【特別企画】漫画家・のむらしんぼ先生が『コロコロコミック』と自身の漫画家人生を語る! 『コロコロ創刊伝説』インタビュー
■漫画家として

――ヘコんだときは、『コロコロ創刊伝説』を読み返しています。『創刊伝説』はしんぼ先生の人生の含蓄もあって、読んでいて元気になるんです。
しんぼ:第1巻第7話の冒頭で西行法師が登場シーンがありますよね。哲学者でも何でもないんですけど、どんどん自分の人生って枯れていくじゃないですか。上手に年老いていかなければならない年頃になってくるんでね。ずっと西行法師が好きだったこともあって、あの回の扉ページで僕が作業机に向かっているその上に西行の詩だけが載っているという形にしたところ、石井さんが「面白いから、西行を扉ページではなく、漫画の中に登場させましょう」とアドバイスしてくれて。冒頭の舞台が伊勢神宮になっていますが、石井さんが外観などを事細かに調べてくれて、小学館で用意している写真でアタリをつけて描きました。
そういった作業の中で僕が伊勢神宮の前で西行法師と会話をしているというシーンを具体的に膨らませていったんですね。サイン会で一緒になった辛酸なめ子さんに『創刊伝説』の単行本を渡したら、あとで「西行法師のくだり、面白かったです。素晴らしかった」ってメールがきたんです。西行法師のシーンは計算ではなく、自分の中から急に出てきたものなのですが、そう言ってもらえてうれしかったですね。
――やっぱり自分のイマジネーションが大切なんですよね。
石井:しんぼ先生がそういったものをもっていなかったら、そこまでイメージが広がらないですからね。
しんぼ:絵のコンプレックスがあったんですよ。今でもありますけどね。僕も選考委員をやらせていただきながら、今から10年ぐらい前までは、デビューしたばかりの新人たちに、「君は絵とストーリー、どっちが描きたいの?」って尋ねたら、「絵が描きたい」という人が多い時代があったんですよ。「とにかく絵がうまくなりたい」と。なぜ、そんなことを聞いたのかと言うと、僕はデビューする前に弘兼プロにいたときに、弘兼先生から「絵が描きたいから漫画家になりたいのか?」と聞かれたことがあったんです。「先生、僕はストーリーが描きたいから漫画家になりたいんですよ。ただ絵を描きたいだけなら画家になればいいんですから」と答えたら、先生が「お前は大丈夫だ」って言ってくれたんですね。先生も構成や話作りは抜群な方で。
ここ最近になって、改めてストーリーの重要さが見直されてきて。『コロコロ』は基本的に漫画家と編集者が1対1という立場で、丁々発止しながら物書き能力を一緒に高め合っていく。絵ももちろん大切ですよ。だけど、ストーリーをないがしろにする時代があったんですよね。僕はやっぱり古いですから、藤本先生の世界観はすごいじゃないですか。「よくもまあ、これだけ奥行きと広がりのある話を考えつくものだ」って思いますよね。
――漫画はストーリーの面白さに引き込まれるからこそいいんですよね。
しんぼ:とは言え、一時は僕も絵がヘタだから、デッサン帳を買ってきたりしましたけどね。こないだも大泉カルチャースクールの「まんが・イラスト講座」の講師をやっているのに、空いた時間に一緒に講師をやっている近藤ふぅふ先生の授業を30分ほど受けて、「服の皺」を習って、教科書もいただいて(笑)。この年になってようやく「そうか! 膝が支点になるからズボンの皺が集まるんだ」って分かって、理屈で描いたことなんかないから(笑)。そんなふうに悪戦苦闘していたら、石川サブロウ先生が「皺の描き方とか別にいいんだよ。しんぼくん。しんぼくんはしんぼくんで味が出ているんだから。理屈じゃないんだよ」って、「なるほど!」ってね(笑)。そういうことがあって、絵をうまくなろうという考えをやめたんです。
――しんぼ先生の漫画は、子どもにとって馴染みやすい絵ですよね。
しんぼ:まあ、勉強は勉強として一応しておかないといけないから、ジュンク堂でまだしぶとく「皺の描き方」を買ったりしてますが(笑)。でも結局、自分のイメージだけで描いているんですよ。残りの漫画家人生を考えたら、欠点を補って、自分の能力をプラマイゼロに戻すぐらいだったら、自分の長所をもっと磨いていく方向にシフトしようと考えを改めました。「自分の長所は何か」と思ったら、やっぱり弘兼先生から学んだことですよね。物書きはやっぱりモノを語れてナンボ。なれないことを勉強する時間があったら、活字を読む。興味のある小説、簡単な仏教書や哲学書、アランや『幸福論』だとか、自分なりに感じるもの、ヘンな話カッコつけてるワケじゃないけど、読み進めることで「なるほどなあ」と気にいった言葉、納得したものが自分の人生観になって、それが自然と『創刊伝説』に自分の想いとして反映されていくと思うんですよね。
――まさに、手塚治虫先生がトキワ荘の漫画家さんたちに仰ったのと一緒ですよね。
のむら:本当ですか! 手塚治虫先生の霊が間違って僕に降りてきたのかな(笑)。
――「いい漫画を描きたいのだったら、いい小説を読みなさい、いい映画を観なさい、いい音楽を聴きなさい」と。
のむら:まさにそうですよ。弘兼先生もむちゃくちゃ映画を観ている方なんです。僕は立教大の漫画研究会だったけど、映画研究会とも仲が良くて、あるとき、映研の友人が映画に関するテスト問題を作ったことがあって、「あの作品の監督は誰か?」や「あの映画は監督の何作目か?」とか、1問2点の全50問の形式なんですよね。僕は28点しかとれなかったんだけど、あまりにも面白くて、弘兼先生にもテストをやってもらったんです。先生は「なんだ、簡単だな」って、瞬く間に解いていってね。採点してみたら、1問しか間違っていなかったんですよ。それもうっかりミスで、堂々の98点。やっぱり「すべては漫画に通ずる」っていうことです。弘兼先生の爪の垢をちょっといただいているぐらいだから、僕はまだまだ漫画家としてはこの程度ですけどね。
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