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第4話 勇者、割れた卵の中身
サブロク協定って、なんでしたっけ……?
「……あー、うきゅ?」
「「「うきゅっ?」」」
パッカリ別れた卵の中から現れたのは、高さ二十センチ程度の人型の何か。
まるで元の世界で末彦に見せられた女の子のフィギュアのようだ。
「うきゅ、うゅ、ゆきゅう、おひさまーっ」
「こいつはまた……」
大きさを無視しても、その見た目は奇異なものであるように思えた。
ベースは普通に、というのもおかしいが、若干緑がかった黒髪と、どこかミナリスに幼さを足したような顔立ちをしている。
しかし、肩から手首の辺りまで、外側が爬虫類を思わせる鱗に覆われ、背中には鳥類の翼が生えている。
尻尾は獅子のような細い尻尾の先にふわふわとした毛玉がついて、チラリと覗く手のひらには肉球らしきものもまでついている。
頭には今割れたものとは別の、小さな卵の帽子をかぶり、耳を出すために空いているらしい穴からはウサギ耳が二つ飛び出ていた。
端的に言えば、盛りすぎだよ、乗っければ良いってもんじゃないよね?
「うーきゅ、うきゅ、おそとーっ、ぱんぱ、まんぁま、ぃもーとっ、うきゅう!」
そんな当人(?)は知ってか知らずか小さな手で俺たちを順繰りに指す。
「うきゅーっ、ふさふさーっ、もふもふーっ! うきゅーっ♪」
きょろきょろと周りを見回したクーは、敷き詰められたやわらかい藁房を見つけると、
ケースに敷き詰められた藁をふぁさふぁさと巻き上げながら、嬉しそうに笑っている。
「これは、またかわいいらしい姿になりましたね、クーちゃん」
「わーっ、かわいいのです、お人形さんみたいなのです」
「うきゅぁあっ♪ きゃっ、きゃっ、まんぁー、まんぁ~……」
「あら、私ですか?」
と、藁からミナリスへと興味の対象が移ったらしく、ケースの中からミナリスに向けて手を伸ばす。
ミナリスが両手をお椀の形にしてケースの中に両手を差し込むと、クーはミナリスの手によじ登った。
それでもなおミナリスの側に近づきたがるので、ミナリスが顔を近づけると、クーが嬉しそうにミナリスに頬ずりした。
「まんぁーっ! まんぁーっ! うきゅぁっ♪」
「あ、あぁ、これは、いけません。なんでしょう、この異常に母性を刺激される感じは」
その仕草がツボだったのか、ミナリスのしっかり者の仮面が剥がれ落ちて若干へにゃ顔になりかけている。
ちなみに俺が指示して以降、ミナリスはスキルを使わず表情を作るように訓練していた。おかげで、ミナリスのスキル『鉄面皮』は、『操面皮』という上位スキルに変化している。
「シュリアにもっ、シュリアにもっ!!」
「きゃう? きゃうーっ、ぃもーとっ、もぉーとー!」
自分の中の何かと戦っているらしいミナリスの手から、クーはシュリアの手へと乗り移る。
そこでも楽しそうにペチペチとシュリアの手のひらをあちこち触って、羽を動かして飛び上がった。
「わわっ!? 飛んだのですっ」
ちょこんと頭の上に飛び乗ったクーは、満足げにシュリアの頭を柔らかな肉球でペチペチとしていた。
「いもぉーっ、くー、ネネーッ!」
一通りぺちぺちと触って満足したようにクーはバンザイして胸を張った。
そしてシュリアの髪を掴んで軽く引っ張っている。
「いたたっ、あぁ、なんか下に見られてる気がするです。納得いかないのですぅ」
と、そんなことを言いつつも、若干シュリアは嬉しそうだった。
……子供にじゃれつかれてほほえましく思っているだけだよね?
