(忘れてしまうので取り急ぎ。間もなく開催の、パリ国際ブックフェア(サロン・ド・リーブル)で、先日亡くなった谷口ジロー氏を追悼します)
谷口 ジロー(1947年8月14日 - 2017年2月11日)鳥取県出身。多臓器不全により死去。満69歳没
1か月前のあの日2月11日、一報を聞いたときには全く信じられなかった。そんなはずはない。ラフカディオ・ハーンを素材とした作品を用意していると以前読んだのに…。
気も動転しながらすぐにチェックしたのはフランス紙。ああ、どこも訃報を載せている。自分はやっていないながら必ずチェックしている、フランスの編集者たちのTwitterも。皆が一斉に谷口ジローさんの死を伝えていた。Nooooooh!と叫んで…。
なんということだ。60代なんて早すぎる!
それにしてもおかしい。記憶を手繰ってみた。2015年は谷口さん、パリにいたよね。そう、あのあと。
展覧会の建物
毎年フランスで開催されるアングレーム国際漫画祭(Festival international de la bande dessinée d'Angoulême)で、2015年には大規模な谷口ジロー原画展を開催したのである。
谷口はフランスはじめヨーロッパで非常に高く評価され、愛されている漫画家である。漫画の重要な賞は一度ならず受賞しているし、フランス政府から勲章ももらっている。作品はほぼ全部翻訳されて2000年に入った頃から広く読まれ、特にフランス、ベルギーに熱烈なファンが多い。
展覧会に集まった人たちを見ても、老若男女広い年代の読者を獲得しているのがわかる。朝の9時だというのにこの行列である。
これは展覧会で披露された鳥取県モチーフのバッグ。
Angoulême 2015 expose les majestueuses rêveries de Jirô Taniguchi
谷口はそのあとパリへ移動し、友人のBD作家の展覧会Revoir Paris l'Exposition | Francois Schuiten & Benoit Peetersを訪問した。
Jiro Taniguchi visiting "Revoir Paris" | Francois Schuiten & Benoit Peeters
ブノワ・ペーテルス(左Benoît Peeters*1) とコリンヌ・カンタン(翻訳家・出版エージェント Corinne Quentin )と共に。↑↑上のサイト、貴重な写真がたくさん↑↑
HOMMAGE À TANIGUCHI「タニグチに捧げるオマージュ」
パリ国際ブックフェアにて、谷口の作品を翻訳出版している4つの出版社(Rue de Sèvres, Kana, Futuropolis, Casterman. )が共同で展覧会と講演会を主催する、という。
谷口ジローの魅力
谷口は仏・ベルギーのBD(バンド・デシネ、ヨーロッパの漫画)の影響を濃く受けている。
「40年前、まだアシスタントをしている頃ですよ。洋書店でバンド・デシネを見てびっくりしたんです。まずその絵のバリエーションの豊富さ。それからセリフなどが多く、ストーリーがテンポよく動かない。でも読みにくいのも一つの魅力なんですね。僕自身『何か違うものに挑戦したい』と感じていたので、バンド・デシネとの出会いは衝撃でした」
谷口は巨匠メビウス(本名ジャン・ジロー*2)やフランソワ・スクイテン(*3)、エンキ・ビラル(*4)といった作家たちから学び、さきにあげたブノワ・ペーテルスと親交を結ぶのである。(ブノワ・ペーテルスとフランソワ・スクイテンは一緒に仕事をしている)
日本の漫画を全く読んだことのない世代でも、谷口の世界には自分らが馴染んだBDの匂いがあって、すんなり入れるという。またフランスではもともと日本映画、小津安二郎らの人気が非常に高いのだが、似た雰囲気を感じるのだという。
谷口もよく日常のささやかな出来事を描く。そこに潜む小さなドラマや心の機微や深み、詩情あふれる風景を味わう。じっくりと時間をかけて読み、確かな画力の、洗練された美しい絵を楽しむのである。
またフランス語でいう protéiforme,変幻自在なところ、つまり様々な分野の作品を手掛けるのも驚きで、信じがたいほどの広さだという。
谷口は1966年に上京してアシスタントをやりながら漫画の勉強をした。『嗄れた部屋』(1971年)でデビューしたあと、上村一夫のアシスタントを経て独立。
そのあと、関川夏央ら漫画原作者と組んで、ハードボイルドや動物もの、冒険、格闘、文芸、SFと多彩な分野の作品を手がけた。(ウィキペディア)
数年まえに『柳生秘帖〜柳生十兵衛 風の抄〜』(1992年)が復刊。時代劇まで描いていたとは!
