サウジアラビアのサルマン国王が日本を訪れた。サウジ国王の来日は46年ぶりだった。

 安倍首相との会談で、経済を軸に、文化や防衛など広い分野で交流を深める合意をした。

 国王は、中国も含むアジア各国を歴訪中だ。閣僚や王族ら1千人以上を連れてきた意気込みの背景には、世界最大の石油輸出国が抱える悩みがある。

 歳入の7割を頼る原油の価格低迷で財政赤字が膨らんだ。世界的な省エネ、脱化石燃料の潮流に加え、シェールガスの台頭で今後も原油需要の大幅な伸びは見込めそうもない。

 オイルマネーに頼る国家運営の限界が見える一方、若年層を雇用する産業が十分にない。

 01年の米同時多発テロでは、実行犯の多くがサウジ出身だった。若者の不満の蓄積は、過激思想の温床となる。サウジを最大の原油輸入元とする日本にとって、この国の安定は死活問題だ。「脱石油」の改革を後押しする意義は十分ある。

 しかし一方で、外交の基盤とすべき価値観の原則を忘れてはならない。

 サウジは絶対君主制の国だ。国際社会が普遍的な共有をめざす自由や人権が厳しく制限されている。その統治に対しても、改革を求める責任を日本はおろそかにしてはならない。

 イスラム教の中でも厳格なワッハーブ主義に基づく政教一致を国是としており、政党活動は禁じられ、表現の自由も規制されている。女性の地位は低く、車の運転もできない。

 これまで西側社会は石油と引き換えに非民主的な体制をほぼ黙認してきた。だが、サウジが真に改革を望むのならば、体制そのものも見直すべきだ。

 サウジが掲げる成長戦略には女性の労働参加推進なども盛られてはいる。だが、それがかけ声だけに終わらぬよう、日本は注視していく必要がある。

 サウジの対外政策についても懸念がある。近隣のもう一つの大国イランと昨年、断交した。サウジは、欧米がイランと結んだ核開発をめぐる合意に反発している。両国の対立の悪化は、中東の深刻な緊張を招く。

 サウジ南隣のイエメンの内戦は、サウジとイランの代理戦争と化している。サウジなどによる空爆の人道被害は、戦争犯罪との指摘もある。日本の防衛協力は慎重であるべきだ。

 イランとも良好な関係を保つ日本がなすべきは、両国の緊張緩和を粘り強く働きかけていくことだ。目先の商機だけにとらわれず、長い目で中東の安定に資する支援を強めたい。