起伏の山あいに金銀の泉がわく 古湯の有馬温泉散策
- 文 写真 中尾隆之
- 2017年3月22日
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有馬温泉の中心は三つの川の合流点周辺
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老舗の商店が趣ある通りをなす湯本坂
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古くから人気の三津森本舗の炭酸煎餅
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手焼きは若干高めだが風味はふっくら
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土産に買いたい灰吹屋西田筆店の有馬筆
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中心街にある日帰りの金の湯。650円
神戸中心街の北東郊、裏六甲の山裾に六甲川、有馬川、滝川の三川が合流する起伏の地に湧出する有馬温泉は、神代の昔、大己貴命と少彦名命が見つけたと記述にある日本最古のいで湯である。
日本書紀には舒明天皇、孝徳天皇、奈良時代には僧行基が復興、平安時代には白河法皇、後白河上皇、鎌倉時代には僧仁西が湯治客のために12の宿坊を開いた。有馬の宿の名に坊の字が付くのはその名残だが、最もにぎわいを呼んだのは太閤秀吉が千利休を引き連れて度々来湯し、茶会も開かれた頃。ねねも淀君も連れてきている。
そんな由緒深い歴史をつづる温泉街の表玄関は神戸電鉄有馬線・有馬温泉駅。駅前の坂道のすぐ右に豊太閤像のある湯けむり広場があり、その先が土産物屋や観光案内所、銀行、バス停などが連なる中心街だ。
見渡せば高台や谷筋にレトロやモダン、「坊」を名乗る宿も何軒か見える。そうした建物の間、木造・格子造りの炭酸煎餅や松茸昆布の老舗などが連なる湯本坂を皮きりに湯の町散歩。途中、目を引くのが足湯や飲泉所も備えた金の湯(078・904・0680)。大理石の重厚な浴槽に鉄分の多い赤茶色の湯がたっぷりの共同浴場で、有馬温泉を象徴するナトリウム-塩化物強高温泉。その色から“金泉”と呼ばれ、ラジウム泉と炭酸泉の透明でさらりとした肌ざわりの“銀泉”と対比して、二つの泉質は有馬の大きなウリになっている。
その泉源が温泉街に6カ所あり、もうもうと湯煙が上がっている。中心街を見下ろす学問の神様・天神社境内に湧く天神泉源では、98度の熱湯がゴボゴボ。白い湯煙を絶えまなく上げて、湯の町気分を盛り立てる。
湯本坂には筆を立てると筆軸に仕組まれた人形がひょこっと飛び出す西田筆店のカラクリ「有馬筆」や小麦生地を有馬の炭酸泉で薄く焼き上げたパリッと軽やかな歯触りの三津森本舗(078・904・0106)の「炭酸煎餅」などいろいろな店がある。
中心街では温泉寺や極楽寺の辺りには共同浴場の「銀の湯」(078・904・0256)や秀吉ゆかりの太閤の湯殿館などもあり、湯の町散歩が十分楽しめた。
1300有余年前から湯が絶えず、町がくたびれず、京阪神の奥座敷として栄え続けてきたのは、やはり泉質と自然、歴史の誇りのせいだろう。
アクセス・問い合わせ
・神戸電鉄有馬温泉駅下車
・山陽新幹線新神戸駅前からJRバス30分
・有馬温泉観光総合案内所 078・904・0708
※都道府県アンテナショップサイト「風土47」より転載。