映画『哭声コクソン』ネタバレあり感想・評価
あらすじ:警察官ジョング(クァク・ドウォン)が妻と娘と暮らす平和な村に正体不明のよそ者(國村隼)が住み着いて以来、住人たちは彼のうわさをささやいていた。やがて、村で突然村人が自分の家族を手にかける事件が発生する。犯人には、濁った目と湿疹でただれた肌という共通点があり……。(シネマトゥデイ)
製作国:韓国 上映時間:156分 製作年:2016年
監督・脚本:ナ・ホンジン
キャスト:クァク・ドウォン / ファン・ジョンミン / 國村隼 / チョン・ウヒ 等
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どうも、アバウト男です!
今回扱うのは【チェイサー】【哀しき獣】と立て続けに良作を生み出した韓国人監督ナ・ホンジンの最新作【哭声/コクソン】。今作にはあの國村隼が出演し、第37回青龍映画祭で監督賞や、國村隼が男優助演賞・人気スター賞のW受賞など5冠に輝き、前評判の高さを携えいよいよ日本に上陸。
予告からもその異様で陰鬱な雰囲気が伺えて、かなり期待値を上げつつ初日に観て来ました。ラストは僕なりの解釈として結果ネタバレしているので気をつけてください。これから観るつもりの人は、何も知らない方が断然楽しめますよ!
二転三転するオカルトサスペンス!
閉塞感漂う片田舎の村で身内を惨殺する事件が多発する。事件を起こした当事者は共通して謎の発疹が出ており、目は濁り茫然自失状態。その事件にあたる警官の主人公ジョングは、最近この辺りに正体不明の日本人(よそ者)がやって来たと噂を耳にする。
なぜこのような事件が起きるのか?あの日本人は多発する事件に関係しているのか?そんな最中ジョングの娘にもあの発疹が出始める。ジョングは森に住み着く日本人を問い詰めに行く…といった感じの話。
率直な感想から言うと、
なんとも凄まじい映画だった!
物語を飲み込むのに時間が掛かるというか、見ててどっぷり疲れる作品でした!映画が終わるやいなや劇場から「疲れた〜」の声が矢継ぎ早に出るような、精神を擦り減らす禍々しい一作です。
序盤は、あらすじからも感じれる範囲の、よくある片田舎を舞台としたサイコなサスペンスものなのかなと思いきや、途中から徐々に空気が怪しくなり、別のジャンルへと移行する。
村人にある日突然降りかかる殺人衝動を『悪魔が取り付いた』あるいは『呪いにかかった』と捉え、村人が祈祷師のイルグァンを呼び寄せ、盛大な厄祓いが始まる。
その儀式で悶え苦しむジョングの娘の変わりようは【エクソシスト】を彷彿とさせ、イルグァンと謎の日本人との『儀式合戦』はさながら【陰陽師】のよう。物語が一気にオカルトやホラーの領域に侵食して行った。
まさかこんな映画だとは…
これはすごく良い意味で裏切られましたね!前半は少々マッタリとしたテンポだったけど、方向性が変わった中盤からは、もう予測不可能な展開と得体の知れない緊張感で最後まで引っ張ってくれました!そしてラスト、観た人によって捉え方や解釈が異なって来そうな不明瞭且つ苦い幕引き、そして観客に深く不気味な余韻を残していった。
観終わった直後は頭がぼや〜っとしてたけど「これはなんか好きだな…」って感覚だけはずっと、あんまり出会った事のない不思議な作品でした。もう一度ストーリーを知った上で観直したくなる。
諸々の要素が良質!
この映画どこをどう切り取って話していいか分困るんだけど、キャスト・エグさ・美術やメイクの作り込み・不気味さ・脚本の奇抜さ・画の見せ方、諸々の要素の質がすごく高い!
直接人を殺す場面は無いんだけど、その殺人現場のじめっとした生っぽさや、儀式が行われる小部屋のあり様、発疹などの特殊メイク然り、美術やメイクさんが良い仕事してました。
特に祈祷師イルグァンが吐き出す血とゲロの量と勢いの凄いこと!あれどうやって撮ってんだろ?物凄く『吐き』が長いのよね!しかも真っ赤な血のあとに膿みたいに濁ったクリーム色に変わるディテールとか堪らん。それが地面で混ざり若干の坂道でじわ〜と帯状に広がって行く。あのシーンが観れただけで元は取れたなと!
他にも数を絞った適材適所なキャストの好演も目を見張る。國村隼演じる日本人の異物感もそうだし、ジョングの娘役の子の取り憑かれ演技も最高。顔がそういう顔してる!
【新しき世界】にも出てたファン・ジョンミン演じるイルグァンのふざけてんのか真面目なのか絶妙なバランスの儀式の様子とダンス、そしてクァク・ドウォン演じる父親ジョングの娘のために行き過ぎた行動を取る姿はドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作【プリズナーズ】のヒュー・ジャックマン演じた父親ともダブった。
個人的にはジョングが犬を殺した時点で「こんな奴には天罰が下れっ!」とは思ってたんだけど。
噂話・先入観・思い込み
この映画、警官で父親のジョングが不可解な出来事や不可解な人物や言動に、抗いながらも結局は為すすべなくひたすらに翻弄されていく話。何が正しくて何が偽りなのか?そもそも正解などあったのか?
