ここから本文です

オカムスが問う 「個人」としての幸せを奪ってきたのは何なのか…斉藤由貴「毒母」ドラマが示した行き詰まる家族の出口

日経ウーマンオンライン(日経ウーマン) 3/16(木) 5:00配信

 「あなたのため」という言葉を使って、娘の自由を奪い、支配する母親。母親の言うことに素直に従い、反抗など考えもせず、自分自身が望むものを抑圧してきた娘。顕子役の女優・斉藤由貴さんは、番組インタビューの中で、顕子が美月に取る行動を「フリルのついた暴力」と的確に表現しています。フリルのついた暴力――それを愛情表現なのだと信じているのは、母も娘も、同じだったのです。

●最終回で示された、閉塞する「いい家族ごっこ」の出口とは

 母の愛情は「異常」なのだ、「おかしいのはママのほう」なのだ、とようやく理解し受け入れることができた美月は、自分から離れていこうとする娘を異常な手段で引き留めようとする母に、とうとう「お母さん、私、娘をやめていいですか?」と通告します。また、最終回で、顕子は「あなたが娘をやめる前に、私がお母さんをやめるわ」と言い、顕子に離婚届を渡してジャカルタ行きを決めていた夫・浩司を追いかけます。

 「お母さんをやめる」というセリフに、私はそういう結末があったのか! と胸のすく思いがしました。脚本家・井上由美子さんが最終回で私たちに示した、お互いの行き場をなくした家族の出口。それは幸せ家族ごっこをやめ、個人対個人の関係性を正常に取り戻していくことなのだ、と感じ入りました。

 「母親」という言葉は自分の子供に対する立場を表すもので、それをやめることはできない。でも「(いい)お母さん」はやめることができる。それは、「ごっこ」だから。

「影のテーマは父親(男性)なのです」

 番組サイトに掲載された、臨床心理監修の信田さよ子さんによる「このドラマは一見母と娘の関係だけを書いているように見えますが、影のテーマは父親(男性)なのです」との言葉にも、ハッとさせられます。

「父と母の関係の崩壊、希薄化、対立が母娘関係の背景になっていることは間違いありません。多くの父親は、暴力をふるわない、ギャンブルや酒の問題もない、まじめに仕事さえしていれば合格点と思っています。その安心感のせいか、妻が何を考えているか、妻が孤独ではないか、といった人として当たり前の関心を失っていきます。関心を払われないということは、人として扱われていないことなのです」

(「NHK ドラマ 「お母さん、娘をやめていいですか?」スタッフブログ 2017年2月9日 「母娘ドラマへの誘い~出口はどこにあるのでしょうか~」信田さよ子さんからのメッセージより抜粋)

 この日本社会が昭和時代から連綿と「支配してしまう母」を生み出してきたメカニズムは、実は夫婦関係の崩壊と、その代償行為としての「いい母・いい子」関係にあった、とは多くの専門家が指摘してきたことです。

 思えば、日本の企業戦士家庭というモデルは、どれだけのものを私たちから奪ってきたのでしょう。

 長時間労働が常識あるいは美徳や正義とされ、1日の時間を、ひいては人生を丸ごと仕事に吸われてきた父親。家というものに従属させられ、そこで子どもを産み育て、社会に向けて閉じたドアの中でひたすら家族の世話に専従し、あれこれを思い悩んできた母親。そして、父親がほぼ不在で、母親との密な関係性の中、日々の一挙手一投足を管理され、趣味や感じ方さえもコントロールされ、その「支配」に気付くことさえなく育った「いい子」。

 父と母と子、その三者に共通しているものは「孤独」です。

 家族なのに孤独。でもそれが「家族だから孤独」なのだとしたら? そんな家族の在り方は、私たち人間に「与える」のではなく「奪い続ける」システムなのではありませんか。そして、「奪っている」のは一体誰なのでしょう?

2/3ページ

最終更新:3/16(木) 5:00

日経ウーマンオンライン(日経ウーマン)

記事提供社からのご案内(外部サイト)

日経ウーマン

日経BP社

2017年4月号

価格:590円(税込)

忙しい働き女子の片づけ&収納
ジップロックで! 朝ラク ごちそう弁当
一流・二流・三流の仕事術
ワーママ271人のリアル

本文はここまでです このページの先頭へ

お得情報

その他のキャンペーン