豊洲市場 知事は速やかに判断を
東京・豊洲市場の移転問題は、いよいよ重大な政治決断を必要とする段階に入ったようだ。
豊洲市場で実施された地下水の再調査で、最大で基準値の100倍のベンゼンが検出された。前回9回目の79倍を上回る数字だ。基準値を超える有害物質が検出された場所も、29カ所のうち25カ所に上った。
外部の有識者で構成する専門家会議は、数値が大幅に上昇した理由について説明した。昨秋から本格稼働している地下水管理システムによって地下水の流れが変化し、局所的に残っていた汚染物質が移動した可能性があるという。
数値は8回目までと大きく食い違う。専門家会議で、市場関係者から反発の声が出たのは当然だろう。
小池百合子知事はこの結果を踏まえても、移転については「総合的に判断する」と、明言を避けた。
小池知事は先週の都議会で、豊洲市場の安全性は確保されているとも述べている。土壌がコンクリートで覆われており、地上の環境には影響がなく、法令上は使用に問題ないという理屈のようだ。
ただし、小池知事自らが消費者の信頼は得られていないと言ったように、この調査結果で安全といっても説得力はなかろう。
方針が決まらない以上、仲卸業者らは先の見通せない状況が続く。業者への補償費に充てられるコストもふくらむばかりだ。
7月の東京都議選に小池知事が率いる地域政党は大勢の候補を擁立する方針だ。知事は、都議選で豊洲移転を承認した都議会や、石原慎太郎元知事ら移転決定時の責任者の姿勢を問う意向だ。豊洲問題を争点にするため、知事は都議選までは築地市場の存続か豊洲移転かの判断をしないとの見方も出ている。
だが、巨額の費用が投じられた豊洲移転問題は都政の最重要課題だ。
再調査のデータが示された以上、知事はいたずらに判断を先延ばしすべきではない。
豊洲移転をめぐる都議会百条委員会ではきのう、東京ガスとの用地売買交渉を担当した浜渦武生元副知事の証人喚問が行われた。
東京ガスが実施する土壌汚染対策の範囲を限定することとした2者間合意について浜渦氏は「知らない。役人が勝手にやった」と証言した。
専門家に任せ報告を受けていなかったと述べた石原元知事に続き、当時の都政の2トップが自らの責任を回避するのは嘆かわしい。
ただし、百条委員会での責任追及が続いているからといって、豊洲移転問題を放置していいことにはならない。ボールは小池知事側に投げ返されている。