閉塞的な村の環境下であったり、一人娘を思う父親であることもそうだけど、村を曲がりなりにも守っている警官という立場も拍車をかけるように、噂・先入観・思い込み・悪夢・勘など、不確かなものに感情に身を任せた結果、ジョングはどんどんと深みにハマっ行く。
突如現れた山に住み着く怪しい日本人・呪いを打破できる救世主的存在の祈祷師・事件を目撃した小汚い女… ナ・ホンジン監督が仕掛ける映像やセリフによるミスリードも含めジョングと共に観客もいつしかその渦に飲み込まれ翻弄されて行く。
自分なりの解釈 ※結末ネタバレ
最終的な着地は、國村隼演じる日本人は一体何者なのか?祈祷師イルグァンは果たして味方なのか?目撃者の女は人間なのか?何なのか?という事だと思うんだけど、
やっぱりラストの國村隼の変わりようを見ると日本人の正体は『悪魔』で、目撃者の女は対極の『天使』『村の神』的な存在なんだろうな。じゃあ祈祷師のイルグァンはどうなのかと言うと、彼は悪魔(日本人)の手先だった。人間だけど祈祷師ということで、恐らく悪魔の声を聞ける橋渡し的な役割なのかなと。
手先の要因としては、日本人と同じ"ふんどし"を着用してこと/女(天使)の攻撃を受けた事/日本人が壁に乱雑に貼っていたターゲット(村人)の写真をイルグァンも持っていた事。
なので、中盤の日本人の儀式がジョングの娘を苦しめ、イルグァンの祈祷がそれに対抗しているように見えたあの『儀式合戦』も観客を混乱させるミスリードだったのだ。あくまでも日本人が儀式に用いていたのは後にゾンビ化する男の写真だったし、日本人が苦しむ傍にはあの女がいた。逆にイルグァンの儀式でやって見せた杭打ちが、悶え苦しむ娘の反応とリンクしていた。
この映画、実際行われたり・台詞に惑わしの嘘が混じり、いかにも危うい夢や噂話が、実はあながち間違っていなかったって作りは意地悪だなと思う。
他にも想像の部分も多いけど、
- 悪魔が村に目を付けた理由は不明
- 疫病みたく殺人衝動を駆りたてる『魔』を村にバラ撒き、死を蔓延させる
- 悪魔より天使の方が力は強い
- 悪魔は人に直接触れられない/ジョングに詰め寄られた時に何もしなかったのはそのせい?/触れることができても身体を借りた日本人程度の力
- 悪魔はその代わり人を惑わし陥れ、その人に『決断・行動』させることはできる
- 魔(呪い)をかけ→発疹→人殺し&茫然自失状態の抜け殻→儀式→ゾンビ化、この一連の行程で悪魔の軍団を作ろうとしていた?
- 天使も悪魔と同じく人に直接触れることは基本しない or 出来ないが、終盤のジョングの手を握ったあのシーンは、それさえも超越した天使の本気の想いから、ある意味禁じ手
- 天使にも人間の意志決定は止められない
- イルグァンは『魔』をより定着させるダメ押し的な役割を担っていた
- イルグァンがジョングの家を訪れたのは、娘に魔が定着して家族を殺したかどうか見に来た?
- 車に跳ねられ使い物にならなくなった日本人の身体を捨て、ラスト悪魔が真の姿を現した
- 写真はターゲットに『魔』をかける儀式&魔に染まった後のゾンビ化の儀式に不可欠な媒介だったのでは?
そんなところでしょうか!?
「全然違ぇよ!」って声もありそうだし、ところどこと想像で補うしかなかったり、もう一度観直さないと一回じゃ拾いきれないですね。
正直ラストの國村隼のメイクはやり過ぎでかなと、あそこは目が赤く光るくらいで終われせておけば、もうちょっと余韻度が増した気がしました。「これも夢なのか?」的な。
よく漫画やドラマに出てくる表現として、耳元で『天使と悪魔』が囁いて主人公に究極の選択を迫るシーンがあるけど、まさに"それ"を韓国映画特有の生々しいサスペンスの中に入れ込んで来たのは面白かったですね。ファンタジック一歩手前をキープしつつ魅せ切った!
他のエグめな韓国映画とはまた一線を画す、フレッシュでどこか憎めない一作でした!
まとめ
評価:★★★★ 結構良かったぜ!
情報が多いと受け止めきれない僕はあまり向いてないんだけど、考察好きな人はかなり美味しい素材なんじゃないでしょうか?長いこと噛んでいられるガムみたいな。
摩訶不思議な物語の中に、似つかわしくないオフビートさも入っていたり、振り返ってみても変な作品だったな。1度知った上で2度目見たら多分満点を付ける作品だと思います!やっぱり劇場で観られる内に観ておくべき作品なんじゃないでしょうか。
パンフ買うんだったな〜!初日は立ち見続出でオンライン予約していた人の発券が間に合わなくて、携帯の予約画面を見せて入ったのは初めて。ちょっと早めに行った方が良いですよ。
[ 予告編 ]
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今回の感想で入れられなかったひと言:
韓国の田舎の風景って日本とそんな変わらない雰囲気ですね。一瞬これ日本で撮ってるのか?と思ったくらい。國村隼がいるせいか!?