「米国第一」を掲げる世界最大の経済大国の独善がまかり通り、自由貿易体制が揺らぐのか。そんな危惧を禁じ得ない結果である。

 米トランプ政権の発足後、初めての国際経済会議として注目された主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明が、昨年から一変した。焦点だった通商分野の記述は、「あらゆる形態の保護主義に対抗する」という一文が削られ、「経済に対する貿易の貢献の強化に取り組んでいる」という表現にとどまった。

 自国の貿易赤字削減と国内での雇用確保を掲げ、保護主義的な姿勢を強める米国が強硬に削除を主張。複数の国が反対して引き続き明記するよう求めたが、米国に押し切られる形で妥協したようだ。

 G20は1990年代後半のアジア通貨危機を受けて財務相・中央銀行総裁会議が始まり、08年のリーマン・ショック後に首脳会議も設けられた。グローバル化が進む経済の危機を防ぐには主要国と新興国の協調が欠かせない。そうした理念の柱の一つが「反保護主義」だった。

 時代を逆行させるかのような動きは、米国にとどまらない。欧州でも移民・難民や雇用への懸念などを背景に、英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた。フランスなどでも排外主義的な主張が台頭している。多国間の枠組みに背を向ける米国を放置すれば、危うい「自国最優先」に弾みがつきかねない。

 ここは、各国が結束を強め、国際協調の大切さを粘り強く訴え続けなければならない。

 今年のG20議長国のドイツは財務相会議の終了後、7月の首脳会議に向けて議論を継続する意向を示した。5月には主要7カ国(G7)首脳会議もある。米国に翻意を促していけるかどうかが問われる。

 日本の責任と役割は大きい。

 安倍首相は欧州歴訪に出発し、独仏などの首脳と会談する。自由貿易体制の維持と深化は主要議題の一つだ。各国と連携して「反保護主義」を明確にうたってほしい。日本とEUの経済連携協定など、多国間での交渉を前に進めることも有効だろう。

 今回のG20財務相会議の声明では、地球温暖化に関する文章もすべて削除された。環境対策に後ろ向きなトランプ政権の意向が反映されたとみられる。

 国際協調が不可欠な課題は、途上国の開発支援や貧困対策など、ほかにも数多い。取り組みの停滞を防げるか、貿易分野が試金石となる。