土壌汚染がわかっていた豊洲への市場移転を、誰が、いかなる判断に基づいて決めたのか。

 東京都議会百条委員会による石原慎太郎元知事らへの証人喚問を終えても不透明さは残ったままだ。かわりに浮き彫りになったのは、決定にかかわった人々の驚くべき無責任ぶりだ。

 質疑から、都が東京ガスと01年に「水面下」で交わした文書の存在が明らかになった。豊洲の汚染物質の処理は都条例の範囲にとどめるとし、完全除去までは求めない内容だ。交渉の基調となり、11年に都は「今後の汚染対策費は東ガスに負わせない」とする協定を結んだ。

 政策を進める際に、相手の事情を踏まえ、譲歩や妥協をせざるを得ない場面はある。

 だがそのためには、状況を掌握し、他の方策も検討したうえで決断することが不可欠だ。とりわけ費用が百億円単位になる事業とあれば、最上層部が知らないでは済まされない。

 実際はどうだったか。

 石原氏は豊洲問題について「大きな流れに逆らいようがなかった」と証言し、当時の浜渦武生副知事に一任したと述べた。豊洲移転を表明した10年、「知事が歯車を大きく回すしかない。それがリーダーとしての責任だ」と会見で語った石原氏の、これが実像なのか。

 浜渦氏は05年までナンバー2として石原氏の名代を務めた。だが、市場問題に携わったのは01年文書を結ぶ前までだとし、「私のどこに責任があるのか」と気色ばんだ。元市場長らも水面下交渉について「知らない」をくり返した。

 汚染対策に巨費を投じた末に、こんな情けないやり取りを目の当たりにしなければならない都民は、その気持ちをどこにぶつければいいのか。

 もうひとつあきれたのは、都がいま保管している01年文書は原本ではなく、作成の6年後に東ガスからファクスで送られた写しだという事実だ。重要な合意が引き継がれず、幹部で共有もされない根底に、こうしたずさんな文書管理がある。

 小池百合子知事は、市場問題の経緯の検証が今後の移転判断に「影響を及ぼす」と述べる。検証はむろん大切だが、それが進まないことが判断の先送りを続ける理由にはなるまい。

 明らかになった無責任体質の反省に立ち、意思決定過程を透明にして、後世の批判に耐える都庁の態勢を築く。それが、知事が率先して取り組むべき課題だ。豊洲移転の是非についても、そのプロセスの中で結論を出していかねばならない。