「命の恩人」愛犬マジック、飼い主の命を「3500回救った」

  • 2017年03月17日
Magic alerting Claire
Image caption マジックはクレアさんに、血糖値の変化を教えてくれる

犬は人間の一番の友達だと言われる。しかしそればかりか、鋭い嗅覚(きゅうかく)によって、1型糖尿病患者の血糖値の変化を察知したり、前立腺がん患者の尿サンプルを見つけたりと、犬は病気の人の命を救ってくれるかもしれないのだ。

マジックがひょいと立ち上がり、飼い主の膝の上に前脚を乗せ、茶色い瞳で飼い主の目を見つめた。

マジックがこれまで何千回と繰り返してきた、決まった動作だ。

マジックは、医療アラート犬。飼い主クレア・ペスターフィールドさんについて、血糖値のわずかな変化も察知するよう訓練されている。

優れた嗅覚で、マジックは1兆分の1というごく薄い臭気濃度でさえも探知できる。

マジックの補助がなければ、クレアさんは血糖値の変化のせいで発作を起こす危険があるし、ひどい場合には昏睡状態に陥る危険もある。

クレアさんは1型糖尿病にかかっているが、同じ病気を患うほとんどの人とは異なり、クレアさんの体は危険な発作の予兆を示さない。

BBC番組「ビクトリア・ダービーシャー」に出演したクレアさんは、「今の最新技術は全て使いましたが、それでも発作を防いだり軽減したりするために有効な合図は出ないんです」と話した。

「けれどもマジックは最長で発作の30分前に、対応しないとダメだよと教えてくれます」

「マジックが私のところに来て、3年半になります。この3年半で、彼が教えてくれたおかげでもしかすると3500回、私は命が助かったのかもしれない。犬用のビスケットをあげるだけで、そんなにがんばってくれるんです」

「マジックがいなかったら、私は今ごろ生きてません」

Image caption マジックはクレアさんのヒーロー

クレアさんは小児糖尿病の看護師として、1型糖尿病の子供とその家族の支援と教育を担当している。

会議中に倒れる危険性があるため、マジックがいなかったら仕事をこなせなかったとクレアさんは話す。

「マジックがいなかったら、発作を未然に防ぐために20〜30分おきに血糖値を検査していたところでした」と言う。

さらに、マジックがいてくれることで、看護師として世話をする子供たちに「糖尿病を患っていても、充実した人生を送れる」というメッセージを伝えられると話す。

「疲れ果てていた」

マジックは毎晩、クレアさんのベッドの脇で眠る。

クレアさんの血糖値の変化を察知すると、マジックはクレアさんを前脚で突いて起こす。

Image caption クレアさんが夜間に発作を起こす危険がある時、マジックはクレアさんに触れて起こす

「マジックが来る前は、1時間ごとに起きていました。発作がいつ起きるか予測したくて、血糖値を測るために」とクレアさんは説明する。

「そのせいで、私はいつも疲れ果てていました。発作が起きても目が覚めなかったらと、怖くて眠れないことが何度もありました」

「今では夫も、朝起きたら隣で私が死んでいるんじゃないかと、そんなことは心配しないでいい。そして夫は心配しないでいいんだと、私も安心できます」

「単純な話でも、なかなか口にしにくいことでした」

がんを探知?

英国民保健サービス(NHS)は現在、前立腺がんの探知にも犬を使えるかどうか、臨床試験を重ねている。

調査が成功すれば、前立腺がん早期発見の機会が得られることになる。早期発見は、生存率向上に欠かせないものだ。

調査に使われる犬は通常、ラブラドル・レトリバーやスプリンガー・スパニエルなどの銃猟犬種で、前立腺がん患者の尿サンプルを探知するよう訓練される。

Image caption がん探知犬は、前立腺がん患者の尿サンプルを特定するよう教え込まれる

がん探知犬は、がん患者の体が化学物質を排出しようとする際に、がん細胞から尿に伝わるがんの「揮発性物質」の臭気を察知できると考えられている。

こうした揮発性物質を含む尿を犬が正しく探知できた場合、犬には成功を強調するための陽性強化としてご褒美が与えられる。

犬の成績は記録され、90%以上の成功率で前立腺がん患者のサンプルを探知した犬が合格となる。

「バイオセンサー」

慈善団体「メディカル・ディテクション・ドッグズ(医療探知犬)」の共同創立者クレア・ゲスト博士は、胸のあたりにぶつけたような痛みを感じていたが、そこを飼い犬のデイジーが鼻で突くようになり、乳がんだと気づいた。

後の検査で、腫瘍が2つ見つかった。

命拾いしたとも言えるこの経験をきっかけに、ゲスト博士は探知犬の能力に関心を抱くようになった。

「犬と言えば、毛がふわふわで、尻尾を嬉しそうに振ってくれる生き物でが、実は同時に、とても高機能なバイオセンサーなんです」と博士は説明する。

Image caption がん探知犬になるのは銃猟犬が多い

「犬の鼻は進化により、1兆分のいくつというわずかな濃度でも探知できるほど、きわめて高い感度をもつようになりました。つまり、これは科学の話です」

「機内に爆発物がないか探知犬が検査した飛行機に、私たちは毎日搭乗しています。それは、生死に関わる判断です」

「そこでは犬に頼るのに、なぜ健康面では助けてもらわないのでしょう?」

がん探知犬は現時点では政府助成を受けていないが、保守党のイアン・ダンカン・スミス下院議員は変化を期待している。

ダンカン・スミス議員は妻のベッツィーさんを通じて、「メディカル・ディテクション・ドッグズ」の活動を知った。ベッツィーさんは乳がんを患ったあと、同団体の理事になった。

ダンカン・スミス氏は、「先駆的なこの調査は、人命を救うかもしれないというだけでなく、NHSの費用を数百万ポンド単位で削減できるかもしれない」と考えている。

Image caption ジェレミー・ハント保健相は、がん探知犬の研究報告の発表を待って検討する方針と

ジェレミー・ハント保健相はダンカン・スミス氏に対し、NHSの試験結果が発表された際には検討すると話した。

「こういうアイデアはいんちきだというレッテルが貼られてしまうこともあり、そのせいで、適切で迅速な対応がされないこともあります」

「調査結果が発表されたら、私が自ら、検討します。既成概念を疑ってみて、通常とは違う方法を検討し、主流派が度外視した可能性にも目を向けること。それも私たち議員の仕事のひとつですから」

我々議員の仕事の一つは、物事を行う方法について、正説に疑問を呈し、主流派が蓋をしてしまった可能性のある他の方法にも目を向けることです」

「良い調査なら、ぜひ知りたいと思います」

(英語記事 'My dog Magic, the lifesaver'

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