これまでそれなりの量の本を読んできたつもりだ。
でもその中には、数か月たったら中身をすっかり忘れてしまう本と、いつまでたってもその読後感が消えない、トンデモない本がある。
そういう本との出会いって「人との出会い」と似ていて、その読書体験は何ものにも代えられないぐらい素晴らしいもの。
うーん、「恋人が出来た」とか「なんかウマの合う友達が出来た」とは言いすぎかもしれないが、なんかそれぐらい自分の中で大切なものではあります。
だって本を読んで価値観が、変わりますからね。
なので、短い人生、できるだけいい本をたくさん読みたいと思っています。
日本の小説も次々と新刊が出版され、それらすべてをキャッチアップするのは不可能なので、新聞の書評欄とか、ネットでブロガーさんのレビューを見て、厳選して読んではいますが・・・
そうはいっても・・・
当たりはずれがあるのが事実。
僕は本も雑食派なので、ノンフィクションから学術もの、そして海外文学、日本文学とオールジャンルOKの人間だけど、とにもかくにも本には「面白さ」を求めています。
「面白さ」っていうのは、読んで心に刺さるかどうか。
読んだときの感情が後の思い返しても思い出せるかどうか。一生の感情として残るかどうか。
このあたりが僕のいわゆる『いい本』の基準となります。
今日はいろんなジャンルの本がある中で『日本の小説』にしぼって、超おもしろい、心に刺さりまくりの「すごいやつら」をご紹介したいと思います。
普段小説をあまり読まない方にも、手に取りやすいものを選びました。
文庫になっていて数百円で買えて、分量が多くなく手ごろに読めるものばかり。
普通の本屋でも買えるし、どこの図書館でも検索かければ手に入るものだと思います。
これで人生の価値観が変わるぐらいすごい本があるわけですから・・・。
もし興味を持ったら手に取ってもらえると嬉しいです。
- 『思い出トランプ』 向田邦子
- 『女のいない男たち』 村上春樹
- 『五分後の世界』 村上龍
- 『芋虫』 江戸川乱歩
- 『芽むしり仔撃ち』 大江健三郎
- 『春琴抄』 谷崎潤一郎
- 『砂の女』 安部公房
- 『沈黙』 遠藤周作
- 『疾走』 重松清
- 『峠』 司馬遼太郎
- まとめ
『思い出トランプ』 向田邦子
浮気の相手だった部下の結婚式に、妻と出席する男。おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親などーー日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録
最初は昭和の名脚本家であり名エッセイストであり、女流作家の向田邦子さんの短編集。
彼女はテレビ脚本家として「寺内貫太郎一家」や「阿修羅のごとく」など数多くの名作を書いたのちに小説家としてデビューします。
そしてこの本に収められている「花の名前」他2作品で・・・
いきなり直木賞を受賞しますが、
そんな能書きは置いといて、この短編集をぜひ読んでほしい。
男女の関係の難しさ、
誰にでも潜んでいるちょっとした「悪」の心。
一市民が生きていく上で起こる愚かな「切なさ」「辛さ」「哀しさ」・・・
そのすべての感情が行間ににじみ出ている。
そう、この向田さんのすごいところは『行間』を読ませるところ。
中身はドロドロの不倫ものなんだけど、それを短い清冽な文章で書ききってしまう。読者はその間にある『行間』から登場人物の心理を自然と推し量れるよう、名人のような文章でその昭和の世界に誘ってくれる。
テレビ脚本家ならではの文体なのだ。
で、とにかく読ませる。
向田さんは今も根強い人気を持つ作家だということで、ネットを見ると、生前の写真がいろいろと出てくるが・・・
間違いなく美人である。
こんな素敵な人が航空機墜落の事故で命を落としてしまうところに・・・
人生の不思議さ、切なさがあるって思いませんか?
『女のいない男たち』 村上春樹
今話題の「騎士団長殺し」も「1Q84」も「海辺のカフカ」も抜群の面白さだけど・・・
あえて言いたい。
村上春樹は短編こそが面白いのだと!
