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原発賠償判決 国に対する重い警告だ

 原子力政策における国の責任は極めて重い。司法からのそうした警告と受け止めるべきだ。

     東京電力福島第1原発事故によって避難した住民が東電と国に損害賠償を求めた集団訴訟で、前橋地裁が両者に、住民62人に3855万円を支払うよう命じた。司法が原発事故で初めて国の過失責任を認定した。

     この訴訟は、東電が津波を予測できたのか、国が東電に安全対策を取るよう規制権限を行使すべきだったのかが最大の争点だった。

     原告側が津波襲来を予見できた端緒として着目したのは、政府が2002年に公表した長期評価だ。三陸沖北部から房総沖でマグニチュード8クラスの地震が「30年以内に20%程度の確率」で発生するというものだった。

     東電は08年、この評価を基に福島第1原発で最大15・7メートルの津波を予測した。11年に実際に襲った津波は15・5メートルだった。長期評価や具体的な予測を踏まえ、東電が津波対策に取り組んでいれば事故は防げたというのが原告の主張だ。

     前橋地裁はその訴えをほぼ認め、東電は津波を予見できていたのに対策を怠り、安全性よりコストを優先したと厳しく批判した。

     国に対しても東電と同様に厳しい目を向けた。原発事故は取り返しのつかない被害を広域で生じさせる。東電の津波対策が十分に行われない状況だったのに規制権限を行使しなかったことは、原子炉等規制法などの趣旨に照らして著しく合理性を欠くとした。国の責任が東電と比べ劣らないとして、賠償額を同等と算定した意味も大きい。

     一方で判決は、個々の避難者への賠償については総じて厳しく認定した。東電から既に支払われた賠償金を差し引いたため、認容額は請求を大幅に下回った。

     原告は福島県から群馬県に避難した住民たちだ。「ふるさとや仕事を失うなど、甚大な精神的苦痛を受けた」として、自主避難者も含め慰謝料など一律1100万円の賠償を求めていた。多くの原告住民にとっては不満が残る内容だろう。

     同様の訴訟は全国で約30件あり、原告住民は約1万2000人に上る。今後も各地で判決が言い渡される。

     なぜ事故を防げなかったのか。責任はどこにあるのか。今も多くの国民が疑問に思っていることだろう。

     だが、政府や国会の事故調査委員会は解散し、事故原因の究明作業は止まっている。原子力災害の総括は不十分なままだ。

     原発事故がひとたび起これば、その影響は重大、過酷なものになるからこそ、原因究明をないがしろにしてはならない。

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