春闘は、組合側からの要求に対し会社側の回答が進んでいる。先週までの連合の集計によれば、賃上げは、前年をやや下回る水準という。

 例年、交渉を引っ張る自動車や電機などの大手企業のベースアップでは、昨年以下の回答が目立った。米国のトランプ政権の政策や為替水準など、輸出をとりまく経済環境の不透明感が背景にあったようだ。

 一方で、食品加工や流通といった内需関連の産業では、昨年を上回る回答が目立つという。こうした業種では人手不足も強まっており、労働側への追い風になっていると見られる。

 個別の企業や業界ごとに、ある程度の濃淡があらわれるのはやむを得ないだろう。問題は全体の水準だ。

 昨年10~12月期の法人企業統計によると、企業全体でみれば、前年を上回る空前の利益を上げている。ベアの平均が昨年を下回るような結果になれば、働き手への公正な配分という点で大きな疑問が残る。また、今後の物価上昇次第では、実質賃金の低下を通じて消費を弱め、景気の足を引っ張りかねない。

 注目されるのは中小企業や非正社員への賃上げの波及だ。「底上げ春闘」を掲げる連合は、中小企業でも早めに回答を引き出した組合が多いことなどから、成果が出ているとしている。非正社員でも正社員を上回る改善も見られるという。

 失業率が下がり、労働市場の需給が引き締まっていることを受けて、労働組合の影響力が弱い中小・非正社員でも賃上げの流れが強まりつつあるのは確かなようだ。

 だが、賃金の水準で見ればなお大手・正社員との差は大きく、格差縮小への動きは緒についたばかりともいえる。「同一労働同一賃金」が政策課題にもなっており、さらなる裾野の広がりが必要だ。

 現時点で回答を得ているのは、連合傘下の要求提出済み組合の3分の1程度であり、中小企業の多くではこれからも交渉が続く。経営者には、公正な分配と内需の下支えを意識した上で、積極的な回答を望みたい。

 今年の春闘では、長時間労働の是正など「働き方改革」もテーマになっている。賃上げに加え、さまざまな労働条件の改善が求められるのは当然だ。

 社会全体のあり方にもかかわる課題について、企業側と労働側が集中的に議論し、大きな方向性を打ち出すことは春闘の一つの機能である。労使の前向きな取り組みが広がることを期待する。