米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースは今後どうなるのか。15日のFRBの利上げ後、そんな議論が盛んになった。だが、今は2010年代に入り、なぜこれほどの低金利が続いているかを考える好機でもある。
低金利の要因は一般的には2つあるとされる。一つはFRBなどの中央銀行が、過去に例を見ないような規模の量的緩和で意図的に政策金利を引き下げたこと。もう一つは、サマーズ元米財務長官らが唱える「長期停滞説」によって金利が押し下げられたことだ。
サマーズ氏らによると、世界経済は構造的に総需要の大幅減少に見舞われている。市場金利の低さはその結果で、投資家の経済の先行き不安を示しているという。
ところが、国際決済銀行(BIS)の経済顧問ヒュン・ソン・シン氏は講演で、この長期停滞説が完全な誤りではないかと問うた。この議論には大いに注意を向けるべきだ。なぜなら、もしシン氏の主張が正しければ、FRBの政策が今後、市場にどう影響を与えそうかも暗示しているからだ。
シン氏は、近代の経済学者が「実体」経済の指標だけを観察し、金融システムが実際にどう機能しているかを考慮しない傾向があると指摘する。BISも以前、この傾向が、多くの政策立案者が08年の金融危機を予測できなかった一因だと論じた。経済学者らはクレジット・デリバティブ(企業の信用リスクを取引する金融派生商品)の急増など、金融市場が発する危険信号を見落としたという。
08年の危機の後、中銀は政策決定方法をあっさり変更したように見えた。しかし今、シン氏はこの傾向が再び強まっていると懸念する。同氏は「長期債の利回りが経済の先行指標として過大評価されている可能性がある」と考える。
実例として、シン氏は14年から16年にかけてのユーロ圏の長期債利回りの急低下を挙げる。急低下は当時、将来のユーロ圏のデフレと景気後退を予想する投資家心理の表れだとみられていた。BISは純額ベースで国債購入の4割を占めるまでになったドイツの生命保険各社を分析し、国債の大量購入はデフレを予測したからでも、よりリスクに寛容になったためでもないと結論付けた。
むしろ、「会計規則とソルベンシー(支払い余力)規制」に縛られて、保険会社は国債の利回りが低下すれば、通常の投資論理に逆らってでも、リスクヘッジのために国債購入を増やさざるを得なくなるという。
その結果、実体経済に悪影響が広がることになる。これには2つの意味合いがある。まず、欧米などの中銀がこれほど長期間、これほどの低金利を維持したのは誤りだったかもしれないことだ。量的緩和は保険会社などに論理に反する行動をとらせ、市場不安を増幅させた可能性があるからだ。
また、将来の金利の動きが滑らかで市場を混乱させることはないと考えるのも短絡的だ。シン氏が指摘するように「利回りを押し下げた『増幅メカニズム』は逆方向にも働くことがある」ためだ。
15日の利上げ後、米10年物国債の利回りは低下した。だが、投資家は「逆増幅メカニズム」の脅威を無視すべきではない。近年、多くの組織がひそかに過剰債務状態に陥っていることを考えれば、なおさらだ。そこには米政府機関も含まれる。
by Gillian Tett
(2017年3月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
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