コラム

また独立問う住民投票? スコットランドの複雑な本音

2017年03月24日(金)10時40分
また独立問う住民投票? スコットランドの複雑な本音

2度目の住民投票はスコットランドのスタージョン行政府首相(右)にとって大きな賭けだ(左はイギリスのメイ首相) Russell Cheyne-REUTERS

<イギリスがEU離脱へと向かう中で、スコットランドは独立の是非を問う2度目の住民投票の実施に動き出している。しかし多くの住民が独立を望んで団結しているわけではない>

僕は以前、スコットランド独立の見込みについて書いた。あのとき僕が書いたことのほとんどは、今も当てはまる。違うのは、今やスコットランドのニコラ・スタージョン行政府首相は、世論調査のはっきりとした確実な支持がなくとも、独立の是非を問う2度目の住民投票に向けて実際に動き出していることだ。

これは大きな賭けだ。スタージョンは、これ以上のチャンスはもう訪れないだろうとの前提で取り組んでいるように見える。彼らに言わせれば、ブレグジット(イギリスのEU離脱)の投票は明らかな分断線を示しているらしい。

スコットランドのナショナリストたちは、それをこう言い表すことができる――われわれスコットランド人はEU残留に投票したが、イングランド人はそんなわれわれを締め出したのだ。だからこそ、われわれスコットランド人はスコットランドの問題について自らの手でコントロールしなければならない、と。

ブレグジットはスコットランドにとって絶好のチャンスを意味するものでもある。イギリス政府が離脱の条件をめぐるEUとの交渉で手いっぱいになり、スコットランド独立の長々としたキャンペーンには集中できなくなるからだ。だからこそ、イギリスのメイ首相はしばらくの間スコットランド住民投票は認められないと言い、一方スコットランドのナショナリストたちは早い時期に住民投票を実施したがっている。

【参考記事】それで、スコットランドは独立するの?

でも、2つの出来事がナショナリストたちにとって逆風になっている。1つは、驚くべきことに、2014年の住民投票でスコットランド「独立」に投票した人々のうち4分の1が、昨年のブレグジット投票では「離脱」に票を投じたという事実だ。

次に住民投票が行われれば、スコットランド独立に投票することはすなわち、EU離脱を捨てることになる。だから、かなりの数の独立支持派が、今度は必ずしも独立に投票しない可能性があるだろう。スタージョン率いるスコットランド国民党(SNP)の希望とは裏腹に、「EU問題」は一方的な票稼ぎになるとは限らないかもしれない。

2つめに、スコットランドでは再度の住民投票を求める声があまり高まっていないようなのだ。SNPが望んではいても、世論調査を見れば、大衆は対立をあおり時間を浪費するキャンペーンをもう一度やりたがってはいないことが分かる。14年の住民投票は一世一代の大イベントだったと捉えられており、有権者はすでに明確な多数決で独立を否定した。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『新「ニッポン社会」入門――英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『「ニッポン社会」入門』(NHK生活人新書)、『「イギリス社会」入門』(NHK出版新書)など。
アドレスはjhbqd702@yahoo.co.jp >さらに読む

ニュース速報

ワールド

焦点:EU離脱後の治安協力どうなる、襲撃事件で英国

ビジネス

アングル:米株動揺でも際立つ「ヘッジ疲れ」

ビジネス

アングル:トランプ氏の燃費規制見直し、メーカー側の

ワールド

オバマケア代替法案撤回、トランプ氏「次は税制改革」

MAGAZINE

特集:ミャンマー 語られざる民族浄化

2017-3・28号(3/21発売)

民主化したミャンマーで続く現代のホロコースト。虐殺され続けるロヒンギャになぜ世界は無関心なのか

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    金正男殺害の容疑者は北朝鮮の秘密警察に逮捕されていた

  • 2

    韓国人が「嫌いな国」、中国が日本を抜いて第2位に浮上

  • 3

    米ビール業界を襲うマリファナ「快進撃」

  • 4

    亡命ロシア下院議員ボロネンコフ、ウクライナで射殺

  • 5

    「スイッチ」で任天堂はよみがえるか

  • 6

    情で繋がり、情でつまずく保守の世界~森友学園以外…

  • 7

    ロイヤル・ヨルダン航空、米の電子機器禁止に神対応

  • 8

    自衛隊の南スーダン撤退で見えた「積極的平和主義」…

  • 9

    韓国セウォル号、沈没から1073日目で海上へ 引き揚…

  • 10

    トランプの燃費規制緩和、メーカー側の勝利か

  • 1

    韓国セウォル号、沈没から1073日目で海上へ 引き揚げは最終段階

  • 2

    韓国人が「嫌いな国」、中国が日本を抜いて第2位に浮上

  • 3

    金正男殺害の容疑者は北朝鮮の秘密警察に逮捕されていた

  • 4

    サウジ国王が訪問を中止したモルディブが今注目され…

  • 5

    サウジ国王来日 主婦はほんとに爆買いにしか関心な…

  • 6

    北朝鮮、ミサイル発射するも失敗 打ち上げ直後に空…

  • 7

    ロンドン襲撃テロ事件で死者4人・負傷40人 英首相「…

  • 8

    亡命ロシア下院議員ボロネンコフ、ウクライナで射殺

  • 9

    朴大統領失職後の韓国と蔓延する「誤った経済思想」

  • 10

    米ビール業界を襲うマリファナ「快進撃」

  • 1

    ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか

  • 2

    買い物を「わり算」で考えると貧乏になります

  • 3

    英女王「死去」の符牒は「ロンドン橋が落ちた」

  • 4

    韓国セウォル号、沈没から1073日目で海上へ 引き揚…

  • 5

    金正男の長男ハンソル名乗る動画 身柄保全にオラン…

  • 6

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 7

    人類共通の目標に大きな一歩、NASAが地球と似た惑星…

  • 8

    ISISが中国にテロ予告

  • 9

    北朝鮮軍「処刑幹部」連行の生々しい場面

  • 10

    韓国人が「嫌いな国」、中国が日本を抜いて第2位に浮上

Hondaアコードの魅力

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

原子力緊急事態への対応力を向上
日本再発見 「外国人から見たニッポンの不思議」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!