前回の記事では、自律神経失調症の原因やチェック法について解説してきました。
今回は、実際に症状があらわれたときの病院での検査や治療法についてご紹介していきます。
1.何科を受診するの?
身体のだるさ、めまいや立ちくらみ、不安感など自律神経失調症の症状があらわれた場合、これを治していくためには病院での治療が必要となります。
では、このような症状があらわれた場合は何科を受診するべきなのでしょうか。
身体の不調で悩む場合は、まず基本的には一般内科で診断を受けましょう。
ほかにも耳鳴りがひどい場合は耳鼻科へ、肩こりがひどい場合は整形外科など特定の部位に不調がみられる場合はその専門の病院を受診します。
自律神経失調症の症状は多くありますが、その症状のほとんどは違う病気でも起こりうるものです。貧血、糖尿病、がんなどの病気でもこれらの症状があらわれる可能性があります。
特有の症状が出たからといって必ず自律神経失調症であるとは限らず、他の病気が隠れている場合もあるので、まずは一通りの検査を一般科で行うようにしましょう。
そして、これらの病院で不調の原因がわからない、あるいは自律神経失調症であると診断された場合は、自律神経失調症を専門に扱う心療内科で治療をしていくのが一般的です。
2.自律神経失調症の検査
自律神経失調症の症状が出て病院を受診した場合、似た症状があらわれるがんや脳腫瘍、糖尿病などではないかどうかを検査するため除外診断という検査がまず行われます。
※除外診断は、心療内科だけでなく一般科でも行われます。
除外診断で行われるのは、その症状に応じて血液検査や尿検査、脳波検査、MRI検査などです。
除外診断で原因となる病気が見つからない場合は、自律神経の異常がないかどうかを調べる自律神経機能検査が行われます。自律神経機能検査では以下のような検査が行われます。
①シュロング起立試験
静かに横になっている時と立ち上がったときの最高血圧・最低血圧を測定して、その変動から自律神経の機能を確認します。
②基礎体温の測定
女性の場合、基礎体温の変動が自律神経の機能を調べる上で重要な手かかりとなります。
正常な場合の基礎体温は月経が始まるころに下がり、排卵後には上がるという周期を繰り返しています。自律神経に異常がみられる場合、この低温期と高温期が見られず変動が小さくなります。
③皮膚紋画試験
皮膚を爪などでひっかくとひっかいたところに白いあとがつきますが、健康な人の場合、時間がたてば次第に消えていきます。
しかし、自律神経に異常があるとかゆみや赤いみみずばれが生じることがあります。これを皮膚紋画症といい、皮膚紋画試験では、棒状のもので腕などの皮膚に圧力をかけ、この症状が出ないかどうか調べます。
④立位心電図
まず横になった状態で心電図をとり、次は立ち上がった状態でも記録してその違いを調べます。
正常であれば2つの心電図にあまり変化は見られませんが、自律神経に異常がある場合は、立った時の心電図に乱れが生じてきますのでそれを確認します。
⑤面接・心理テスト
自律神経失調症にはストレスやその人の心理状態が深くかかわっているので、医師と直接話す面接や前回の記事で紹介したストレスチェックなどの心理テストを行います。
これらの検査のほかにも、心拍数や鳥肌の状況などを調べる検査が行われることもあります。
3.自律神経失調症の治療
以上のような、検査を行い自律神経失調症であることがわかれば治療を始めていくことになります。
治療においては、薬を使った薬物療法を中心として、心理療法や理学療法、そして、生活指導が行われます。
①薬物療法
自律神経失調症の治療でまず行われるのが、薬を使った薬物療法です。
薬の力で身体のだるさやめまい、肩こり、頭痛、不眠、不安感、イライラなど悩まされる症状を軽減させます。
自律神経失調症の薬物療法では、以下のような薬が使用されます。
自律神経調整薬
自律神経失調症は自律神経の乱れによって生じますが、この自律神経に直接作用し整える効果があるのが自律神経調整薬です。
正確には、自律神経をコントロールする脳の視床下部に作用する自律神経調整薬と、身体の末端部分にある自律神経自体に働きかける自律神経抹消作用薬の2種類があります。
自律神経抹消作用薬にも交感神経の興奮を抑えて動悸や不整脈を改善するβブロッカー、逆に交感神経を興奮させてめまいや立ちくらみを改善する交感神経興奮薬、そして、胃や腸の症状に効く副交感神経遮断薬の3種類があり、その人の症状に合わせて処方されることになります。
抗不安薬
抗不安薬とは、一般的に精神安定剤と呼ばれている薬のことで、自律神経失調症の治療に最も多く処方されている薬です。
抗不安薬は、名前の通り不安や緊張、イライラなどを落ち着かせたりする作用のほか、筋肉の緊張も軽くして肩こりや頭痛の改善にも効果があります。
ただ、服用するとめまいや立ちくらみ、眠気などの副作用が起こることもあります。
また、その効果から長期にわたって服用すると薬への依存が強まってしまうこともあるので医師の指示を守って服用する必要があります。
睡眠導入薬
自律神経失調症の代表的な症状の一つである不眠を改善するために処方されるのが睡眠導入薬です。
不眠といっても寝つきが悪い入眠障害、途中で目が覚める中途覚醒、朝早く起きてしまう早期覚醒、熟睡感がない熟睡障害の4つに分かれます。
睡眠導入薬はこの不眠の症状に合わせて、作用時間が短い短時間型の薬から作用時間が長い長時間型などのタイプに分かれており、その人の症状によって使い分けられます。
※入眠障害には短時間型、中途覚醒には長時間型など
睡眠導入薬というと危険な薬というイメージがありますが、それは昔の話で現在使われているものは比較的副作用が少なく、服用によって命に関わるといったことはまず起こりません。
