稀勢、左胸負傷のまま力出ず２敗目　連覇へ照ノ富士と楽日決戦に出る！！

（２５日・エディオン　アリーナ大阪）

　１３日目に左胸付近を負傷し、けがを押して出場した新横綱稀勢の里（３０）＝田子ノ浦＝は横綱鶴竜（３１）＝井筒＝に寄り切られ、２敗目を喫した。大関照ノ富士（２５）＝伊勢ケ浜＝は関脇琴奨菊（３３）＝佐渡ケ嶽＝をはたき込んで１敗を守り、単独首位に立った。優勝争いは、１１場所ぶり２度目の賜杯を狙う照ノ富士と、２場所連続２度目の優勝を目指す稀勢の里に絞られ、両者は２６日の千秋楽で対決する。琴奨菊は６敗目を喫し、１場所での大関復帰を逃した。横綱日馬富士（３２）＝伊勢ケ浜＝は関脇玉鷲（３２）＝片男波＝に寄り倒され４敗目。

　痛恨の２連敗に、稀勢の里の口元は真一文字。左肩から上腕部にかけてテーピングを施した左腕は、だらりと下がったままだ。１３日目に左胸を負傷した影響は明らか。それでも、取組後は気丈に「やるからには、最後までやりたい」と、新横綱場所の完走を宣言した。

　手負いの新横綱が立ち合い、右で張ってから左差しを狙う捨て身の勝負に出た。しかし、横綱相撲を支えた左腕に力が入らない。まともに鶴竜の突進を左胸で受け止め、顔がゆがむ。あっという間にもろ差しを許し、力なく土俵を割った。

　支度部屋で激痛と闘うようなうなり声を上げてから一夜明け、大阪市港区の田子ノ浦部屋の朝稽古には姿を見せなかった。休場も考えられた中、師匠の田子ノ浦親方（元幕内隆の鶴）が明かした横綱の言葉は、シンプルな決意表明だった。「出たい。出る」

　相撲人生で唯一の休場は、大関だった２０１４年初場所千秋楽。当日に師匠の説得を受け入れたが、今回は最高位の責任感が体を突き動かした。昇進時に掲げた目標は「優勝争い」。その真っただ中にいるからこそ「これから先も長いけど」（田子ノ浦親方）と、リスクを承知で強行出場に踏み切った。

　思うままにならない左腕。千秋楽での逆転優勝は、１２年春場所の白鵬が最後。だが、２場所連続の賜杯を諦める気配はない。張り差しの選択も「何とか」相手の勢いを食い止めようと、限られた中で最善の手を打った結果。「大丈夫」と闘志をのぞかせた。

　場所入りや横綱土俵入りで、大歓声に混じった「やれるんか」の声も取組後には消えた。視線を落として花道を下がる稀勢の里を待っていたのは、どの勝ち力士よりも大きく温かい拍手。誰もが認める主役が、最高の後押しを受けて最後の力を振り絞る。　

　　（志村拓）