40万年前の頭蓋骨、ネアンデルタール人の祖先なのか
査読学術誌の米科学アカデミー紀要(PNAS、電子版)に掲載された研究論文によると、アロエイラ(Aroeira)洞窟遺跡から発掘されたこの化石は、ポルトガルでこれまでに発見されたヒト頭蓋骨の化石としては最古級のものだという。
だが、この頭蓋骨をめぐっては数多くの謎がある。頭蓋骨の持ちが男性のものなのか女性のものなのか、どのようにして死亡したのか、さらにはどのような種類の初期人類なのかすらも分からない。
論文の共同執筆者で、米ニューヨーク(New York)州ビンガムトン大学(Binghamton University)の人類学者のロルフ・クアム(Rolf Quam)氏は、AFPの取材に「これらの化石がどの種に相当するかについては、不明な点が数多くある。私は、ネアンデルタール人の祖先であるとの考えに傾いている」と語る。
クアム氏は、「これは、ネアンデルタール人そのものではない」として、耳の近くにある「乳様突起」と呼ばれる骨の突起部などの「後のネアンデルタール人と関連していると思われる特徴をいくつか有している」と指摘した。
研究者らによると、この骨は耳内の圧力の調節に関係している可能性があるが、正確な用途は不明だという。
骨の形成に基づいて断定できるのは、頭蓋骨が成人のものであることだ。頭蓋骨とともに発見された数個の歯は、子どもではなく大人の歯であるかのように、摩耗の跡がみられる。
また、頭蓋骨の年代は、周囲の石筍と堆積物の精密な年代測定に基づき、40万年と判明した。
ポルトガルの頭蓋骨には、スペイン北部で出土した約43万年前の骨と、仏南部で出土した、それよりさらに時代をさかのぼる45万年前前後の骨とに共通してみられる特徴がいくつか見られた。
ポルトガル人考古学者のジョアン・ジルヤオ(Joao Zilhao)氏と共同研究者らと論文を共同執筆したクアム氏は「人類学の論文では現在、これらの化石を何の種と呼ぶべきかをめぐって多くの議論が交わされている。あまり意見の一致はみられていない」と述べた。
■石器
今回の出土地は、これまでに欧州地域で発見された中期更新世のヒト化石の中で最西端に位置する。
ここはまた、前期旧石器時代のアシュール型(Acheulean)石器群に関連づけられる欧州で最古の場所の一つでもある。アシュール石器は、欧州最古の人類の間で使われていたものよりも進歩した石器群だ。
涙型の握斧(あくふ)などを含むアシュール型石器は、それ以前の石器に比べて製造がより複雑化している。アフリカを起源とするアシュール型石器は、50万年前頃に中東経由で欧州に進入した可能性が高い。
アシュール型石器が40万年前にはるばる西欧まで到達していたことを示す痕跡の発見は「同石器が比較的速やかに欧州全体に広まったことを意味している」と、クアム氏は指摘する。
■幸運だった頭蓋骨の発見
まだ未解明な部分が多いが、頭蓋骨を発見できたのは幸運以外のなにものでもないと研究チームは感じている。すんでのところで見逃されるところだったためだ。
セメントのように硬い堆積物の中にその輪郭を垣間見せていた頭蓋骨が発見されたのは、2014年の発掘計画の最終日。発掘作業員らは1週間かけて、頭蓋骨を含む岩の塊を地層から苦労して切り出した。その作業中、頑丈な破砕ハンマーの一撃が頭蓋骨を粉々に打ち砕いてしまったこともあった。
岩の塊から頭蓋骨自体を取り出す作業には2年半を要した。
頭蓋骨の画像には丸い穴があるが、これは発掘作業中に受けた損傷の跡だ。
研究チームは「人類の祖先に当たるこのヒト属の同地域での生活や洞窟での生活、そして進化の場所に関するより完全な全体像を得るために」今後数年かけて、頭蓋骨とその周囲の詳細に関する究明を進める予定だ。
【翻訳編集】AFPBB News