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論文不正の元社員に無罪 東京地裁判決

ノバルティスファーマが販売する降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)=東京都千代田区で2014年1月8日、手塚耕一郎撮影

 製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤「バルサルタン」の臨床研究データを改ざんしたとして、薬事法(現医薬品医療機器法)違反に問われた元社員、白橋伸雄被告(66)に対する判決で、東京地裁は16日、無罪(求刑・懲役2年6月)を言い渡した。法人としてのノ社も無罪(同・罰金400万円)とした。辻川靖夫裁判長は元社員によるデータ改ざんを認める一方、医師に発表させた論文は「薬事法が規制する広告に当たらない」と判断した。

改ざんは認める

 元社員は京都府立医大の臨床研究でデータ解析を担当。バルサルタンに有利な結果が出るよう、別の降圧剤を服用した患者グループの脳卒中発症例を水増しするなどし、2011~12年に虚偽に基づく論文を医師に発表させたとして、同法違反(虚偽記述・広告)に問われた。

 判決は、公判で明らかにされた医師による患者情報の加筆について「不正ではあるものの水増しに関与したとは言えない」と指摘。第三者の関与を否定して「元社員が意図的にデータの水増しや改ざんをした」と認定した。

 一方で「発表させたのは学術論文であり、薬の購入意欲や処方意欲を喚起させる手段とは言えない」と指摘。元社員の行為は虚偽記述や虚偽広告には該当せず、罪にならないとした。

 無罪を主張していた元社員は、判決で改ざんが認定されると厳しい表情を浮かべていた。一方で元社員の弁護人は「極めて妥当で冷静な結論」と判決を評価、ノ社は「社会的、道義的責任を感じています」とコメントした。【近松仁太郎】

「学術雑誌、広告と言えず」

 薬事法は「虚偽または誇大な記事を広告、記述、流布してはならない」と定める。厚生労働省は、ノバルティスファーマ社が薬の宣伝のために大学の臨床試験結果を引用して専門誌に掲載した広告記事がこれに違反すると想定。容疑者を特定せず刑事告発したが、東京地検特捜部の捜査では、広告を出す権限がある幹部らがデータ改ざんを認識していた証拠は得られなかった。

 このため特捜部は、ノ社の白橋伸雄元社員が改ざんしたデータが使われた医師の論文に着目。バルサルタンを処方する医師が読めば、論文でも広告の要件である「顧客を誘引する手段」に当たるとして、虚偽記述・広告での異例の起訴に踏み切った。

 これに対し判決は、元社員の行為は一般的な学術雑誌への論文掲載と異なることはなく、薬の購入意欲を高める手段とは言えないと判断。ノ社側に論文を使った販売促進の意向があり、大学に多額の寄付がされていた経緯を考慮しても、違法とはならないとした。

 問題の調査に携わった厚労省幹部は「論文を読んで薬を処方した医師もいた。客観的データを装って販売を促進した問題に警鐘を鳴らすために刑事告発しただけに残念だ」と話した。検察幹部は「論文で薬の商品価値を高めたのは明らかなのに、判決は広告の意味を狭く捉えすぎている」と語った。【石山絵歩、桐野耕一】

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