他国を攻撃させるために自国のナショナリスト(国家主義者)を解き放ち、逆に同じナショナリストに倒された政権の事例は歴史上いくつもある。中国共産党はこのことを知っている。にもかかわらず、その時々にたまたま中国を刺激した国がどこであれ、中国はその標的に対する攻撃をあおり、ボイコットを促さないと気が済まない。
今回は韓国にその順番が回ってきた。韓国は、北朝鮮による核武装の脅威にさらされるなか、国内に米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を配備すると決断した。これを受けて中国は、そのレーダーの監視範囲が中国の奥深くにまで届くことから、この配備は地域の戦略的バランスを崩し、中国自身の軍事力を弱体化させると主張している。
これこそが、米国政府によるTHAAD配備計画の理由の一部であることに間違いはない。米国は、中国に依存する北朝鮮を制する中国の行動は不十分で、そのことに業を煮やしているのだと中国政府に告げている。もし中国がTHAAD配備を望まないのであれば、北朝鮮による挑発的攻撃を抑え込むようさらに手を打つべきだ。
■子どもにも韓国ボイコット教え込む
だが、中国共産党はそうする代わりに、反韓国の辛辣な批判や、韓国ビジネスに対する攻撃、中国人観光客の訪韓阻止を国営メディアで展開した。さらには、学校の子どもたちに対してさえも、韓国製品に対する大規模集会やボイコットを教え込んでいる。
中国による攻撃の矢面に立ったのは、THAAD配備に土地の一部を提供した韓国のスーパー、ロッテだ。中国で展開する99店舗の実に87店舗は一時的、もしくは恒久的に閉店させられた。なかには、偽りの「防火安全対策」違反の標的になった店舗も多かった。こうした行為は世界貿易機関(WTO)の規則に抵触する可能性があり、韓国政府は既に、WTOに中国の行為を調査するよう求めている。
中国は現在、米国のトランプ大統領が持つ保護主義への強い衝動に対抗しようとしているが、そのなかで、中国自身がとったこの行為は自滅的だ。中国がグローバル化を嫌っていると非難する西側諸国に、攻撃の手段を与えるようなものだ。
中国は、単に国民の意見を反映したものだとして、対韓国の抗議行動から距離を置こうとした。だが、中国では、党の指導者がいら立ちを募らせる最新の的(韓国)に対して不満を募らせる人たちを除いて、公の場でのあらゆる形の抗議は実質的に禁止されているのだが。
■ナショナリズム利用は慎重に
中国が、韓国の次期大統領にTHAAD配備を撤回させることを期待して、ボイコットを促し、反韓感情をあおっているのは明かだ。韓国の大統領を罷免された朴槿恵(パク・クネ)氏の後任を選ぶ選挙は5月上旬に実施される。後任の最有力候補は、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表で、配備を見直すこと既に表明し、米国に対して「ノー」と言うことを学ばなければならないと語っている。どの候補が大統領になっても、北朝鮮との緊張緩和の道を探らなければならない。また、最大の貿易相手国である中国とも協力しなければならないだろう。だが、中国の経済的圧力に屈したり、一方的にTHAAD配備を撤回するのは過ちだ。
中国は、圧力をかけるのは効果的だと考えており、他国との対立に経済的ナショナリズムを利用し続ける。これまで圧力で他国を引き下がらせることに成功してきた。良識のある指導者なら、自国でナショナリズムをあおる一方で、そうした戦略的要請と商業的強要を混同して他国に対することには慎重になるだろう。この混同は貿易関係をこじらせるだけでなく、同じナショナリストが、結局は自分にとっても手に負えない勢力であると証明しかねない。
(2017年3月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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