最近、空港カレーなるものがブームらしい。たとえば、こういう記事がある。

「多忙な人ほど空港カレーをSNSにアップするのはなぜなのか?」

上の記事を読むと、中味は何のことはない、たんなるJALの宣伝だ。

この記事は「空港カレーの病理」というものが、まるっきりわかっていない。

空港カレーを流行らせたのは、LINEの田端信太郎氏だろう。彼は「純ドメ留学経験ナシの日本人が、入場料1000ドルの海外カンファレンスで英語でプレゼンできるようになるまで」という記事を書いている人物であり、「デキるビジネスマン」の代表だ。

その田端氏が、やれロンドンだ、ニューヨークだ、プラハだ、ダブリンだ…と海外出張するたびに、搭乗前に食べた空港カレーの写真をUPするわけだ。

その写真を目撃するたびに、(オレも、こういう時代があったな)と懐かしくなる一方で、(こいつ、壊れる寸前だぞ!)という危惧をいだかざるを得ない。

なにを隠そう僕も田端氏と同じ純ドメの田舎育ちだったので、英語なんてぜんぜんダメだったし、社会人になるまで飛行機というものに乗ったことすら無かった。

だから最初は海外出張が楽しかったし、海外に出れば出るほど、もっと、もっとという気持ちが働いて、前のめりに仕事をした。

パスポートに押されるハンコの数が増えると、査証のページが無くなってしまう。それで増補ということでページを増やしてもらう。

しかし増補で増やしたページも全てハンコで埋まってしまうと、今度は合冊といって、パスポートの後ろにもう一枚、パスポートを貼り合わせ、リボンを回すことをやる。

そんな感じで、自分が何回飛行機に乗ったのかを数えることが出来なくなるほど出張を繰り返したある日、空港カレーという、良くない習慣が身についてしまったことに気付くわけだ。

だいたい飛行機のメシなどビジネスクラスでもファーストクラスでも、美味しくない。

海外出張では、忙しいし、時差ボケもあり、睡眠が不足する。

すると機内でのサービスなんてどうでも良くなり、ただただ泥のように眠れることだけが贅沢になる。

機内に着席したら、頭から毛布かぶって、成田からSFOまでの全行程を、寝る。

余りに起きないので、「この乗客は死んだのではないか?」と起こそうとする機内乗務員も出てくる。

「あ、このお客さんは、いつもこうだから、起こしてはダメ!」という風に、顔なじみのスチュワーデスが制止している会話が、意識の遠くで聞こえる程度だ。

機内では、すべてのサービスをスルーして、ただ寝るだけなので、宇宙船での惑星間移動の際のコールドスリープみたいな、絶食状況が続くわけで、不思議と搭乗前には、体が何か炭水化物を欲するようになる。

知らず知らずのうちに空港カレーを注文してしまうのは、そのためだ。

だからハッキリ言って、味なんか、どうでもいい。

最初は空港カレーだけで済むわけだが、これが重度患者になると空港カレー+たぬきうどんになる。

空港カレーが黄信号なら、空港カレー+たぬきうどんは赤信号だ。

その後は、「ぷつん」と張りつめていた糸が切れるように、一切、飛行機に乗れなくなる。

壊れてしまうまでガムシャラに仕事することは、僕は勧めない。