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保健室で昼食を 作者:よたか
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第一章 セーラー服の行方【1】

物語の途中、精神疾患を示唆する表現があります。一応、書籍等で確認を取りましたが、医学的根拠はございません。予めご了承ください。
 いま、何も無い世界。
 人も、光も、闇も、音も、重力も、何も無い世界。
 探ろうとして、手を動かしても、どこにも届かない。
 立ち上がろうと思って、足を伸ばしても、地面がない。
 怖くて、叫びたくなった。でも、声が出ない。
 あるのは、わたしの意識だけ。
 世界の終りとか、始まりとかって、こんな感じなのかなぁ?
 そうか、おわりだ。わたしの人生が、おわったんだ。 
 死後の世界なんて無いと思ってたのに、あったんだなぁ。
 でも、お花畑も、三途の川もない。
 天使が迎えに来る事も、閻魔さまも居ないみたい。
 こんな、何も無い世界ならなくてもいいのに。
 それでも、時間は十分にあるらしい。


第一章 セーラー服の行方

 葉山はやま亜衣里あいり。13歳。女子。
 あぁ、やられちゃった。6時間目の体育が終わって、更衣室へ行くと、わたしのセーラー服がロッカーの中に無い。ちゃんと鍵閉めてたのに、鍵もあまり役に立ってなかったみたいです。扉の逆側が開います。
 残念だけど、友達もあまりいなくて、カラカワレルというか、イジメられる事があって、たまに靴とか隠されちゃったりするんだけど、さすがに、セーラー服まで無いのは初めてだった。おまけに、替えにもってきたブラジャーまで無い。
 セーラー服もショックだけど、下着取られたのはもっとショック……。もし、男の人がブラジャーとか手に入れたらどうするんだろ。付けたりするのかな?
 あぁ、いやだ。なんかいやだ。
 そんな事考えているうちに、他の女子達は、どんどん着替えてる。体操服のままのわたしの事なんて居ないみたいに気にしないで着替えていく。
 こんな風に、置いて行かれる感じが、たまらなくイヤ。でも、どうしようもない。消えてしまいたくなる。
「葉山さん」あっ、誰か声を掛けてくれた。小山さんだ。助けてくれるの?
「はい」半泣きになりそうな声で、返事をすると、呼びかけた小山さんが、2メートルくらい引いた感じがした。
「葉山さん。あの、先輩があんたにって……」入学して、もう1ヶ月。仲のいい女子たちは、名前で呼び合うのに、わたしを、名前で呼んでくれる人は、誰もいない。
「あ、ありがと。小山さん」そう言って、差し出されたのは、折り畳んだレポート用紙だった。わたしにレポート用紙を渡すという、とてつもなく面倒な用事を済ますと、着替え終わった小山さんは、フイっとそっぽを向いて、更衣室から出て行ってしまった。
 ドアが開いても、外からは見えないように引いてある、黄色い化繊のカーテンが、少し揺れた。
 更衣室には、もう数人。わたし以外は、ほとんど着替えを済ませてる。レポート用紙を開いて中を読むと、名前も書いてない伝言だった。あわてて書き忘れたか、ワザと書いて無いのか……。
『セーラー服とブラ借りたよ〜。放課後に体育倉庫で返すから、一人で取りに来てね』
 内容からすると、ワザと名前を書いて無いような気がする。
 どうしよ。女の子の文字みたいだけど、一人で放課後の体育倉庫なんて、ちょっと恐い。誰かついて来てくれないかな。って今でも誰も声かけてくれないのに、ついて来てくれる人なんているわけない。
 わたしが、忍者ならこんな時、迷わず影分身使うのにな。そしたらきっと心強い。
 先生に言った方がいいのかな。でも『ひとり』って書いてあるし、どうしよ。
 もう、このまま帰っちゃおうか。ランニングしてるフリして帰ればきっと大丈夫だよ。