2010年には『遙かな町へ』(2002年アングレーム国際漫画祭最優秀脚本賞、優秀書店賞)を原作に、舞台をリヨン近郊としたフランス映画 ”Quartier Lointain”が作られた。
監督は『やわらかい手』などで知られる名匠サム・ガルバルスキ。
美しいフランスの街並みの中で、『遥かな町へ』の世界観を見事に映像化した本作は、ヨーロッパで高い評価を受けている。(日本でもDVD発売)http://books.shopro.co.jp/bdfile/2013/02/dvd.html
谷口氏、語る。
「向こうのサイン会に行くと、小さな子供が並んでいるんですね。
『何が書かれているのか分かるんですか』と聞くと、『分かります』と。絵本を読むようなもので、じっくりと文章を読んでくれる。テンポ良く読み飛ばしていく、という作品とは違うものとして評価されているのだと思います」。
『歩くひと』では、郊外の一軒家に妻、飼い犬1匹と住まう男が近隣を散歩する、その情景が淡々と描かれる。セリフが一言も出てこない回もあるぐらい、言葉による説明は極限まで省かれている。しかし“行間を読む”と表現すべきか、細密に美しく描き込まれた自然や動物、家々、登場人物の表情やしぐさなどから、じんわりと温かいものが伝わってくる。
http://toyokeizai.net/articles/-/60953?page=3
ダウン症の少女の物語ーフランス人作家と組む
”Mon année『私の一年』”Version crayon Edition Limitée Deluxe Vol.1 Relié – 11 novembre 2009
原作は1969年生まれのJean-David Morvan氏。ダウン症の少女キャピュシーヌが10歳から11歳までの一年間の物語。学校が受け入れてくれないことや、自分のせいで両親が疎遠になったのではないかと悩むが…。
おなじみ孤独のグルメ
『 孤独のグルメ Season6 』4月7日(金)スタートだそうです。
原作の久住昌之さんのインタビュー記事がおもしろい。
変わる食:「孤独のグルメ」 みんなおなかがすく そこを面白おかしく - 毎日新聞
谷口ジローさんに描いてもらうというのは編集者の希望でした。谷口さんは、手塚治虫文化賞マンガ大賞を受けることになる「『坊っちゃん』の時代」ですでに偉い先生だったから、こんな漫画を描いてもらうにはかなり編集者のゴリ押しがありました。94年から96年まで連載して、PANJA休刊に合わせて単行本にしました。
(略)
漫画はすでに8言語(日本、イタリア、フランス、スペイン、ブラジル、中国、韓国、ドイツ)で出版されています。台湾での出版に続いて今年中に中国、そしてポーランドとデンマークでの出版も決まりました。おいしそうに食べている人を見ると、誰でもおいしそうと感じるんですね。「イタリア人がこの面白さ、わかるんですか?」なんて言う人がよくいる。高崎の焼きまんじゅうの味がイタリア人に分かるかって。でも、このマンガを好きなイタリア人に実際会ったら、「たしかに高崎の焼きまんじゅうの味はわからない。でも主人公がおいしそうに食べているから、無性に食べたくなる」と。
(略)
漫画を描くって大変な労働ですよ。谷口さんは1コマに1日かける人だから。アシスタントを2、3人使って、たった8ページを1週間もかけて描いたら、赤字じゃないですかね。谷口先生はそれでも手を抜かず描く人なんです。「孤独のグルメ」が長く読まれているのは間違いなく谷口さんの絵の力です。今年、18年ぶりに第2巻が出る予定です。
(略)
(Copyright 毎日新聞)
本当におもしろい記事、おすすめです。
谷口氏については、フランスで対談本が出たり、ドキュメンタリーが作られていたり、書きたいことはまだたくさんある。私がベルギーで初めてt作品を出会ったときのことなど。
ですが、とりあえず今日は終わります。
注:フランス・ベルギーの作家については過去記事で。
ブノワ・ペーテルス(*1)・フランソワ・スクイテン(*3)
メビウス(*2)
参考:ルモンド紙 訃報記事
参考:谷口作品を翻訳出版している4社のうちの一つ、
Casterman社から出ているもの。