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24話 背徳の聖夜III
※全体的に濃厚シーンがm(_ _)m
麻衣がどうして滅茶苦茶にして、などと口走ったのか、その決意の真意は分からないが、多分先ほど母と交わした電話の所為だろう。
思いつめたような瞳で俺を真っ直ぐに射抜いてくる麻衣を、きつく抱きしめる。触れ合う肌は熱を帯びており、暗闇に映える白い肌を唇で吸いあげた。
両の腕にすっぽり収まる細い肢体は滑らかな肌感触で、手のひらに吸い付いてくる。まるで俺から離れたくないという麻衣の心が、そのまま肌に現れているようだった。
乳房を優しく愛撫しながら、唇はさらに下腹部へと降りていく。うっすらした茂みを分けて、さらに蕾の入り口に唇を寄せる。裂け目に吐息がかかった瞬間、瞳を伏せていた麻衣の身体がピクリと強張る。さらに切れ切れの息を吐き出し、時に切なく、時に恍惚の、時に淫蕩な様々な表情を見せる。
とても十九の女性が見せる顔では無いのだが、その表情のひとつひとつに、自分の心が見えない鎖のようなもので少しずつ拘束されていくのが分かる。
この女を、他の誰にも見せたく無い、言葉では言い表せない程に美しい様々な表情を見せる彼女を、自分だけのものにしていたいという、暗い欲望が心を支配する。
しかしその暗い欲望の裏側で、もう一人の自分が囁く。お前は、大切な妹を戻る事の出来ない地獄に突き落とすつもりなのか、と。
麻衣はまだ十九歳。世間的に成人としてまだ認められていない。彼女が、もし間違ってしまったこの感情の昂りだけで、背徳行為を繰り返すのであれば、いまならばまだ元の兄妹という関係に戻る事が出来る。
その為に両親は、俺が麻衣から離れて一人暮らしをするようわざと環境を変えたのだ。
まだ未成年の麻衣を守る為に。
この、汚れた愛から救う為に。
今、彼女を地獄へ連れていくのも、此処で再び光ある道へ還すのも俺次第。
指先が少しだけ動きを止めた事で、俺の僅かな躊躇を悟ったのか、目の前の麻衣は女神のように口元に穏やかな微笑みを浮かべ、俺の頰を両手でそっと支えてくる。
「忍……お願い…止めないで」
その禁断とも言えるあまりにも甘い声に、俺の保っていたはずの理性の糸がふつりと切れた。
「麻衣……麻衣っ」
彼女の存在を確かめるように何度も名を囁き、耳朶を食み、右手はわざと乱暴に彼女の花園を蹂躙する。指先が触れたそこは既に受け入れの体勢を整えており、溢れる蜜で満ちていた。指先を進めるとさらに蕩ける蜜が溢れ、熱い内壁は離すまいと絡みついてくる。
しかしその妖艶な誘いには乗らず、俺は彼女が滅茶苦茶にして、と言った事を達成する事にする。
滑らかな太腿を左右に割り、溢れる蜜を音を立てて飲み干す。流石の麻衣もそのあまりにも卑猥な水音に意識を現実に戻し、上半身を起こそうと必死にもがいていた。
勿論、そんな可愛い抵抗は危うい部分を舌先で突くだけであっさりと封じる。
しかしいつまでも彼女だけを快楽の海に投げ出すには自分自身もいささか我慢の限界はあるのだが、男性の肉体構造上、永遠とも言える高みを目指せる女性とは違い、いつか必ず幕引きを迎える男性とでは床勝負は互角ではない。あまりの羞恥心に麻衣が静かに涙を流し始めた所でようやく股間の間から顔を引く。
「ひどい……」
滅茶苦茶にして欲しいと言った相手は、まだ情欲に濡れそぼった瞳のまま、蒸気した頰でそう呟いた。
掠れるようなその言葉に、俺は彼女ので濡れた手のひらで頰を撫でる。
「滅茶苦茶にして欲しいんだろ」
素っ気ない言い方だったかも知れないが、俺は麻衣の涙を唇で拭い、彼女の愛液で濡れたままの舌先を口内で絡めた。生暖かい赤い生き物が我を忘れたように激しく絡みついてくる。
どこまでが彼女にとって滅茶苦茶にして欲しいラインなのか俺には分からない。けれども、有限の限りを尽くし、彼女を羞恥の限界まで追い込み、何度も何度も甘い蜜を溺れさせてその肢体を自らで動かせなくなるまで追い込んだことで、果たして彼女は、自ら望んだ滅茶苦茶を得られたのかは分からない。
