働き方改革で焦点となっている残業時間の規制について、繁忙期など特別の場合の上限を「月100時間未満」とする案を、政労使がまとめた。

 ほかに、労使協定で認められる残業の原則は月45時間までと法律に明記▽これを超える特例は年6カ月まで▽2~6カ月間の特例の上限は月平均で80時間以内、とする方向も固まった。

 これまで事実上無制限だった残業時間に上限が設けられる。長時間労働を改めていく一歩には違いない。だが、現状の深刻さを考えると物足りない。さらなる残業削減への努力を関係者に求める。

 上限規制を巡って「100時間未満」を主張する連合と「100時間以下」を唱える経団連が対立するなか、最後は安倍首相が「未満」とするよう要請した。連合に配慮を示した形だが、実態は当初「100時間など到底あり得ない」と反対していた連合の譲歩だ。

 合意ができず規制が導入できなくなっては元も子もないという判断もあっただろう。が、100時間を超える特別条項付きの労使協定は今でも全体の約1%にすぎない。現状追認と言われても仕方あるまい。

 過労死で家族を失った遺族は今回の案に強く反対している。月100時間の残業は、労災認定の目安とされる「過労死ライン」ぎりぎりだからだ。15年度に脳・心臓疾患で過労死と認定された96件のうち、月100時間未満の残業だった例は54件と過半を占める。懸念の声があがるのはもっともだ。

 そもそもこの上限は、どんな場合も超えてはならない「最低基準」だ。この範囲内の労使協定ならよいわけでなく、できる限り残業を減らす努力が求められることは言うまでもない。

 政府も、こうした考え方を徹底し、残業時間を短くする取り組みを促す考えは示しているが、どうやってその実を上げていくのか。さらに具体的に示す必要がある。

 合意では規制の実施状況を踏まえて5年後に見直しも検討するとされているが、さらに上限を引き下げていく姿勢をより明確にすべきではないか。

 厚労省が昨年11月、長時間労働が疑われる全国約7千事業所を対象に立ち入り調査したところ、労使協定を上回るなどの違法な残業が約4割で見つかった。規制は作るだけでなく、守られてこそ意味がある。指導監督態勢の強化も大きな課題だ。

 政府は疑問や不安の声に耳を傾け、実行計画やその後の法改正の作業にいかしてほしい。