「チョコ、ついてるぞ」
「え、マジ?」
椎堂に指摘され、思わず舌で唇を舐めると、甘いざらっとした感触があった。さっき食べたドーナツに表面にかかっていたチョコレートが残っていたみたいだ。
「ティッシュで拭いたら?」
同じ映研2年女子の吉田が、ティッシュ箱を渡してくれる。
「ありがと」
行儀悪かったなと今更ながらティッシュで口元を拭う。椎堂をちらりと見たけれど、もうオレからは目線をそらし、部長たちと話しあいをしていた。
今日は映画研究部の活動は、学校紹介ムービーの制作にむけて打ち合わせだった。部室に集まった部員に、顧問の先生がドーナツを差し入れてくれた。グレーズがたっぷりかかった艶々として柔らかいドーナツは、オレのお気に入りの店のものだった。
「これ、美味しいけどすごく甘いね」
吉田が水筒のお茶を飲みながら、一息つく。彼女の手元のテーブルにはティッシュが広げられ、ちぎられた半分のドーナツが乗っていた。
「オレ、ここのドーナツが一番好き。口ん中でとろける感じが」
小さいころから舌触りのいいものが好きだった。オムライスも杏仁豆腐もトロトロ派だし、アイスよりもソフトクリーム派だ。
「おーし、みんなオヤツ食べ終わったかー?」
部長の呼びかけで、みんながゴミをまとめ始める。椎堂は甘いものが苦手だから、ドーナツは食べなかったみたいで、ノートにペンを走らせている。
「ん……」
口の中にまだ甘い味が残っていて、無意識に唇を舐めてしまう。
「有」
椎堂に声をかけられて、咄嗟に舌を引っ込める。一緒に何かを食べていて、さっきみたいに注意されたことは何度もあった。
そのたびに気を付けようと思うのに、つい舐めてしまうのだ。
そう。オレは舐めるのが好きなのだ。
いわゆる、フェチズムの意味で。
部活が終わり、椎堂の家に誘われた。たかがドーナツの食べ残しで欲情してしまったオレを椎堂は見抜いていたのだろう。
今日は椎堂の母親が家にいる日だから、いつもだったら誘われない。さすがに階下に親がいる状態で、いやらしいことはできない。
「なあ、舐めるだけなら、いい?」
椎堂の部屋に入るなりキスをしてしまったら、そんな暗黙の了解、無視せざるを得なかった。股間に触れれば、椎堂の勃起がズボン越しでもくっきりと主張してる。
「……そのつもりで来たんだろ」
リモコンを操作し、テレビで外国映画を再生し始めた椎堂も、少し息が荒い。
「お前だって、そのつもりで誘ったんだろ」
椎堂のズボンのベルトを外し、ジッパーをおろす。隙間に手を差し込むと、じわっとした温かさが指に伝わる。
「もうガッチガチじゃん」
ベッドに腰を下ろした椎堂の前に跪く。下着を下すと、勃ちあがった性器がゆらりと揺れる。浅黒かったり、先が太めだったり、オレのものと明らかに形が違う。
「椎堂のちんこ、なんか男くさくていい」
やんわりと握ると、びくりと震えた。
「……グロテスクだ」
初めて椎堂の形が自分とは違うことを口にしたときも、なんだか忌々し気な反応を返された。オレからしたら、頭もいいし、顔もいいし、映画を撮る才能だってある椎堂が、そんなことを気にしてるなんて意外だった。
「オレ、好きだけど?」
ぱくりとくわえると、口の中に温かさが広がる。つるりとした先の部分は、しゃぶっていると棒付きキャンディーみたいだ。
上顎や、頬の内側を擦るように頭を上下すると、自分の唾液に少ししょっぱいものが混じってくる。
「んっ…、我慢汁、でてきた……」
舌先で小さな穴をつつくと、じわりじわりと汁が溢れてくる。
「……っ」
椎堂の抑えた喘ぎが自分の声に邪魔されることなく聞けるのも、フェラをしてるときの楽しみだ。
「きもひ、いい?」
わざと咥えながらしゃべると、オレの肩に置かれていた椎堂の手が頭に移動してくる。これはいつでもオレを引きはがせるようにする準備だ。
「らめ、きょう、は……、おれのくちんなか、で、いって……」
深く咥えると、先端が喉をつく。咽そうになる。それでも離してやらない。
「んんっ…、しどぉ……、おねが……い……」
根元をしっかりと握り、頭を揺らす。口の中全体を使って、椎堂の性器を擦りあげる。
「んっ、んっ、んっ…」
唇をすぼめると、表面に浮き出た血管をより感じることができた。いつもだったら途中でやめて、挿入されるところだけど、今日はオレの好きにさせてくれるみたいだ。
唇も、口の中も、喉も、擦るたびにどんどん熱くなっていく。椎堂の性器も硬くてカチカチになって、口の中をびくんびくんと震え始める。
「あっ…、有っ……」
