肢」が支持を広げる。しかし、メルケル政権を脅かすまでには至っていない。

 ドイツで排外主義や差別的言動が広がらないのは、ナチス被害国や周辺国への外交的配慮、過去への反省という倫理的自覚に加え、法的な歯止めが効いていることが大きい。

 ドイツ基本法(憲法)は「自由で民主的な基本秩序」に敵対する場合、言論の自由は「喪失」し、政党の存在も認めない、と規定。

 反ユダヤ主義再発防止のため制定された民衆扇動罪は、ナチス賛美やホロコースト否定のみならず、民族、人種、宗教、国籍を理由として人の尊厳を傷つける誹謗(ひぼう)中傷も処罰する。学習院女子大の武井彩佳准教授によると、同法による二〇一五年の有罪判決は、一人に複数の条項を適用した例も含め、延べ五百八十九件。最近では、シリア難民への差別的言動も対象とされたという。

 ヘイトは心の中の悪魔をあおる。ちゃんとした根拠もなく、差別的な非難中傷を並べ立て、それをとがめられると、言論の自由を言い訳に持ち出す。悪魔のささやきは処罰をもって黙らせることが必要だ。自由を保障すべき言論の名に値しない。   (熊倉逸男)

 

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