今回の「騎士団長殺し」もそうでしたが、村上さんの長編は構造は大体いつも同じです。むしろ、その中のディテールで作品ならではの世界観を作っていく、というような気がします。
長年長編を読み続けている読者としては、「まあ、そこは今回もそういうことか。」ということを折り込み済みで、作品を読むのですが。。
短編はもっと自由で炸裂している。
きっと短編は短い分、いろんな実験ができるんでしょう(確かどこかのインタビューでそんなことを言っていたような・・・)
作品によっては、ホントにえ!こんなところに行くの!ってびっくりするようなところに読者を誘ってくれます。
最新の短編集「女のいない男たち」はタイトルどおり、何らかの理由で、妻を失ったり、彼女と別れたり、裏切られたり・・・
いろんな意味でそばにいた「女性」を失った男たちの物語。
詳しい中身については、以前書いたこちらをぜひ読んでいただきたいのですが・・・
この中の『独立器官』、『木野』、『女のいない男』たちはマジでヤバいっす。
不穏な気配が漂いまくりです。
木野なんて別に悪いこと何もしていないのに・・・ただバーのマスターになっただけなのに・・・なんでこんなことになるんだろ。
人間の世界というのはこんなにも深淵な部分があって、はまると大変なことになる・・・というのが身をもって体験でき、恐ろしくなります。
長編は読んだけど、短編はまだ読んだことない、という方はぜひ一度お試しください。文庫本も出たので、お手軽だと思いますよ。
『五分後の世界』 村上龍
オレはジョギングしていたんだ、と小田桐は意識を失う前のことを思った。だが、今は硝煙の漂うぬかるんだ道を行進していた・・・。5分のずれで現れたもう一つの日本は、人工26万に激減し地下に建国されいていた。駐留する連合国軍相手にゲリラ戦を続ける日本国軍兵士たちーー。戦闘国家の壮絶な聖戦を描き、著者自ら最高傑作と語る衝撃の長編小説。
続いては、ちょっと前に、春樹氏と並び「W村上」と称された村上龍です。
村上龍といえば、「コインロッカーベイビーズ」や「半島に出でよ」が有名ですが、そうした本は多くのブログで紹介されているので、ここではあえて紹介しません。
で、変わりにオススメしたいのが『五分後の世界』です。
何度この本を読んだことか・・・。ページ数も多くなく、でも中身はものすごく濃いので何も読む本がないときにふと手を伸ばしてしまう1冊になっています。
村上龍はある意味「仮想シミュレーション」の天才だと僕は思っています。
小説ってまあある種すべてそうなんだけど、現実に起きた過去の日本の歴史から「if」を立ち上げ物語を構築していくって意味では、この本は相当スゴイ。
だって、もし第2次世界大戦でポツダム宣言を受諾せずに、日本がその後も戦争を続けていたら・・・
というとんでもない仮説に立ち物語を作っていますから。
この小説は実際にその世界を立ち上げてしまい、現実の日本からそのパラレルワールドに迷いこんだ主人公の物語です。
徹底的に合理的な判断をし、人間離れした訓練を施された日本兵、「向現」という超人のような身体能力を獲得できる合法的な麻薬を開発したその科学力、たぶん坂本龍一をイメージして造形したであろう世界的な音楽家・ワカマツ・・・etc。
実際の太平洋戦争では、日本軍は致命的な判断ミスをいくつも犯しそれが敗戦につながっていきますが、この小説では、そうした失敗を踏まえた上で、旧日本軍の優れていた点を徹底的にデフォルメし磨きあげ、進化した形で描いています。
物語の序盤、主人公の小田桐が目の当たりにする戦闘シーンの描写は、必読。。。
文章でここまでリアルに戦争を感じた物語は初めてでした。
『芋虫』 江戸川乱歩