ドMな性癖爆発させてるわけじゃないと、信じたい。信じさせてください。
そのままぺちぺちとシュリアの頭を叩いて満足したのか、今度は俺のほうを向いてきた。
「うきゅっ!! ぱんぱーっ!!」
「おおっと」
ピョンッ、とクーが頭から跳んで俺のほうへとやってきたので両手で受け止める。
「ぱんぱー?」
クリっとした手で首をかしげるその仕草は確かに愛らしく、二人の反応も理解できないわけじゃない。
だが、俺にはクーを見た瞬間、何故か嫌な奴らを思い出していた。
(妖精に似てる……? いや、大きさ以外に共通点は……、それに妖精はこんな風に生まれない)
その大きさ以外に共通点は見られないはずだったが、最初に浮かんだあの外道虫どものことが頭にチラつく。
妖精はその全てが妖精女王の子供であり、妖精卿にある妖精樹の実から産まれ落ちる。
いずれその妖精郷は俺の手で押し潰すが、クーは明らかに妖精ではない。
が、そのほんの少しの逡巡がクーには我慢できなかったらしい。
「ぱんぱ、くー、きらぁ? うきゅ、うきゅぁあああああぁっ、うきゅぅうううっ!!」
「ちょっ、たんまたんまっ! 『ぱんぱ』って俺のことだよな、嫌いじゃないっ、嫌いじゃないからっ!!」
突如大泣きを始めたクーに慌てて弁明する。
「ほ、ほら、おなか減ってるだろっ? 魔力やるっ、魔力やるから!」
「うきゅ……っ、うきゅっ。ほ、ほんと? ぱんぱ、くー、きらぁじゃない? まりょぉ、くれる?」
「ホントホント、ぱんぱ、嘘つかない。ほら」
「ぱんぱっ、んぱーっ!!」
急いで魔力を手のひらから出すと、クーは涙を引っ込めてまた花が咲くような笑顔を見せた。
するとすぐに手の平をかじかじと甘噛みして魔力を食べている。
幼虫姿の時も似たような食べ方をしていたが、小さな歯が肌を滑って微妙にくすぐったかった。
「ふぅ、何とかなったか」
「クーちゃんのこと虐めてはだめですよ、ご主人様」
「めーなのです、虐めるのはシュリアだけで……」
と、そんな時だった。
ミナリスから静かに声が上がる。
「ご主人様、十六匹です」
「んん、正解。ちょっと遅かったが、探知の範囲も俺と同じくらいになってきたな」
「んぅー、シュリアにはまだわからないのです」
「うきゅう?」
と、不思議そうにクーが首を傾げた、その瞬間だった。
「「「ギギィーッ!!」」」
現れたのは五匹のモンスタープロントと呼ばれる植物の魔物。
元の世界で例えると、自走する巨大なハエトリソウの魔物だった。
口から吐き出される溶解液は金属製の装備を腐食させる。
ツタのような植物で構成される手足はいくら切り付けてもすぐに再生し、完全に倒すには核となる部位をつぶさなければならない。
だが、その核となる部位がモンスタープロントの溶解液が詰まる袋にまとわりつく一センチあるかないかのツタなのだ。つまり、普通に切り付ければ袋も破れて溶解液で金属の武器はダメになる。
なので、剣や槍で戦う手合いからは蛇蝎のごとく嫌われている魔物だ。
しかし、完璧にツタだけを切り裂くことができれば剣をダメにせずに倒すこともできる。近接戦闘の技術を上げるのにはちょうどいい。
「モンスタープロントか、二人で半分ずつ相手な。飛び道具禁止、使い捨ての剣で相手をすること」
「「はーい」」
「よし、ミナリスは剣二本で、シュリアは四本までで……」
失敗したらなんか罰ゲームと言いかけた、その時だった。
「うきゅぁあああああああっ!! ゃーっ、やだゃーっ!!」
「なっ、うおっ?」
「ふぇ、ひゃっ」
弾かれるように叫んだのはクーだった。
誰が見てもわかるようにおびえた様子で涙目になったクーは、俺の手のひらから錯乱したようにミナリスへと向かって飛んだ。
慌ててミナリスが受け止めようとして、しかしクーはミナリスの手をすり抜けた。それもミナリスが受け止め損ねたわけではなく、文字通りの意味でそのまますり抜けたのだ。
「「「え?」」」
非常識な光景に驚く間もなく、クーはミナリスの豊満な胸に飛び込み、同じようにミナリスの身の中に沈んで同化した。
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