しかし、更に重ねられる激しい口づけに思わず上手く息が吸えなくなって麻衣の肩を僅かに離すと、彼女は俺の首筋に両手をあてがってきた。
蕩けた瞳のまま、その手のひらに力を込めてくる。
まさか、殺す気かと思い、俺は慌てて麻衣の身体を布団の上に押し倒した。
暗闇の中でもハッキリと浮かぶ麻衣の美しい肢体は、まだ足りないと俺を妖しく誘い続けている。
これ以上、彼女を滅茶苦茶にしても何も生み出さない。あるとしたら、これからそうなるであろう俺の屍と、両親の涙くらいだ。
「忍……私、離れたくない……」
麻衣の決意は何度聞いても変わらない。彼女は洗脳でもされているのか? と疑いたくなるくらい、俺への愛を一途に貫く。
先ほど俺の首を絞めようとしたのは、俺が麻衣を此処から出す事を悟ったからだろう。
離れるくらいなら殺してでも一緒に居たい。
俺だけに、罪を重ねない為に麻衣は自分なりに悩み、苦しみ、そして導いた結論が滅茶苦茶にして欲しい事だったのかも知れない。
この刹那を二人で分かち合い、ひとつになりたかった、ただそれだけなのだ。
しかし、現実は有限であり、時計は無情にも時を刻む。先ほど母さんと連絡を取って時間が経過している。そろそろ、次の手を打たれるだろう。
その前に幕引きは己で行いたい俺は、洗面所の上にあるバスタオルを取り、肢体を投げだしている麻衣の下に跪く。
手早く麻衣の身体を伝う汗をタオルで拭き、床に脱ぎ捨てていたワンピースを手に取り、まだ快楽の海で彷徨っている麻衣の上体を軽く起こし着せていく。
「忍…?」
触れ合う肌から、俺の下半身に疼く熱を悟った麻衣は何か言いたそうに唇を動かしていたが、今のリミッターが解除された麻衣に付き合っていたら、間違いなく自分が完膚されてしまう。それこそ屍と化すだろう。
「俺は、大丈夫だから、少し寝ろ」
麻衣の瞳を指先で撫でてゆっくり眠るよう促す。いった後の倦怠感に見舞われていた彼女は、まるで魔法にでもかかったかのように、穏やかに瞳を閉じる。
眠る彼女を、そのまま三つ折りの布団の上に組み敷き、俺はスマートフォンを持って玄関のドアを開ける。
冷たい外の風を浴びながら今後の事を考える。
俺と麻衣がこのまま関係を持っていて果たして何が生まれるだろう。俺の指先にはまだ甘い彼女の声と、男の理性を破壊するしなやかな吸い付く肌と、弾力のある胸の感触が残されている。
麻衣は俺を愛している。俺も、麻衣を愛している。二人の気持ちは変わりはないが、俺と麻衣の関係を認めてくれるものは、何ひとつない。
現実的な問題は重く、俺の稼ぎでは彼女を守る事も、大学を卒業させる事も出来ない。今は、どう足掻いても親に縋るしか道は無い。今麻衣をこのまま愛の巣へ引き入れるのは共倒れの道しか見え無い。愛する彼女を守る為にはいっそ一度手放して、俺が麻衣を守れるようになったら、その時に……
無表情のまま電話を握りしめていると、十回目のコールで相手が電話に出た。
「もしもし、親父? 頼みがあるんだ」
男と男の約束を破った事、麻衣と再び情交を交わしてしまっていた事、そして麻衣と自分の気持ちはやはり変わらない事。全てを正直に伝えた上で親父の無言の反応を待つ。
重い沈黙だったが、親父は俺を咎めるでもなく、麻衣を迎えにいくと端的な一言を放ち電話を切った。
電話越しの通話が切れた事を告げる電子音が俺の心にぽっかりと空いた穴を抉る。これが、麻衣との別れになるとしたら、俺は耐えられるのだろうか?
「麻衣……」
ロングシャツの中でチャリ、と鎖が音を立てる。俺はシャツの上からシルバーアクセの十字架を握りしめた。二人を結ぶ唯一の絆の結晶。瞳を閉じて背徳行為を懺悔する。例え神や家族が認めなくても、俺から麻衣を奪わないでくれ……!
「……ごめん…麻衣」
俺が不甲斐ないから、お前を今、この手でどこか遠くに連れ出す事も出来ない。麻衣は全てを捨ててでも俺を選んでくれるのに、俺はお前の将来を踏みにじる事は出来ない。
しんしんと降ってきた雪の冷たさも忘れ、俺は親父が此処に来るまでの間、ドアの前で座り込んだまま動けなくなっていた。
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