傷痍軍人の須永中尉を夫に持つ時子には、奇妙な嗜好があった。それは、戦争で両手両足、聴覚、味覚といった五感のほとんどを失い、視覚と触覚のみが無事な夫を虐げて快感を得るというものだった。夫は何をされてもまるで芋虫のように無抵抗であり、また、夫のその醜い姿と五体満足な己の対比を否応にも感ぜられ、彼女の嗜虐心はなおさら高ぶるのだった。
出典:「芋虫(小説)wikipedia」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%8B%E8%99%AB_(%E5%B0%8F%E8%AA%AC)
大正から昭和にかけて活躍した日本の推理小説の草分け的な存在である江戸川乱歩。明智小五郎シリーズももちろんいいのだが、やはり乱歩の魅力は、奇抜な発想から生まれた怪奇小説にあると僕は思う。
この『芋虫』を読んだときは、かなりびっくりした。
だって五体不満足で障害がある夫を妻がいたぶり尽くし、快楽を感じているんですから・・・
サディズムとマゾヒズムの諧謔趣味がもろ入ったこの作品。読み手を選びますが、僕はこの手のやつは全然平気なので、面白く読んじゃいました。
いやあ、昭和の時代にこれぐらいアクの強い小説が許されたのかしら?と思ったけど、調べてみたらやっぱり発禁処分になっていたそうです。
そりゃ、そうだろうな。
それぐらいアクの強い作品であることは確か。
別にこうしたアブノーマルな趣味は多くの人が現実に持っているわけではないだろうけど、今もこの作品がこれだけ受け入れられてるってことは、何かしら人の根源的な欲求を刺激するものがあるんだろう、って僕なんかは思っています。
『芽むしり仔撃ち』 大江健三郎
大戦末期、山中に集団疎開した感化院の少年たちは、疾病の流行とともに、谷間にかかる唯一の交通路を遮断され、山村に閉じ込められる。この強制された監禁状況下で、社会的疎外者たちは、けなげにも愛と連帯の”自由の王国”を建設しようと、緊張と友情に満ちたヒューマンなドラマを展開するが、村人の帰村によってもろくも潰え去る。緻密な設定と新鮮なイメージで描かれた傑作。
出典:新潮社HPより http://www.shinchosha.co.jp/book/112603/
正直、大江健三郎さんの小説は難しいものが多い。
大江さんの名著ではよく『万延元年のフットボール』があがっているのを見かけるが・・・
名作だとは思うけど・・・かなり難しくないですか?この小説。
そこで僕がイチオシしたいのが『芽むしり仔撃ち』。
とてもわかりやすい。僕程度の頭でも十分理解でき、かつ抜群に面白かった。
少年たちが理想を掲げ、希望を持って生きていこうとする中で、それを潰そうとする大人・社会の圧力がテーマになっている。
若者がスポイルされる、ということを物語として象徴的に描いた作品。
ぜひご一読を。
『春琴抄』 谷崎潤一郎
盲目の三味線師匠春琴に仕える佐助の愛と献身を描いて谷崎文学の頂点をなす作品。~単なる被虐趣味をつきぬけて、思考と官能が融合した美の陶酔の世界をくりひろげる
これも短い小編ですが、もうスゴイとしかいいようがない衝撃的な展開を見せる作品です。
春琴へ思いをはせる佐助の思いがこれほどまでとは・・・と戦慄を覚えることうけあい。うん、まさに戦慄します。
佐助とお琴の師匠である春琴。春琴は美しく若い女性だが、ある事件をきっかけに視力を失ってしまう。そこからが本書の読みどころですが・・・
視力を失う前の春琴がかなりのツンデレで強烈!
佐助に対して優しいというよりは厳しすぎるだろ!ってぐらいの態度で接する。
それでも佐助は春琴を慕う気持ちを忘れない。ずっと思い続けるわけです。
それがある事件をきっかけに春琴が盲目になってしまい・・・
そこで佐助は驚きの行動をとるのだが・・・
もうこっから先は読んでお楽しみください。
あまり書けません。薄い本だからなかなか脱線する要素はないし、これ以上書くとネタバレになってしまってあまりにもったいないので。
解説文にあるように『人間の美』とは何か?
