絶えず泡が噴き出す泥沼。果たしてこれは火山が噴火する予兆なのだろうか。
イタリアのシチリア島にあるパテルノーの町の周辺では、この泥火山の活動が活発になるのは、30キロほど離れたエトナ山に次の噴火が迫っている兆しだと信じられている。(参考記事:「【動画】溶岩の噴出が半端ない! 迫力のエトナ山」)
プレートの沈み込み帯に集中
エトナ山は、世界的に見ても有数の、そしてヨーロッパでは最も活発な火山だ。アマチュア映画製作者のサルバトーレ・アレグロ氏が最近撮影した動画には、灰色の水がごぼごぼと噴き出す様子が写されている。アレグロ氏によると、この沼はほぼ休みなく活動しており、周期的に温かい泥が噴出して、パテルノーまで流れ出ることもあるという。
この現象はエトナ山の噴火の前触れなのだろうか。イタリアのローマ・トレ大学の地質学者、グイド・ジョルダーノ氏の答えは明白だ。
「そんなことはありません。地球力学的に見れば、溶岩を噴出する火山(火成活動をともなう火山)と泥火山はまったく異なります」
泥水噴出孔とも呼ばれる泥火山は、その名とは裏腹に火山に関係があるとはかぎらない。ただ、泥火山も通常の火山も、沈み込み帯(一方のプレートが別のプレートの下に沈み込む場所)の周辺に多い。連動しているのではないかと思われているのも、そのためだろう。沈み込み帯は、地震や火山の噴火が起こりやすいホットスポットだ。(参考記事:「アラビア海に“ドロドロ”の島が出現」)
沈み込み帯では、地殻活動のほか、メタンや二酸化炭素といったガスの生成によって、地中の液状化した岩石や堆積物の層に強い圧力がかかることがある。その圧力が解放されると、泥火山の爆発的噴出が起こる。
通常の火山とは異なり、泥火山の温度は高くない。周辺の地表の温度と変わらないこともある。アレグロ氏によると、シチリア島で撮影した泥火山の水も21℃以上になることはほとんどないという。
4万人以上が避難したケースも
噴火の予測には役立たなくても、シチリア島の泥火山は地元住民や観光客に人気のスポットだ。規模も小さく、噴き出し方も穏やかなので、安全な観光地となっている。しかし、世界中のすべての泥火山が安全であるとはかぎらない。
2014年には、シチリア島南部のマカルベ自然保護区で、泥の間欠泉のすぐそばに立っていた女の子が噴出に巻き込まれて死亡する事故が起きている。
インドネシアでも、2006年の泥火山の噴出によって20人が死亡し、4万人以上が移住を余儀なくされた。被害額はおよそ27億米ドル(約3000億円)にも上る。この泥火山は、今後19年間にわたって泥を噴出し続けると予想されている。(参考記事:「泥に飲まれた村、インドネシア泥火山」)
ただし、この2006年の事例の要因は自然の力だけではないと考える地質学者もいる。2015年の調査報告では、現地での石油やガスの採掘が泥の噴出を招いた可能性が強く示唆されている。(参考記事:「アマゾンで『沸騰する川』を発見」)