頭に乗せられた椎堂の掌が、ぎゅうっと髪をつかむのがわかった。
あ……、いくかも……。
一番奥まで突っ込むと、喉が椎堂の先端にじゅうと吸い付く。ぐっと上を向くようにむくりと頭をあげた性器の先から、びゅるっびゅるっと精子が迸る。
「んぐ……っ」
少しでもこぼさないように、口をすぼめて精液を口の中にためる。
「ぁ……、わるい……っ」
射精をしながらも、律儀に椎堂は謝ってくる。
「うんん…」
首を振って『いいえ』の返事を返して、そっと口を離す。
「あ……、ほら……」
あーんと口を開けて、椎堂に精液を見せてから、ごくんと飲み込む。一度には無理だったから、ごくんごくんと何回かにわけて。
「ん……、のんだぁ……」
綺麗になった口を椎堂に見せようとした途端、肩を掴まれ、ベッドに押し倒された。
「わっ……、なにす……、んんっ」
抗議はキスでふさがれた。苦みの残る口の中を、椎堂の舌が舐めとっていく。
「んうっ……」
歯の裏側まで椎堂の舌で舐めつくされ、甘い痺れで頭がぼんやりしてくる。
「……なんだよ、せっかくの椎堂の味が、なくなっちゃったじゃん」
初めてフェラで椎堂をイかせられたんだから、もうちょっと味わっていたかったのに。
「お前、舐めるの、そんなに好き?」
尖らせたオレの唇を、椎堂が指でなぞる。そのゆっくりとした仕草と、真剣な声にどきっとした。
「……好き、だけど」
自らのフェチズムを大っぴらに言うのは、恋人相手であってもやっぱり恥ずかしい。
「いつも飴、ポケットに入れてるだろ? それってガキの頃からか?」
椎堂の言葉はいつも突然だ。フェラチオの話から、キャンディのことにいきなり移るから、ついていくのに必死だ。
「……あー、うん。モデルしてた頃、待ち時間の間とか暇だし、腹減るじゃん? だからポケットに入れ始めた」
昔、双子の妹とキッズモデルをしていた頃のこと、本当はあんまり思い出したくない。楽しいこともあったけど、やっぱり最後の辞め方が最悪だったせいで後をひいてるのかもしれない。
「ふうん。なるほど」
椎堂は納得したみたいだけど、せっかく色っぽい雰囲気だったのに、こっちとしてはちょっとクールダウンさせられた気分だった。
「何がなるほどだよ」
下唇を突き出すと、椎堂にむにっと摘ままれる。ぎゅっと力をいれられると、ちょっと痛い。
「あにすんの……」
「唇を舐めるお前の心理が、気になった」
また椎堂がなんか言い出した。そう思ってたら、摘ままれてた唇を、優しく撫でられる。
「今度から、舐めたくなったら俺を呼べ」
椎堂の少しかさついた指先がくすぐったくて、ぱくりと口に含む。
「ん? なに、キスしてくれんの?」
甘噛みしながら、からかい口調で尋ねたのに、椎堂はまっすぐな視線を向けてきた。
「ああ、してやる」
即答に、つい口を開けて反論してしまう。
「嘘。学校じゃしないって言ってたじゃん」
「唇じゃなくてもいいだろう? こうやって、触れてやることならできる」
椎堂の指が、唇の縁をゆっくりと撫でていく。まるで花びらに触れるみたいにそっと。
「いつでもお前のそばにいるから」
なんだろう。よくわからないけど、オレはずっとその言葉が欲しかった気がした。
「ん。わかった……」
涙が出そうになった。でも、悲しいわけじゃない。胸がふわっと膨らんで、すごく椎堂にキスしたくなった。
椎堂の指を握ると、言葉に出してないのに、椎堂が顔を近づけてきてくれた。重なった唇がこすれあって、熱が生まれる。
「な、エッチしよ?」
オレが誘いを言い終える前に、椎堂の手が服の中に入ってきた。キスを重ねながら服を脱ぎ、静かに静かに、繋がった。
「っ……、はぁっ……」
さっきは椎堂をいかせたくて一生懸命口いっぱいに頬張ってたけど、何度も挿入されたアナルのほうが、しっくりと椎堂が体に馴染むようになっていた。
「しどう……、キス……」
ねだったら、キスをしながら突き上げてくれた。上も下も椎堂にふさがれて、体中が満たされた。
「あっ、もう、いくっ……」
大きな波が押し寄せるのが、いつもより早かったかもしれない。
「くっ……」
締め付けた中で、椎堂もどくんどくんと脈打った。
口の中に出されるのも達成感があったけど、やっぱりオレの中でいってくれたときの充溢感には代えられない。
「はぁっ……、きもちいー……」
荒い呼吸のまま、椎堂が唇を擦り合わせてくる。互いの息がくすぐったい。
「……有」
「ん?」
「好きだ」
椎堂はずるい。
本人は全然甘党じゃないくせに、こんなふうにたった一言でオレをチョコレートみたいに溶かしてしまうんだから。