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保全作業員や調査データ足りない ラムサール登録・中池見湿地

管理の大変さについて語る中池見ねっとの上野山事務局長=敦賀市樫曲の中池見湿地で

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 国際的に重要な湿地を保全するラムサール条約に、中池見湿地(敦賀市樫曲)が登録されて今夏で五年。知名度が上がり来場者が増える一方、保全のための作業員や調査データの不足で手入れに悩みを抱えている。維持管理費の確保という課題も残ったままだ。

 「イノシシに荒らされたあぜを元に戻したり、電気柵に草が当たらないよう刈ったりで精いっぱい。田んぼを増やせばもっと(シダ植物の)オオアカウキクサなどが見られるようになるが、維持する労力を考えると二の足を踏む」。ビジターセンターの前で、管理する地元のNPO法人「中池見ねっと」の上野山雅子事務局長(54)が険しい表情を見せる。

 ねっとは、二〇一〇年度から市に管理を任された。自然観察会や稲作体験の開催、動植物調査と活動はさまざま。ボランティアを募ってセイタカアワダチソウなど外来種の駆除を行うが、湿地は広い。市は年間に延べ六百人の作業員が必要とみるが、現状は四百人程度にとどまる。「森林のパトロールまで手が回らない。ボランティアを増やす仕組みを考えなければ」と上野山事務局長は明かす。

 市環境廃棄物対策課の担当者は「管理の経験や知識があり、中池見に対して愛着もあるので託したい」と考えており、人材確保が急務となっている。

 「湿地を囲む森の保水力のデータがないので、間伐など適切な管理の仕方が分かっていない」と、湿地に詳しい中部大の村上哲生教授は湿地の水源の大切さを説く。一四年の環境省生物多様性センターの報告書では、管理が不十分などの理由で明るい森林を好むヒョウモンチョウ類が見られなくなっていると指摘された。村上教授は「湿地の水量や、湿地と森を行き来して暮らす鳥にも影響を与える。保全の在り方を考えるためにも基礎資料が必要」と訴える。

 年間に二千二百万円ほどかかる施設の維持管理費も気掛かりだ。市は〇五年に大阪ガスから受けた寄付金四億二千万円から充てており、一六年度末時点で残りは一億二千六百万円を見込む。

 二二年度には底をつくとみられ、市は一六年度からふるさと納税の寄付の使い道に「中池見の保全・活用」を設け、約三十万円を集めた。市やねっとのメンバー、有識者らでつくる「中池見湿地保全活用協議会」でグッズ販売も検討中だ。

 来場者数は条約に登録された一二年度から上向いており、一五年度は二万九千人となった。それでも、同課の担当者は「湿地へ訪れたことのない市民もおり、寄付の代わりに市の一般財源を使うには一層の来場者が求められ、収入を得る方法も考えることが必要」と打ち明ける。山積する問題に「協議会で市民と行政、専門家が一体となってスピード感のある対応をしなければならない」と危機感を募らせる。

 (古根村進然)

 <中池見湿地> 絶滅の恐れのあるデンジソウなど2000種以上の動植物が生息し、2012年7月に湿地(25ヘクタール)と周辺の森林計87ヘクタールがラムサール条約に登録された。地下40メートルほどにわたって堆積した泥炭層には、世界でも珍しい約10万年分の気候変動の記録が残るという。市街地の近くにある。

 

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