重症児者にとっての地域包括ケアは 旭川荘の末光理事長による連載(下)
2017年03月22日 福祉新聞編集部今、高齢化に伴う介護と医療を取り巻く課題を、国全体としてなんとか乗り越えていくため、厚生労働省は、「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。重症児者にとっての地域包括ケアシステムは、どうあるべきなのでしょうか。
地域で重症児者が安心して暮らすための3本柱は(1)短期入所事業(2)重症児者通所事業(3)在宅訪問看護・リハビリ・介護事業――が挙げられます。これに加え、相談支援事業と重症児者グループホーム(GH)への取り組みも、始まりつつあります。
ただ、本人の意思確認ができる重症児者をGHに移行する取り組みについては、重症児者施設から離れた単独のGHだと、緊急時の対応面での不安が強いため、なかなか普及しません。
精神科のGHについては、病院の敷地内でのGHを2024年度まで認める特例措置が講じられていることから、重症児者にも特例を適用するよう要望しているところです。私は条件が整えば約4000人が移行可能だと推計しています。
また、国は都道府県・政令市レベルで「重症児者支援センター」を設置し、そのバックアップのもとで、重症児者コーディネーターによる地域特性に応じたシステムづくりを推進したい考えです。
市町村で活躍する人材としては、重症児者に関する専門的な研修を修了した「重症児者支援員」を養成します。また、市町村レベルでは地域ネットワークづくりのための「重症児者コーディネーター」の養成を急いでいます。
国の要請を受け、私は15年度に1年間かけて、コーディネーター養成のカリキュラムとテキスト作成に取り組みました。この養成事業は、16年度から各自治体レベルで、国の助成のもと、実施されることになりました。
このほか、この2~3年で浮上した新しい課題として、「医療的ケア児」があります。NHKの報道によると、全国に1万7000人いるとのことです。
本来の重症児は医療的ケアが必要です。ところが、同じように医療的ケアが必要なのに、知的障害がないか、あってもごく軽度の子どもや、気管切開やチューブ栄養なのに歩行可能な子どもは、重症心身障害の定義に該当しないため、法の谷間に取り残されているのです。
この問題については、15年の野田聖子・衆議院議員を座長とする「ワーキングチーム」が関係団体をヒアリングし、さっそく16年の制度見直しの対象に「医療的ケア児」が加わることになりました。
長期入所とともに短期入所の受け入れも可能なように、行政上の仕組みに並行して施設サイドの積極的な体制整備が必要です。
さらに在宅でがんばっている「医療的ケア児」に対する訪問看護やリハビリ面での支援、日々通っている保育所や学校への訪問指導などにも、前向きに取り組むべきだと考えます。
重症児施設が積極的な役割を果たすよう、関係者の前向きな対応が必要です。
【略歴】1942年生まれ。岡山大学医学部卒業。趣味は35年続けているマラソンで、ベスト記録は2時間45分。最近は障害者芸術や高齢知的障害の健康に関心がある。
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