深く考えさせられる作品ですよ。
『砂の女』 安部公房
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数か国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。
出典:新潮社HPより http://www.shinchosha.co.jp/book/112115/
まさに”人間蟻地獄”を連想させる。
へらへらとする女の不気味さと閉鎖的な村の監視の圧迫感。こんなところに閉じ込められたら、まさに発狂するに違いないという状況に追い込まれた男の物語。
解説にあるとおり、何の変哲もない昆虫採集をしていた男が、突然、砂の家に閉じ込められる。そしてそこには一人の女がいる。
基本、主人公の男は、何とか脱出するためにあの手この手でがんばる。時にやさしく、時に怒り、何とか女を揺さぶり、脱出の糸口を探そうとする。だけど、女には通じない。コミュニケーションが成立しない、もどかしさあふれる密室劇で物語は進んでいく。
社会と隔絶された陸の孤島の話かと思いきや・・・
それを監視する村人がいて・・・
閉じてしまった小さな社会の中で一人の人間の意思とか尊厳とかなんてのは、なかなか通じない、と思わされる絶望を感じる作品。
男が迷い込んだこの砂の村は一体何なのか?
不思議な読後感に包まれる。
この奇妙な感情は安部公房ならではの本の読後感であるよなーーー。
『沈黙』 遠藤周作
島原の乱が鎮圧されて間もないころ、キリシタン禁制の厳しい日本に潜入したポルトガル人司祭ロドリゴは、日本人信徒たちに加えられる残忍な拷問と悲惨な殉教のうめき声に接して苦悩し、ついに背教の淵に立たされる・・・。神の存在、背教の真理、西洋と日本の思想的断絶など、キリスト信仰の根源的な問題を衝き、<神の沈黙>という永遠の主題に切実な問いを投げかける長編。
出典:新潮社HPより http://www.shinchosha.co.jp/book/112315/
マーティン・スコセッシの映画は賛否両論分かれているが、原作となるこの遠藤氏の本は間違いなく名作だと思う。
江戸時代初期のキリスト教禁制の嵐が吹く日本。その中で、悲惨な殉教に追いやられる隠れキリシタンたちに希望を、とやってきたポルトガル人司祭のロドリゴが自身、江戸幕府から追われる身となりながら、何とか現状打破に踏み出せないかと様々画策する。
隠れキリシタンの多くは農民。しかもみな貧しい。
そんな中、宗教への信仰から幸せを求めるのだが、逆にそれがこの時代の中では仇となり、農民たちは次々と幕府によって殉教させられる。
そんな悲惨な現状が淡々と続く中で、神はひたすら沈黙し、一片の救いも与えない。
そんな宗教に一体何の意味があるのか?
神は実は存在しないのではないか?
ロドリゴは悩み、そして読者も考えさせられる。
この神の沈黙ということに関しては、H・Sクシュナーの「なぜ私だけが苦しむのか?」という名著があるのだが・・・
- 作者: H.S.クシュナー,Harold S. Kushner,斎藤武
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/03/14
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この本もあわせて読むとより理解が深まるのではないか?
神の存在、救いのありかを考えさせられる本であるのはもちろん、人生の不幸のときについ思ってしまう神頼みってやつをどういう風に考えればいいのか?
その理解の助けになる本だと思います。
『疾走』 重松清
西日本のとある町は、干拓地にある集落「沖」と干拓以前からの集落「浜」に分かれていた。「浜」と「沖」の交流はほとんどなく、「浜」の人間は「沖」を侮蔑していた。一家4人で「浜」に暮らしているシュウジは、4つ上の物知りな兄・シュウイチが好きだった。
出典:「疾走ーwikipedia」より
重松清といえば初期の「ビタミンF」や「ナイフ」など少年のいじめを扱った作品が多い。思春期の男の、どうしようもない傷つけあいや傷つけられた者の心を描くのがとても上手い作家さんですよね。
そうした作品も面白いんだけど、僕はこの「疾走」が一番よかった。
シュウジを主人公に、町と人の対立、そして町の発展と衰退。時代が進む中でしゃしゃり出て躍動する人間と落ちこぼれていく人たち。
その明暗を見事に描ききっている。
シュウジは中学校に入学し陸上部に入部する。そこで出会ったエリという不思議な女の子と次第に仲良くなるのだが、二人の「走る描写」がとてもいい。
まさに疾走感あふれる、若い人の躍動感がにじみ出ている。
だけどこれは単なる青春小説ではない。
というか全然明るい話ではない。むしろ、兄のシュウイチが原因でシュウジの家はだんだんと内部崩壊していき、シュウジの人生は暗く陰鬱なものになっていく。
シュウジは走るが、それは家庭が壊れていくという自分でどうにもできないそのイライラを、思春期特有の内部にあるドス黒いもやもやを振り切るために走る。
それでもシュウジは落ちていく。周囲に引きずられ、少しずつアブナイ橋を渡ることになる。
どういう因果なんだろう?
