人々の生活は静的なものではないのに、なぜユーザーエクスペリエンスというものがあるのか。
昨年、私は私とNikeのトレーニングアプリとの関係性について記事を書いた。このアプリは私のパーソナルトレーナーであり、日々のトレーニングに必要なすべての指導や支援をしてくれる。このアプリを使うことで、人間のパーソナルトレーナーに頼ったりジムに通ったりする必要性がほとんど無くなり、人間関係において期待される個人的な接触が取り除かれてしまった。私とアプリの関係は健康的で一貫したものだった。
今年の夏、私はサッカーの試合中に敵のチームと衝突して何かが破裂した。前十字靱帯損傷と内側半月板断裂という怪我を負ったのだ。先日手術を受けたが、この先数か月にわたって理学療法を行うため、これまで毎日行っていたNike Training Clubのトレーニングを中断している。私の靭帯と同じように、私とNikeとの関係は(一時的に)切断されてしまった。
私が怪我をしている間も、このアプリは私の人生に関わる人々とは異なり、私の元から離れるすべが無い。そもそも何が起きたのかも知るわけが無いのだ。アルゴリズムにとって、私は脱落者のひとりに過ぎない。
私がこのアプリに最も望むことは、トレーニングの時と同じ方法で怪我の回復においても応援して欲しいということだ。もしもアプリの中に、怪我をしたアスリート向けのストレッチのセクションがあったらどうだろうか。もしもアプリを通して、同じ怪我を負って回復中の他の誰かと繋がることができたらどうだろうか。
ブランドはユーザーの人生に寄り添う体験をどのように作り出すか?
休憩を必要としている人がいた場合、企業またはブランドのあり方とはどのようなものだろうか。怪我をしたアスリートに対するスポーツ関連企業の対応はひとつの例だが、他にも無数の状況がある。旅行ができない場合の航空会社の対応、長期休暇で留守になる場合の公益事業会社の対応、財政的に苦しい場合の銀行の対応などが例に挙げられる。あるいは結婚、転職、または引っ越しなどの人生における重大な変化に直面した場合はどうだろうか。
ビジネスの利点とは、ユーザーにダウンタイムや人生の転換期が訪れた時でさえも彼らを追い払わずに関係を維持することで、ユーザーと共に成長し変わっていけることだ。
ビジネスにおいて持続的な関係を築くことができる3つの方法
1. 対話を続ける
インスタグラムにはペット愛好家のためのアカウントが溢れている。そのひとつが、Jess Rona Groomingだ。このアカウントでは、着飾った可愛い犬たちの写真と動画が頻繁に更新されている。11万人のフォロワーは、何も見返りを求められること無く面白いコンテンツを見ることができる。しかし、それにも関わらず、フォロワはある手段でお返しをする。全ての写真には数千もの「いいね」とコメントが寄せられ、それによって他の人たちの目にも触れることになる。現在、このロサンゼルスに拠点を置く犬のトリマーには、10万人以上のユーザーはいないかもしれないが、会社の知名度を高めてくれる世界中のファンとの関わりを持っている。そして私のような人間(以前、犬を飼っていて、近いうちに新しい犬を飼おうとしている)にとって、Jess Rona Groomingは確実に最終候補に挙がるだろう。
2. 低リスクで試すことができるようにする
アウトドア用品店のAlite Designsは、人々がアウトドア用品の購入を思いとどまるのは、高額な費用が原因であると承知している。年に1、2度しかキャンプをしない私のような人間は、テントに何百ドルも費やしたいとは思わない。むしろ、キャンプなど全くしたくない。キャンプにめったに行かない、または全く行かない人たちのハードルを下げるため、Aliteは週末に用具一式を無料で予約して借りることができる、貸出ライブラリーを建てた。この取り組みのおかげで、本来であれば決してAliteの用具一式を試さなかっただろう人たちが、うまくいけばキャンプに熱中しAliteの固定客になる。
3. 主力商品に付随するものを作る
季節に関係するビジネスやサービスには、オフシーズンのツールを売り出し物の足しにする機会がある。ユーザーに一年中わずかながらも利益をもたらすことで、新規参入が登場しても毎年固定客でいてくれる可能性は高まる。例えば、TurboTaxは納税申告を行う一連の作業を簡素化した製品を毎年リリースしており、慈善寄付などの課税控除を追跡する、ItsDeductible Donation Trackerのようなアプリを暫定期間で提供している。そして納税申告の時期が来ると、ユーザーはそのデータをエクスポートしTurboTaxに取り込むという、統合された体験をすることができる。ブランドはユーザーの生活の中で存在感を強めることで、ユーザーとの関係も強めていく。
変化するニーズに応える柔軟性
現在ほとんどのブランドが、ユーザーの生活が変化しないことを前提として、エンドツーエンドの体験を作り出している。
例えば、毎日のトレーニングを模索して達成するまでのエンドツーエンドの体験や、ある機会に履く最適な靴を選び買うまでのエンドツーエンドの体験を作ることは、出だしとしては良いだろう。しかし問題は、私たち人間が同じことを繰り返して生活しているわけではないということだ。日々、私たちの行動や感情は異なり、それが予想通りの時もあればそうでない時もある。そして、数週間、数か月、あるいは数年にわたって生活は変化する。あるアプリの体験が今日の私たちのニーズに応えていたとしても、次の日には完全に古くなってしまっているかもしれない。
製品やサービスをデザインするときは、人々は単に商品を買うユーザーではないことを覚えておかなければならない。人生は色々なことが起こる。そして”ユーザー”のブランドへの関わり方にも影響を与える。あなただったら生活が変化した人々とどのように関わるか考えてみて欲しい。
私はほとんどの場合に、Nikeアプリが期待する特定の方法で動くことができるため、このアプリによる体験は役に立つ。ただし、常に私の変化するニーズに応えてくれる柔軟性があったら、さらに素晴らしいだろう。その時まで、できるだけ早くアプリのバックアップを取り、起動しておくつもりだ。