B2B Startup Blog: 宇宙系スタートアップが急増するワケ

Entrepreneur誌より

Jeff Bezos氏のBlue Origin。PaypalマフィアのElon Musk氏の Space X。宇宙ビジネスにチャレンジする、主に米ネット系大手のニュースを頻繁に見かけるようになった。日本でも、堀江貴文氏のロケット打上ベンチャー ISTや、Axcel Spaceのような宇宙ベンチャーの大型調達も話題になっている。

一方で、大企業、VC問わず、業界外の方と宇宙ビジネスの話をすると、「日本でお金のかかる宇宙関連のスタートアップなんて…」と懐疑的な見方を多いという印象だ。私も色々調べる以前は同じ意見だったが、今は「日本でも宇宙系サービスが広がるのは必然であり、3–5年位の近い将来に幅広い産業で使われるようになる」と考えている。

今回は、宇宙ビジネスの概況、その中でスタートアップが増えている理由、そしてどのような産業にインパクトがあるのか、について説明させて頂きたい。


そもそも宇宙ビジネスとは?

まず宇宙ビジネスについて、簡単に説明したい。

宇宙ビジネスは大きく分けて、三つに体分される。人工衛星や人工衛星を飛ばすためのロケットにかかわる①地上系ビジネス、国際宇宙ステーションなどの②宇宙空間系ビジネス、惑星探査などの③天体系ビジネスだ。

NRI資料より

人工衛星を中心とした、①地上系ビジネスは民間主導に対して、②宇宙空間系、③天体系ビジネスは政府主導のビジネスになっている。
これを市場規模を見てみると、全体37兆円のうち、約70%の24兆円は①地上系ビジネスであり、宇宙ビジネスのコアになっている。その中でも、衛星放送や通信の様な衛星サービスが14兆円と一番大きい。

GV独自作成

つまり、現状の宇宙ビジネスは、衛星を使ったサービス領域が中心となっていると言える。
ちなみに、衛星と一言で言っても、タイプにより特長も用途も異なる。今後の動向を考える上でも、大型の静止衛星と小型の周回衛星の2つに分けて説明すると、以下の通りである。

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ざっくり言うと、気象衛星ひまわりの様な大型衛星は今後増えない一方、リアルタイムな情報取得が可能、かつ低コストな小型の周回衛星は今後3年間で、年間250-300機と激増する。つまり、今後3年間で、小型衛星を利用した衛星サービスが一気に増える/増やすことができることがお分かり頂けると思う。


なぜスタートアップの”宇宙”参入が増えたのか?

上では、宇宙ビジネスが衛星を使った衛星サービスが一番大きく、特に今後3年間で小型の周回衛星が増えることについて、触れた。ただ、この宇宙ビジネスが、なぜ政府や大企業ではなく、スタートアップで広がってくるのか?これについて、説明したい。

この現象を理解するためには、4つの変化(以下)を理解する必要がある。

1.宇宙の商業利用に関する法制度の変化
2.スタートアップの資金調達環境の変化
3.B2B/B2Cのユーザーの変化(=デジタル化)
4.テクノロジーの変化

1つ目は、法制度の変化である。
USでは1984年に商業宇宙打上法が制定され、商業利用が可能になった。日本でも遅れること、2016年11月に宇宙関連二法が制定され、民間の参入が可能になった。

2つ目は、資金調達環境の変化である。
US、日本を問わず、ベンチャー投資のリスクマネーが増加し続けている。加えてUSでは、宇宙系スタートアップへの助成金や税制優遇措置等も増え、初期投資が大きい宇宙系スタートアップでも、多額の資金調達が容易になってきた。

3つ目は、ユーザーの変化である。
消費者(B2C)は、スマホ普及によって、いつでも(僻地でも)どこでもつながるネットワークに加え、自動運転など衛星技術が必要な領域へのニーズも拡大している。
加えて、B2Bのデジタル化も大きい。前出の自動運転やドローン等のような衛星技術が必要なテクノロジーの活用拡大。そして、農業や建設業等の古い産業においても、人手不足を背景にテクノロジーの導入が進んだこれら屋外用途では、リアルタイムの地球環境データ(気象、地図等)を活用した最適化が必要である一方、サービス提供者がいない、もしくは既存サービスは高価で使えないという課題が見えてきた。そこで、ディスラプターとして、SpireやOrbital Insightの様な衛星データとその解析技術に強みをもつスタートアップが数多登場してきた。

最後に、テクノロジーの変化である。
1つは、ムーアの法則に従い、CPU/ストレージが高性能かつ安価になった。結果、人工衛星を大幅に小型かつ軽量で、安く作れるようになった。これにより、打上コストも下げることができ、一石二鳥である。
もう1つは、人工知能(AI)の進化である。衛星のリモートセンシングでは、恐ろしい量の画像データが取得される。この大量の衛星画像データから、有用なデータを抽出するにはAI技術が不可欠である。
これらの進化により、大企業でなくても、スタートアップでも十分勝負できるようになった。Silicon Valleyが宇宙系スタートアップのメッカであるのも、優秀なコンピュータエンジニアの獲得が容易であることが1つの理由と考えられる。


宇宙は、地上の産業にどのような価値をもたらすのか?

最後に、この宇宙スタートアップが地上の産業にどのような影響を与えるのかを、衛星画像を使用したサービス事例を元に説明したい。

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上記の図で判るように、自動車(自動運転)、海運、建設などの2次、3次産業のみならず、農業や水産業の様な1次産業においても、リアルタイムな衛星画像データが(安価に)獲得できないことが、技術上のボトルネックになっている。

まとめると、地上のデジタル化が宇宙ビジネスを拡大するトリガーになっており、その宇宙ビジネスが地上のデジタル化を更に拡大させる構図になっており、この流れは不可逆と考えられる。なので、日本でも(目的ではなく)手段としての宇宙活用をするスタートアップが増えてくることを、心から期待したい。