働き方改革で焦点となっている残業時間の規制について、繁忙期など特別の場…[続きを読む]
日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁が就任5年目を迎えた。当初から、2年…
・最新の社説は朝刊休刊日を除き午前5時半ごろ更新します。(編集の都合などで遅れる場合があります)
日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁が就任5年目を迎えた。当初から、2年程度で年率2%の物価上昇を目指すことを掲げてきたが、依然、実現を見通せていない。任期が残り1年になった今、国民への説明責任を果たすよう改めて求めたい。
まずは、現行の大規模な緩和策に潜むコストについてだ。
将来、物価上昇率目標が実現すれば、日銀は利上げが必要になる。その「出口」でどんな対応をするのか、日銀はほとんど明らかにしていない。黒田総裁は「経済・物価・金融情勢によって、出口での戦略も変わってくるため、時期尚早なことを言うと、マーケットに余計な混乱を及ぼす」と説明する。
たしかに、具体的な手順について予断はできない。だが想定される多くの場合で、巨額の国債を抱え込んだ日銀が大幅な損失を出す可能性がある。前提の置き方にもよるが、年間数兆円規模の損失が何年も続くと試算する専門家もいる。
もちろん、日銀の目的は物価安定であり、利益の最大化ではない。収益にしても長期間でならして考えれば、大きな問題にはならないとの見方もある。
そうだとしても、出口でのコストの議論を封印しているのは不健全だ。そのときになって急に公表すれば、日銀への信頼が失われかねない。黒田氏ら今の執行部が説明すべきで、「時期尚早」は言い訳にならない。
昨秋から始めた長期金利の操作も問題をはらむ。米国の利上げなどで長期金利の上昇基調が強まる中で、低水準に固定する操作は、市場への介入を強めることになる。操作に無理がないか、国債購入が財政難への政府の危機感をゆるめていないか、副作用についての説明も十分とは言えない。
説明責任を果たすうえで、注目されるのは政策決定会合での議論だ。会合には、正副総裁3人と6人の審議委員が参加する。いずれも、国会の同意を得て内閣が任命している。
最近の会合では第2次安倍政権下で任命された7人が執行部提案に賛成し、それ以前に任命された審議委員2人が反対するケースが続く。後者の2人は今年の7月で任期を終える。後任次第では、会合で表明される意見の幅が狭まりかねない。
次の審議委員の人選は、来春の正副総裁の後任選びの試金石でもある。多様な見解の持ち主による十分な討議があってこそ、政策は周到さを増し、国民への説得力も高まる。国会と内閣は、その責任の重さを自覚してほしい。