【脚本家の地位向上 (2)】
中園「尾崎さんは結婚できない男で、だから『結婚できない男』(2006)が書ける。こんな変な人はいない(笑)。すみません、尾崎は助っ人だったんで、いじりやすいんですけど。いびつなところや困ったところが魅力で、こういう人が書いたものがぐっときちゃう。身を削って、人生賭けて書いてますね」
尾崎「(真顔で)真面目なご意見、ありがとうございます(一同笑)」
大石「私たちの場を奪われても困るけど、優秀な人が出てくること。前は新しい人が出てくるとつぶれてくれと思っていたけど、いまはがんばってねと。
以前はいちばん前に脚本家のタイトルが出ていて、でもいまは俳優さんが出て、スタッフのところに出る。なぜそうなったかというと、原作ものが多いから」
尾崎「朝ドラを書いて、尾崎です、脚本家ですって言うと、“何書いているんですか”って。『梅ちゃん先生』(2012)って言うと、全部見てましたって。全156回見ていても、脚本家が頭にインプットされない。ドラマはおもしろいって思っても。それってどういうことなんだろう。一生懸命見てくれればそれでいいのかもしれないけど、自意識としては認めてほしい、と」
大石「作品を大事にしてもらえればいいかなとも思うけど」
尾崎「去年、『ちゃんぽん食べたか』(2015)っていうさだまさしさん原作のドラマをやって、熊谷さんにも出ていただいて。局の掲示板を見ていたら、面白い、俳優さんもいい、原作をドラマ用に直す係の人もいいです、と(一同笑)。これが一般の人の感覚なのかな。ちょっと厭だなと」
羽原「原作の小説があるのに、あなたの仕事はなんですかと言われたことがあります」
尾崎「やはりオリジナルですか。しーんとしてしまいました」
【その他の発言】
熊谷「控え室で、みなさんお友だち同士ですかって訊いてしまったんですが」
尾崎「友だちではない。たまに会うくらい(一同笑)」
大石「局ですれ違って、こないだシンポジウムやったなって思って、“あ、どうも”と」
熊谷「役者も椅子取りゲームみたいですから」
中園「それはこちらもそうですよ」
熊谷「でも連帯感はある。脚本家には連帯感がないんですよね」
中園「頭の中で人が動いて、それが友だち」
熊谷「井上(井上ひさし)先生はよく劇場へ来て、よかったよかったって。役者がよかったのか、自分の台本がよかったのか(笑)。テレビの方ももっと威張ってください」
中園「こんな話してると、誰も脚本家にならないんじゃないですか」
大石「じゃあなってよかったことは?」
羽原「満員電車に乗らなくていいとか」
大石「(書いているときは)ひとりぼっちだけど、監督がうまく処理してくれてるのを見ると、共同作業をやってよかったなって。だいたいがっかりすることが多いけど」
中園「道を歩いてて、小学生が自分の台詞を言ってくれてたりすると、寝られなくてもいい。その子のランドセルを抱きしめたくなる。
私はシングルマザーで子どもを預けて書いていたので、あの“日本死ね”って(ブログに)書いた人を取材したい。自分に引きつけると、あの問題は4人の脚本家の中でいちばん切実に書けるかな」
最後にシナリオライター志望者にアドバイス。
大石「シナリオ学校より、映画やドラマ、お芝居を見たほうがいい。強い忍耐力と打たれ強さがなければできないよ」
羽原「現場叩き上げで、長いものに巻かれて食いつないできました。全部自分に落とすというか、大きな嘘をつくために、自分に落とすといいかな」
中園「ほんとにお金にならなくて、いまも借家。脚本家で家を建てたのは岡田恵和くらい。才能はゲームやコンピューターに行ってますけど、お金じゃない歓びがあるので。これだけ愚痴ってから言っても、説得力ないけど。裾野が広がってくれないと、私たちもいつまでも若づくりして連ドラ書いていけないし。私はOLも何やってもダメで、ダメな人ほど目指してほしいです。私は占い師やって人間ウォッチングしてたんですが、恋愛でも親子でも、人間って面白い。バカだけどいとおしいって感じていただきたい」
尾崎「講師をやって、生徒が書いた作品を読むことが多い。すると自分をさらけ出すことを恐れていますね。さらけ出す人はほぼいない。さっき話題に出た『結婚できない男』でも自分をさらけ出して、お金をもらってる。このはずかしさを乗り越えないと、脚本って書けない。母親との葛藤を書くとお母さんは見せられないけど、それをフィクションに落としてお母さんが読んでもおもしろいってだませるくらいになったら、プロに1歩近づいたかな」