 でもそうすると、お弁当箱とか、臭くなっちゃうかも……。やだな。
 あぁ、でも『一人で来い』って書いてあるけど、誰にも言うなって書いて無いから、相談するのは、別に構わないかも知れない。本当は構うかもしれないけど、ちゃんと書いてない方が悪いに決まってる。
 えっと、こんな時は、まりも先生だ。
 まりも先生は、校医の先生。わたしみたいなボッチの生徒が、一番安心して相談出来る先生です。この前も、靴隠された時、一時間もわたしを慰めてくれた。
「亜衣里は仕方ないねぇ。でもね、辛かったらいつでもおいで」って言ってくれる。
 結局、この学校で、わたしが話できるのは、まりも先生だけなんだけど……。
 そういうわけで、体操服のまま、伝言が書いてある紙を持って、保健室に行った。行ったんだけど、保健室には鍵が掛かってて、だれも居ない。
 まりも先生でも、外出するんだ。いや、するだろう。
 ひとりで突っ込んでみた。ちょっと寂しさが増す。
 行けば、いつでも居ると思ってたので、がっかり感が5割増した。
 でも、今から行って、セーラー服返してもらえれば、帰りのHRは間に合うかもしれない。そしたら、なにも無かった事にして帰れるから、大丈夫だ。
 なにが大丈夫なのか、良くわからないけど、その時は大丈夫だと思ってしまった。思ってしまったから、そのまま、スニーカーに履き替えた。
 そして、体育倉庫に向かってしまった。
 体育倉庫の扉はあいてる。きっと誰か居るんだ。
 引き戸を半分くらい開いて、中を見る。跳び箱や、マットなんかがうっすらと見える程度の明るさで、誰かが居るようにも思えない。
「あの〜。だれか居ますか〜」わたしのスペックでは、あまり大きな声は出ない。
 中に入るの恐いし、入り口で声を掛けるけど、中からは返事が無かった。
 中からは返事がなかったけど、すぐ後ろから「あんたが、一年の葉山?」と、先輩らしい人の声がした。
 驚いて、振り返ると、すこし派手なお化粧をされた、先輩が2人立ってみえて、わたしをにらみ付けてる。まずい、いじめられる。心の中で、もう一人のわたしが叫ぶ。
 手には、大きめの紙袋を持ってるので、その中にわたしのセーラー服が入ってるのかもしれない。
「は、はい。葉山です。セーラー服を返して……」と言いかけたところで、先輩は、
「これ貸してくれてありがとうね。今から使うの。だから、ちょっと待ってて。そうそう、面白いから、あんたも見て行きなよ」と言われた。
「えっ、でも……」と、反論する間もなく、体育倉庫に押し込まれ、扉を閉じられてしまった。
「先輩。出してください」中から叫んでも無駄。誰も答えてくれない。
 なんか悲しい。セーラー服取られて、誰にも心配してもらえなくて、一人で体育倉庫に来て、閉じ込められて、一体何してるんだろう。
 少し泣けてきた。
 でも、誰か入って来て、見られて、バカにされるのもイヤだったので、棚の一番下に潜り込んで隠れて泣いた。
 でも、こんなに暗い、だれも居ないところで泣くと、余計、悲しくなってくる。
 涙は流れてる。泣いてる。それでも、体育倉庫の中の暗さに目が慣れて来て、あたりが見えるようになってきた。
 隙間から漏れる光が、床にこぼれてる白い石灰を照らしてる。跳び箱やハードル、高飛びのバーなんかは、わりと入り口の側にあるけど、年に1度くらいしか使わない玉入れのカゴなんて、一番奥に追いやられている。
 そうやって、回りを見てると、少し落ち着いて来た。
 とにかく、ここから出ないと……。やっと気持ちが切り替わって、どうやって、ここを出ようか考えていた時に、引き戸が開いた。
Kindleセレクトに登録する為、二部以降を非公開とさせていただきました。ご了解ください。
Kindle版 http://amazon.jp/dp/B00KLMO7NI
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