「60周年」の節目を、欧州連合(EU)への信頼を取り戻していく元年としたい。

 1957年3月25日、フランスや西ドイツなど6カ国がローマ条約に調印。EUの前身、欧州経済共同体の設立を決めた。

 二度の大戦への反省から、国境を越えた人や物の自由な往来を促し、各国が主権を譲って共通政策を打ち出すことで平和と繁栄を目指す壮大な実験は、いま深刻な壁にぶつかっている。

 ギリシャ危機に端を発した経済の停滞、難民や移民の流入、相次ぐテロで、「EUは安全と繁栄をもたらすのか」と疑う声が広がった。英国のEU離脱決定で欧州統合は初の後退を迫られ、「自国第一」を掲げるポピュリズム(大衆迎合)政党が各国で勢いを増している。

 「長い平和に慣れ、EUのありがたみが薄れた」との指摘もある。何世紀も戦争が繰り返された欧州で、過去60年間は加盟国間の武力衝突がなかった。

 初心に戻り、「不戦」の共同体を築き上げた意義を再確認すべき時だ。

 ローマには25日、加盟国首脳が集い、結束を誓い合った。

 あるべきEUの姿の検討も始まった。従来通り加盟国が横並びで統合を進めるか、各国事情に応じて統合速度に差をつけるのか、活発な議論が期待される。その際、大国主導で小国の意見が軽視されてはなるまい。

 保護貿易に傾くトランプ米政権や強権姿勢を強めるロシアなど、大国のエゴへの懸念が募る折だ。EUには国際協調のモデルを追求してほしい。

 一方、60年を経ても、加盟国の市民にとってEUは身近な存在とは言いがたい。

 市民生活に直結する多くの規制をEUが決めているのに、その決定過程をめぐる発信が足りない。直接選挙で選ばれる欧州議会はあるが、権限が限られ、選挙の投票率も低い。

 「自分たちが代表されていない」という市民のEU不信が結束を乱しているなら、ゆゆしき事態だ。民意を生かし、透明性を高める改革に、EUや各首脳は知恵を絞ってほしい。

 いまの世界の先進国を見渡すと、「統治する側」と「される側」との距離をどう縮めるかは共通の課題でもある。非難の的がEUであれ、グローバル化であれ、多くの国々の市民が既成政治に限界を感じている。

 政治家や官僚が物事を決めて動かす日々の営みが、市民を置き去りにしていないか。統治システムをどう検証し、改善に取り組んでいくか。先行する欧州の実験の行方を見極めたい。