ただ副作用がないわけではなく、睡眠効果が翌日まで働いてしまう持ち越し効果や筋肉の緊張を緩めてしまう筋弛緩作用などが起こることもあります。
関連記事:このほかにも、抑うつ感が強い場合にはうつ病の治療でも使われる抗うつ薬や自律神経のバランスを整えるビタミン剤などが使われることもあります。
②心理療法
以上のように自律神経失調症の治療でまず行われるのが薬物治療ですが、あくまで薬は症状を抑える対症療法であり、これで病気が治るわけではありません。
自律神経失調症の主な原因はストレスです。このストレスを生み出すものの考え方や感じ方、そして、行動のパターンを変えていくことがこの病気を根本から治すことに繋がります。
この観点からアプローチしていくのがカウンセリングなどの心理療法です。
心理療法には数多くの手法がありますが、その中でも代表的なものをご紹介していきます。
簡易精神療法・カウンセリング
心理療法においてもっとも行われているのが簡易精神療法という手法です。医師と直接会話をしながら病気の原因となった心の問題を探っていきます。
簡易精神療法は『受容』、『支持』、『保証』の3つの柱から成り立っています。
受容とは、周囲にわかってもらえない心や身体の苦痛を話してもらい、その不安感を医師が理解し受け入れます。
支持では、病気による孤独感や自分の存在価値を否定してしまうような不安感を支えます。
また、自分で原因となった思考や行動のパターンを見つけられるよう医師がさらに話を深く掘り下げていきます。
そして、保証の段階では医師が病気のことや今後の対策についてしっかりと説明し、必ず治るものだということを約束します。
悩みや不安は病気でない人でも打ち明けて会話をすることによってすっきりするものです。この簡易精神療法だけで回復するケースも多くあります。
自律訓練法
自律訓練法とは、自己暗示を利用して心身をリラックスさせる治療法です。
これを行えば、副交感神経が働くことで筋肉の緊張を緩めたり、血流がよくなることによって胃腸の働きにもいい効果があるとも言われています。
自律訓練法は、自律神経失調症だけでなく不眠症の治療や低血圧の改善にも効果があり、また、一度覚えてしまえば自宅でも簡単に行うことができます。
やり方は以下の通りです。
- 静かな部屋で椅子に座るか寝転がった状態で目をつぶり、力を抜きます。
- 吐くときに長く深く吐くことを意識しながら深呼吸を3回ほど行います。
- 『気持ちが落ち着いている』、『手足が重い』、『手足が温かい』と心の中で唱えます。
- 最後に、深呼吸をして伸びや屈伸運動をして終了です。
詳しいやり方はこちらの動画がわかりやすいですので確認してみてください。難しいことはなくこの動画の指示通りに頭の中でイメージするだけで済みます。
交流分析
交流分析とは、自分自身の性格のゆがみや行動パターンのクセを理解し、これを修正しながら他者との円滑な関係を築けるようにする心理療法です。
交流分析は①人は誰でも『親の心』、『大人の心』、『子供の心』をもっていること、②過去と他人は変えられないが、現在の自分は変えることができること、そして③感情や思考、行動の責任者は自分自身であることという3つの考え方を基本にしています。
P:親の心。厳しく批判的な親(CP)と優しく養育的な親(NP)に分かれる。
A:成長した大人の心。
C:子供の心。自由な子供(FC)と順応的な子供(AC)に分かれる。
交流分析ではエゴグラムという心理テストを行い、これらの心のうちどれが強いか、あるいは弱いかを分析し自分の弱い部分を高めていくよう、行動や思考を変えていきます。
例えば、もし協調性のあるACが高く、自由奔放なFCが低ければ、冗談を言うようにしたり、自分を表現してみたり、芸術を楽しんだりと自由な子供の心を高めていくように心がけます。
また、日常の一つ一つの会話もこのP・A・Cに分類することができ、これに対応するよう心がけることで他者との衝突を避けることもできます。
例えば、仕事終わりに飲みに誘われたとすれば、その誘い言葉は自由な子供のFCに該当しますが、これを厳しい親(CP)のようにそんな暇はないと頑なに断ってしまってはただの会話でも衝突が生じてしまいます。
しかし、それはいい!とFCでの誘い文句にFCの心で答えれば相手を不快にさせることはありません。
このように人との会話や行動の時に自分はどうしていたかを理解し、今後円滑に人間関係を構築していくためにはどうすればいいかを考えて修正していくのが交流分析となります。
このほかにも物事の受け止め方(認知)を修正していく認知行動療法や、食べ物を食べず外界との接触を断って自己洞察を促す絶食療法などが行われることもあります。
③理学療法
自律神経失調症では精神的な緊張状態が続くことによって、肩や首のこりなど全身の筋肉に緊張が生じめまいや疲労感、イライラの原因となってしまうことがあります。
こうした筋肉の緊張をマッサージや整体、鍼灸などによって物理的に和らげていくのが理学療法です。
理学療法はあくまで症状を和らげる対症療法であり、薬物療法や心理療法の補助として行われます。
まとめ:治療には前向きな気持ちが大切
以上、自律神経失調症の病院における検査や治療法についてご紹介してきました。
自律神経失調症は主にストレスから生じる病気で、他の身体的な病気とは異なり、治していくためには薬を飲むだけでなく性格や考え方など自分の心のありようを変えていかねばならない患者としては難しい病気です。
医師の力を借りるのはもちろんですが、自分の力でも治すという前向きな姿勢で治療に臨むことが自律神経失調症の解消には必要です。
※次回の記事では、自律神経失調症を治すための生活指導や自分でできる対策などについてご紹介していきます。(近日公開予定です。)
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