今なお残されている5つの疑問点について整理します。(大阪局 西村敏 記者)
疑問1 ゴミの撤去費用8億円 算定は適切なのか?
一連の疑惑が浮上したきっかけは、森友学園が小学校の建設を進めていた元国有地が、鑑定価格より大幅に安く国から売却されていたことが明らかになったことでした。土地の評価額は9億5600万円でしたが、実際の売却額は1億3400万円で、国はゴミの撤去費用として8億円余りを差し引いていました。
このゴミの撤去費用の算定に疑問が投げかけられました。ゴミは去年3月、小学校の建設工事でくい打ちをした際に、深さ9.9メートルの地中から出てきました。工事業者からの連絡を受け、国の担当者が現場を訪れましたが、くい打ち工事はほとんど終わっていて、ゴミはすでに地上に積み上げられていました。このため、国は深さ9.9メートルの地中にゴミがある状態を直接、目視で確認できず、「工事業者からのヒアリングや写真などで確認した」としています。
そのうえで、これまで鑑定を行った経験のない大阪航空局がみずからゴミの撤去費用を算定しました。外部の第三者に委託しなったことについて国は、「小学校の開校予定が迫っていたため」とし、算定ついて「適切だった」としています。
しかし調査や金額が妥当だったかどうか、国が開示していた資料をもとにNHKが産業廃棄物処理業者や解体業者に取材したところ、業者は「これまで開示された写真や資料だけでは、ゴミが本当に9.9メートルの深さから出てきたのか判断することは難しい」と話しました。8億円の撤去費用については「適正な価格に思える」とする業者と「高すぎる」とする業者で意見が分かれました。
NHKの世論調査では、国の説明に納得できないと答えた人が8割にものぼっています。さらに詳細な資料を公開し、8億円もの値引きに至った経緯や算出の根拠について、丁寧な説明を尽くすことが求められます。
疑問2 交渉の面会記録は処分されたのか?
国有地売却の経緯が不透明になっている原因の一つは、財務省近畿財務局が交渉の過程での面会記録をすべて廃棄したとしていることです。財務省は「面会記録の保存期間は1年未満となっており、契約終了とともにすべて処分した」と国会で答弁しています。
しかしNHKが複数の近畿財務局のOBに取材したところ、いずれのOBも「面会記録が残っている可能性は高い」と証言しました。このうち国有地の鑑定や売却を長年担当していたOBは「面会の日時、場所、内容、こちらの対応について、資料があれば資料をつけて、どんな面会でもきちんと書く。上司の決済を得て供覧をして、記録をきちんと残すのが局内の文化だ」と述べ、すぐに面会記録を廃棄することはなかったとしています。
今回の国有地売却をめぐっては、国会議員の事務所や工事関係者が作成した近畿財務局との交渉記録が残されています。しかし財務省は、面会記録が残っていないという主張を繰り返し、議員事務所や工事関係者との面会の内容を明らかにしていません。パソコンなどに一部でも面会記録が残っていないのか徹底した調査を進めたり、職員から聞き取りをしたりして、積極的に交渉の過程の情報を開示し、国民の疑念を払拭(ふっしょく)する姿勢が求められます。
疑問3 大阪府はなぜ認可適当を出したのか?
3つ目の疑問は、森友学園の小学校に認可適当という判断が示された経緯です。大阪府の私学審議会は平成26年12月に認可を保留しましたが、1か月後のおととし1月、臨時に会合が開かれ、条件付きで「認可適当」という答申を出しました。
大阪府の松井知事は臨時の会合が開かれたのは、国有地売却の手続きを進めたい国からの要請があったからだという認識を示しています。また、大阪府が明らかにした資料では、財務省近畿財務局と大阪府が、平成25年9月から11月にかけて面談や電話で3回の打ち合わせを行い、森友学園についてのやり取りをしていることが記載されています。その後も記録は残っていませんが、やり取りは行われていたということです。
国は「あくまで事務的な情報交換で、用地の事情を先行させて、学校設立を要請するようなことはない」と要請の事実を否定しています。また大阪府教育庁の私学課も「国から圧力はなかった」と話しています。
ただ、国と大阪府が互いに森友学園の信用を保証しあうような構図になっていて、相手に合わせて手続きを急ぐことで、審議会のチェックが十分に機能しなかった可能性はないか検証が必要だと思います。
疑問4 森友学園の数々のうそ~契約書は偽造されたのか?
森友学園は小学校の認可申請をめぐる手続きの中で、中学校の推薦枠や理事長の経歴などをめぐり、数々の虚偽報告を大阪府に行っていました。
特に小学校の建設工事の費用については、
▽国に提出されたおよそ23億8000万円、
▽大阪空港の運営会社に提出されたおよそ15億5000万円、
▽大阪府に提出されたおよそ7億5000万円と
金額の異なる3種類の契約書が存在していることが問題になりました。
籠池理事長は今月10日の記者会見で「契約書は偽造ではない」と説明しました。
これに対して、大阪の施工業者は「正しい金額はおよそ15億円で、7億5000万円の契約書は森友学園側から『私学助成金』の申請に必要だと頼まれて作った」と証言し、主張が食い違っています。
また校舎の設計を担当した京都市の設計事務所も、国の調査に「大阪府に提出された7億5000万円の契約書は知らない」と話しています。にもかかわらず、府に提出された契約書には、この設計事務所の印鑑が押されていたということです。大阪府は、契約書が偽造された可能性もあると見て、森友学園の関係者に詳しい説明を求めることにしています。
疑問5 政治の関与はあったのか?
最後の疑問は政治の関与はあったのかです。籠池理事長は、稲田防衛大臣や鴻池元防災担当大臣などの国会議員をはじめ、大阪の府議会議員や市議会議員など多くの政治家と面識があったことが分かっています。面識を持っていた政治家はいずれも、今回の一連の問題で、便宜供与などの働きかけはしていないとしています。学園の教育方針に賛同していた政治家からも、距離を置く発言が目立っています。
こうした中、籠池理事長は、16日、現地視察に訪れた参議院の予算委員会のメンバーに「この学園を作るにあたっては、安倍総理大臣の寄付金が入っている」などと述べました。
これに対し安倍総理大臣は17日の衆議院外務委員会で、「多額の寄付を私自身が行うということはありえない話で、妻や事務所など第三者を通じても行ってはいない」と述べ、みずからも昭恵夫人も寄付を行っていないと強調しました。
衆参両院の予算委員会は今月23日に、籠池理事長の証人喚問を行うことを全会一致で議決しました。政治家と学園との関係の有無など、一連の疑惑の解明が進むのか、注目されます。
5つの疑問 徹底解明を
これほど多くの問題や不可解な点を抱えた学校法人がなぜ小学校の開校目前にまでこぎ着けることができたのか。その交渉過程における国や大阪府の対応や手続きについては、まだまだ不可解な点が多く、説明も十分に尽くされていない状況です。
国民の共有財産である国有地で、子どもたちが通う小学校の建設をめぐって、これほどの混乱を招いた責任を国や大阪府は重く受け止め、疑惑の徹底解明を進めていくことが求められています。
- 大阪局
- 西村敏 記者