落ち込んだ人間には、ヤバい、危ない人間が近づいてきてしまう。それは甘美なものであるけれども、一皮むけば、暴力の渦がうずまいている。
シュウジもその渦に呑みこまれてしまうのだが・・・
続きはぜひ本書を手に取ってください。
この本は、上・下巻とやや分量が多いですが、下巻の疾走ぶりはページをめくる手が止まらなくなる。
『峠』 司馬遼太郎
幕末、雪深い越後長岡藩から一人の藩士が江戸に出府した。藩の持て余し者でもあったこの男、河合継之助は、いくつかの塾に学びながら、詩文、洋楽など単なる知識を得るための勉学は一切せず、歴史や世界の動きなど、ものごとの原理を知ろうと努めるのであった。さらに、江戸の学問にあきたらなくなった河井は、備中松山の藩財政を立て直した山田方谷のもとへ留学するため旅に出る。
出典:新潮社HPより http://www.shinchosha.co.jp/book/115240/
最後は歴史小説の名著をご紹介したい。司馬遼太郎といえば「竜馬がゆく」「燃えよ剣」「坂の上の雲」などキラ星のごとく名作を打ち出しているが、ここはあえて・・・
「峠」を推したい。
幕末の越後長岡藩の一藩士・河井継之助の物語である。
よく言えば合理的、悪く言えば変態・・・はたから見ると奇妙奇天烈な行動をしでかす河井は、きわめて魅力的な主人公。
この男が、一藩士から家老にまで上り詰め、藩を率いて官軍と戦うまでを描いている。
この物語の一番の読みどころは、長岡藩という当時の藩が置かれた状況と開明論者である河井という人物のその対比にある。
河井はきわめて明晰に未来を見通していたらしく、江戸幕府による封建制度が崩壊すること、そして先進的な西洋文明を取り入れることの必要性を感じていた男だったよう。
実際、当時日本に3つしかなかったガトリング砲という最新兵器のうち一つは、この長岡藩が持っていたというから驚きだ。
しかし河井はそんな先を見通す目を持っていたにも関わらず、奥羽越列藩同盟に名を連ね、結局、幕府恭順の立場をとり、官軍・新政府軍と矛を交えることになる。
この激動の時代であったらこそ、河井はきっと一藩士から家老格まで通常では考えられない大出世を遂げたのだろうし、また逆に時代の流れに翻弄されることになったのだろう。
その時代の悲喜こもごもとした悲哀を存分に楽しめる小説です。
上・中・下と3巻ありなかなかのボリュームだけど、きっと余裕で読めてしまうはずだ。それぐらい人を熱中させる強烈な個性とドラマがこの本には描かれています。
まとめ
ということで、おススメの日本の小説を10作品選んでみました。
どれも読みやすく、しかも面白く、ページをめくる手が止められなくなる名著だと僕は思っているのですが、いかがでしたでしょうか。
実は最近、僕はノンフィクションや実用書ばかりを読んでいましたが、こうした小説は即効性こそないものの、忘れられない強烈な読書体験を与えてくれます。
時間のあるときにそういう滋養みたいなものを本から得られるというのは何とも素晴らしいものです。
今日はこのへんでおしまいです。
長い文章にお付き合いいただきましてありがとうございました。
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