子供はみな言葉を自然に覚えて話すようになる。なぜだろうか? 人は言語を習得する機構を生まれながらに備えている,つまり普遍的な文法が生得的に組み込まれている──というのが,ノーム・チョムスキーが20世紀半ばに提唱した有名な「普遍文法仮説」だ。彼は普遍文法によってすべての言語を説明できると唱え,言語学に大きな影響を与えた。しかし,この説は実証的な証拠を欠いているために疑問が呈され,実際の言語習得過程を調べた研究に基づく新たな考え方が登場している。「用法基盤モデル」と呼ばれるもので,子供は言語専用ではない一般的な認知能力や他者の意図を理解する能力を用いて言語を習得しているという見方だ。
著者
Paul Ibbotson / Michael Tomasello
イボットソンは英オープン大学の講師で,専門は言語発達。トマセロはドイツのライプチヒにあるマックス・プランク進化人類学研究所の共同所長。近著は「A Natural History of Human Morality」(ハーバード大学出版局,2016年)。
監修辻 幸夫(つじ・ゆきお)
慶應義塾大学法学部教授。関心のある領域は認知科学,言語心理学,神経心理学。日本認知言語学会会長。
関連記事
「生まれながらの協力上手」,G. スティックス,日経サイエンス2014年12月号。
原題名
Language in a New Key(SCIENTIFIC AMERICAN November 2016)